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動画史が予測する「動画ビジネスの未来」(2)

スマホシフトで、動画コンテンツはどう変わるのか

2015/1/23
デジタル化、ソーシャル化、スマホシフトなどにより、大きく変わりつつあるテレビ業界。その中でも、最大のテーマのひとつが「動画」だ。これから動画はどのように発展していくのか、勝者となるのは誰なのか。TBSテレビ編成局コンテンツ戦略部の柳内啓司氏が、動画の歴史を紐解きながら、動画の未来を予測する。
第1回:動画100年史から探る、動画ビジネスの勝者

デバイスが変われば、最適なコンテンツも変わる

前回の記事で、「手軽さ」こそ、動画デバイス普及のキーファクターなので、スマホ上の動画再生は伸びるだろうという指摘をしました。

では、スマホ上での動画が伸びたとき、動画コンテンツそのものには、どんな変化が起こることが予測されるのでしょうか? 実はこれに関しても、これまでの動画史にヒントが多く転がっています。動画史を振り返ってみて、一貫して言えること。それは「視聴環境が変わると、動画もそれに合わせて最適化される」ということです。

映画とテレビの違いを例に、このことを考えてみましょう。

テレビでは、番組名や企画概要を画面の端に文字で表示したりします。(業界では「サイドスーパー」と言います)これは、番組途中から見始める人たちや「ながら視聴」をする人たちにも番組内容が分かるように配慮した演出です。これも、テレビ番組がテレビというデバイスに適応するために変化した、テレビならではの知恵と言えます。
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逆に、映画で「この後、主人公に予期せぬ悲劇が…!」などというサイドスーパーが画面に出ていたら興冷めですよね。映画というのは、外部の騒音から遮断された映画館に着席して、最初から最後までどっぷりと鑑賞してもらうことを前提として作られたコンテンツです。そのため、これまでのあらすじを途中で振り返ったり、作品の概要を字幕にして、出したりする必要がないわけです。

他のテレビ独特の工夫として、「CMキューカット」というものがあります。CMに入る直前に、「この後、まさかのハプニングが!」のような文字とともに、オチ手前の映像が数秒挿入されます。あれは、CM直前に結末が気になる映像を入れて、テレビの生業であるCMを見ていただくための工夫です。

また、映画とテレビの違いとして、動画の尺(時間)も注目すべきでしょう。一般的な映画の平均上映時間は120分前後と言われていますが、テレビの場合、バラエティーの1コーナーだと十数分程度、ドラマでも1時間が普通です。

これも視聴環境の違いに由来するものと言えます。前述のように、映画は最初に観客がお金を払って、基本的には最初から最後まで観るという「約束」のもと、鑑賞するコンテンツです。そのため、鑑賞者はそれなりの時間を確保して、見てくれるわけです。

これに対して、テレビは他チャンネルの番組、携帯電話の着信、家族からの呼び出しなど、色んな「誘惑」を振りきって、見てもらう必要があります。雑多な通りを歩いている通行人の目を、一瞬で奪わなければいけない大道芸人のように、かなりタフな環境で動画を見てもらわなければいけないのです。

「郷に入っては郷に従え」と言いますが、新しいプラットフォームには、それに最適なコンテンツの見せ方や時間が存在するということを、動画史は私たちに教えてくれます。

スマホユーザーは浮気症

スマホ向け動画においても、テレビとは違う演出方法や最適な尺が変わってくると思われます。スマホでの動画視聴環境の特徴として挙げられるのは、ラインやフェイスブックのプッシュ通知、電話の着信など、たくさんの「誘惑」を受けやすく、動画視聴を中断して、別のアプリに「浮気」するケースが多々あるということです。この性質上、スマホ向け動画の尺は、テレビよりさらに短くなることが予測されます。

ちなみに、動画共有プラットフォームである「Vine」は、投稿できる動画尺を最大6秒としています。この理由をVineの共同創業者Hofmann氏は「10秒、9秒を試し、さらに5秒を試していたが、どれもしっくりこなかった。そして、クリエイターたちが求めていた美の感覚を保ちながらも、投稿のスピード感を保つことができたのが6秒だった」とインタビューで述べています。

Vineは、あくまで一般のユーザー投稿を主としたプラットフォームです。プロのクリエイターであれば、6秒以上の魅力的動画を制作していくことが十分可能でしょうが、テレビ以上に序盤で視聴者の心をつかむ動画を制作する必要があるでしょう。

例えばですが、テレビ番組では冒頭に番組全体の概要を見せるVTR(アバンVTR)を30秒位で作ったりしますが、スマホでは数秒くらいでそれを見せる必要があるかもしれません。スマホユーザーは、Facebookで友達の近況を知り、LINEで友達とスタンプし合うのに忙しいのですから。

これまで、動画史を振り返りながら、スマホシフトにおける動画の変化を考えてきましたが、明日掲載の次回の記事では、ゲーム業界のスマホシフトを参考にしながら、動画の未来を探したいと思います。

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