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Chapter1:日本とアジアのグローバル化

今のアジア企業は、どれだけすごいのか?

2015/1/22
これからのグローバル化社会で戦っていける「強いリーダー」を生み出していくためには何が必要なのか? そのために何をするべきかを長年伝えてきたのが元マッキンゼー日本支社長、アジア太平洋地区会長、現ビジネス・ブレークスルー大学学長の大前研一氏だ。
本連載は大前研一氏総監修により、大前氏主宰経営セミナーを初めて書籍化した「大前研一ビジネスジャーナル」(初版:2014年11月7日)の内容を一部抜粋、NewsPicks向けに再編集してお届けする。今回は近年世界の注目を集めている「アジアのグローバル化」がテーマだ。アジア経済を「中国」「インド」「台湾」「韓国」「ASEAN」に切り分け、各国・地域の有力企業の現状を分析。これからの日本企業がアジアのグローバル企業にどう対応していけばよいのか、を考える。
【ビジネス・ブレークスルー運営 向研会セミナー(2014.2開催)を基にgood.book編集部にて編集】

キーワードは「分別のなさ」

最近、「アジア企業の成長、グローバル化がすごい」という声をよく耳にします。そこで今回は、「アジア企業のグローバル化の実態はどうなのか」「彼らは将来、日本にドッと攻め込んできて脅威になるのか? それとも日本と同じように、勢いのいいときと若干陰ったときがあるのか」、このあたりを見ていきたいと思います。

まず、現在のアジア企業がどれだけすごいのか? ということですが、かつての日本企業と比べて見てみましょう。

企業を評価するひとつの指標として、「フォーチュン・グローバル500(Fortune Global 500)」があります。これは、フォーチュン誌が毎年発表している世界のグローバル企業のランキングで、詳しくは後ほど説明しますが、このグローバル企業500社に入っている日本企業の数は1995年にピークとなり、149社を占めていました。当時は世界のトップ企業500社のうちの149社が日本企業だったのです。

ところが、2013年時点で中国(89社がランクイン)に抜かれてしまい、「中国はすごい!」と言われるようになりました。しかし、比べてみると当時の日本はその比ではなかったのです。

みなさん、歴史というものを忘れるのが早いのですが、今から20年くらい前に、欧州の人やアメリカ人に、「日本企業のブランドで知っているものを挙げてみてください」と言うと、誰でも20個くらいは言えました。ソニー、ホンダ、トヨタあたりは当たり前で、その他にもたくさん言えました。

今、韓国の企業で、知っているブランドを言ってみてくださいと言っても、なかなかすぐに出てきません。サムスン電子が韓国企業だということを知らない人も多いし、ヒュンダイ(現代自動車)などもよく知らない。せいぜい三つで終わりです。

しかし当時、日本企業のブランドは、多くの人が特にヒントもなくスラスラと20個は言えたのです。さらに「こういう企業(ブランド)を知っていますか?」と重ねて訊くと、「あー、それはよく知っているよ」と、50以上のブランドが挙げられました。

カメラメーカーを言ってみてくださいと言うと、オリンパス、ペンタックス、ヤシカと10個くらい挙げられましたし、音響メーカーであれば、サンスイ、アカイ、ティアックといった具合にいくつも出てきました。今ではもうなくなってしまったものも多いですが、日本はこうした世界的に有名なブランドをいくつも確立していたのです。これはそれまでのアジアでは全く例がなく、ブランドのグローバル化において、日本はアジアを代表していました。

しかし今、日本企業、日本ブランドに元気がありません。ではなぜ30年前、20年前にはあんなことができたのかと考えると、その理由は、今のアジア企業が盛り上がってきている背景と同じになります。

その理由を端的に言うと、要するに“分別”がなかったのです。当時の日本企業というのは分別なくやっていたのです。「米国市場を落としたら、もう将来はないぞ!」という感じで必死だった。英語もできない松下幸之助さんや、本田宗一郎さんが、そういうところを先頭に立ってやっていたわけです。

ですから、今のアジア企業を見て、日本人を含め皆が「いやー、彼らはすごいな」と言いますが、実は我々日本の先輩たちのほうが、圧倒的にすごかったのです。それがダメになった理由は、分別があるということと、それから、日本企業に“無から有を作った経験のある経営者”が少なくなったからです。

アジアブランドの躍進

現在のアジア企業に話を戻しますと、どの国も世界的に通用する有名なブランドを創り出そうと頑張っていますが、アジアでは、かつての日本企業のようなグローバルブランドを生み出すのに苦労しています。ただ、その中で躍進しているブランドもあります。例えば台湾の「ジャイアント」です。ジャイアントは自転車で世界一のメーカー、ブランドになりました。

それから、ホテルです。シャングリ・ラはマレーシアのロバート・クオックという男がスタートさせて、香港とシンガポールに拠点を作ってやっています。それから、マンダリンとペニンシュラ。この3つがトップクラスのホテルチェーンとして、アジアはもとより世界的にも有名になっています。

アジアでトップのホテルと言えば、かつてはいわゆる御三家と言われた、帝国ホテル、ホテルオークラ、ニューオータニでした。私が通訳案内業をやっていた頃は、世界のビジネスマンは皆「ホテルオークラが世界で一番だ」と言っていたのです。ところが今や、ホテルの世界でトップの座はアジア勢に奪われてしまいました。

日本企業の元気がなくなった一方で、今、アジア企業が元気である。なぜかと言うと、そこには、日本の戦後第一世代が、分別がないと言われるような蛮勇を奮って、難しいマーケットに突っ込んで行ったのと同じ姿勢、そのような態度を取っているアジアの経営者がたくさんいるからです。だからアジア企業が強く、グローバル化にも拍車がかかっている。

このようなアジアの企業を、日本は競争相手と見るのか、それとも協力相手と見るのか? 彼らが日本市場に入ってきたときに、彼らと組んで、他の日本企業にない強さを導入するのか? このあたりが今後の日本、日本企業にとって非常に重要な課題であると言えます。

フォーチュン・グローバル500で見るアジア企業

では、アジア企業のグローバル化の現状を、具体的なデータに基づいて見ていきましょう。
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図—1は、先ほど述べた「フォーチュン・グローバル500」(世界のグローバル企業500社)の、国・地域別企業数の推移です。
左側のグラフを見ると、2005年以降、日本以外のアジア企業の数が爆発的に伸びていますが、右側のグラフを見ると、その大半は中国の企業です。2013年時点で中国89社。次に多い韓国は14社しかありません。それから、インドが9社、台湾が6社、シンガポール2社、マレーシアとタイがそれぞれ1社です。

図—2では、「フォーチュン・グローバル500」に入っているアジア企業の数を、国別に1990年からグラフ化してみました。
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冒頭でも紹介したように、日本のピークは1995年の149社。2013年には62社まで落ち込み、ついに中国に抜かれてしまいました。ここだけ見ると、やはり、「伸びる国と、沈む国」という印象を受けます。

1995年というのは、マクロ経済指標で見たときの日本のピークです。1人当たりGDPをはじめ、あらゆる数字で日本が世界一になりました。日本はあの状態を維持していればよかったのです。しかしその後、何となく下向き、内向き、後ろ向きと、三拍子そろった日本人ができてしまった。そこが大きな問題です。

デジタル化による競争構造の変化

2000年を越えてからは、デジタル化という大きな技術変化が起こりましたが、これが日本にとっては非常に大きなマイナスになっています。実はデジタル化において世界を先導したのはソニーです。ところが、本格的なデジタルの時代になってひっくり返ったのもソニーなのです。皮肉なところです。

これは「デジタル化というのは先行優位ではない」ということを示しています。後から来た企業が、スピードとスケールで勝負することを可能とするのがデジタル化の時代なのです。

イ・ゴンヒさんはサムスンを世界一のエレクトロニクスメーカーにしたわけですが、サムスンもソニーの作り上げた技術というものを使って一気に躍進しました。2013年、サムスンは売上高22兆円、利益は3兆6000億円です。日本のエレクトロニクスメーカーを全部足してもここまでいきません。これは、サムスンがデジタル化というチャンスに乗じて、スピードとスケールで勝負に出た結果です。

デジタル化は恐ろしいです。最初に新しい技術を開発したとしても、スピードとスケールで勝負されたら負けてしまう。日本が導入したデジタル革命というものの犠牲者が日本自身であったというわけです。

サムスンに比べると、日本企業は、内向き、下向き、後ろ向きで、ソニーなどは、次はネットワークとソフトだとか、これからはエンタメだ、などと言ってそちらに重きを置くようになった。サムスンが出てきたとき、足を止めてサムスンと戦っていれば、絶対、ソニーのほうが勝っていたと思います。そういう点で、ソニーだけでなく球から目を外した日本のエレクトロニクスメーカーは全部やられてしまった、というのが実態です。

やはり、日本の戦後第一世代のように、無鉄砲で分別もなく、よし、やるぞと思ったら勝負をかけるというトップがいるサムスンのようなアジア企業が今、非常にうまくいっているわけです。

【ビジネス・ブレークスルー運営 向研会セミナー(2014.2開催)を基にgood.book編集部にて編集】

※本連載は毎週月曜日と木曜日に掲載予定です。

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