2023/1/11

使える英語は「狭く」「小さく」「明日から」始めよう!

News Picks Brand Design Senior Editor
 何年経っても英語が話せるようにならない‥‥‥。
 そんなビジネスパーソンは「英会話ができる」から「得意な場面で使える」に学習の焦点を絞ってみてはどうだろうか。 
 今回、英語学習について話を聞いたのは、スタンフォード大学オンラインハイスクールの校長で、オンライン学習にも詳しい星友啓氏と、ロンドン在住のイラストレーター、作家、ミュージシャンとして活躍し、『英語日記BOY 海外で夢を叶える英語勉強法』(左右社)の著者でもある新井リオ氏だ。
 二人によると、多くの日本人は「英語ができるようになってから使う」という誤った完璧主義に陥っているという。
 まずは英語を「狭い範囲から」「小さく」「明日から」始めるべきだという両氏。
 ビジネスパーソンが知っておくべき英語の学び方、活かし方を伺った。
INDEX
  • もし、あなたに「英語力」があったら。
  • 職人気質がもったいない理由
  • 完璧主義が最大の敵
  • 「学んでから」ではなく、「学びながら」
  • 目標への正しいアプローチ

もし、あなたに「英語力」があったら。

──「日本にいれば英語なんてできなくていい」という意見もあります。あらためて、英語ができることのメリットを教えてください。
星 ビジネスの視点から言えば、英語圏は世界のGDPの4分の1を占めています。英語が通じる国まで含めれば、世界のGDPの半分以上に達します。
 一方で日本のGDPは世界の5%程度に過ぎません。
 人口面で見ても、英語を母語にする人は世界で5人に1人。日本語は80人に1人です。
 こうした数字を見れば、英語が話せると選択肢が多く、経済的なチャンスが大きいことは明らかです。
──確かに同業種の外資系企業に転職して、年収が上がったという話はよく耳にします。
星 そういったキャリアアップの話は以前から多いですよね。
 従来は英語ができることによって、日系有名企業から外資系有名企業への転職が花形ルートだったと思います。
 近年は英語ができることの恩恵が幅広い仕事に及んでいますね。
 私が住むアメリカ西海岸では、円安や日本食ブームもあり、和食の職人さんなどの求人が年収1000万円以上で出ています。
──職人以外にもそういった事例はあるのでしょうか。
星 私の友人で、日本の大手飲料メーカーでペットボトルのお茶を作っていた会社員がいました。
 彼は「世界に抹茶を広めたい」と、「抹茶版エスプレッソマシーン+抹茶リーフのサブスク」のサービスを作り出しました。
 抹茶が世界ではまだ珍しく、市場がブルーオーシャンであったこと、アメリカ西海岸というスタートアップの聖地で出資を受けられたことによって、順調に事業を拡大していきました。
 抹茶に目をつけた彼の目の付け所は素晴らしいと思います。
World Matcha Inc.を創業した塚田英次郎氏。サントリー株式会社入社後、21年間、日米で、飲料事業の新商品開発、新規事業開発を行う。抹茶の飲用機会を世界へ拡げるため、2019年1月米国でWorld Matcha Inc.を創業。商品は、CES 2020 イノベーション賞、Time’s Best Inventions of 2020、iF Design Award 2021、グッドデザイン賞 2021など、世界で7つの賞を受賞する一方、塚田氏個人も、Financial Timesで「What the Steve Jobs of drinks is brewing up next」と紹介され、世界の注目を集めている。
 ただ、彼のような「まだ知られていない日本の魅力を発信する」という軸で考えると、ブルーオーシャンはまだまだあります。
 英語ができる日本人には、多くのビジネスチャンスが手付かずで残っているような状態ですね。
新井 星さんが発信するという観点でお話をされたので、私は情報収集の面から話したいと思います。
 自分は日本で英語を勉強し始めた時からスマホの言語設定を英語に変え、毎朝siriに英語で天気を聞くようにしていました。
 また、SNSの居住地設定をイギリスに変更することで、ふとした時に入ってくる情報を海外仕様にしたり、部屋ではずっと英語のラジオを流していました。
 そうすると、日本にいるのに家の中だけは英語が第一言語のような環境を作り出せたんです。
 調べ物をするにしても、英語で調べれば得られる情報量が桁違いに多いですね。
──日本語の情報にだけ触れてくわしくなったような気持ちになるのは、「井の中の蛙」状態ですね。
新井 英語で情報を得るというと難しいイメージを持たれるかもしれませんが、まずはYouTubeなど、気軽なものから始めると良いと思います。
 例えば自分はThe Beatlesが大好きなのですが、”Hello, Goodbye”というPVには、2.1万も「いいね」がついたコメントがあります。
“This whole video just radiates “This was Paul’s idea” energy.” (意訳:このビデオ全体から「これはポールのアイデアだ!」感が出まくっている。)
 まずここで、「radiate 〇〇 energy=〇〇感が出ている」という、教科書では習わないけど実生活で使える表現を学ぶことができます。
 YouTubeのコメント欄は、短くてウィットに富んだフレーズで溢れているなと感じます。
 さらに、このコメントに多くのいいねがついた理由でもあるのですが、実はこのPVはポール・マッカートニー自身が監督を務め、1人で張り切って作ったもので、残りの3人は全くやる気がなかったという裏話があるんですね。
 そんな、日本人の友人同士でもなかなか話題に出ないような小話を、YouTubeのコメント欄を通じて、世界中のコアなファンたちと共有し、笑い合えた、というのは、純粋に嬉しかったですね。
 自分もちゃんとこの世界に参加しているんだという感覚になれました。
星 好きなコンテンツがあるなら、その言語を理解できることで、楽しみ方がかなり深まりますよね。

職人気質がもったいない理由

──多くの人が「困っていない」という理由で英語学習に取り組めません。
星 せっかく素晴らしい才能を持っているのに、英語ができないためにかなり損をしているケースが日本人の場合、少なくありません。
 英語で自分が作っている作品や取り組んでいる活動を発信できれば、仮に日本で評価されなかったとしても、どこかの国で評価を受けるかもしれないですよね。
 英語ができないということは、その可能性を放棄するのに等しいです。
新井 チャンスを取りこぼしているだけでなく、すでに機会損失が生まれている可能性もあるということですよね。
星 そうです。
 逆に語学でしっかりチャンスを掴めているなと感じるのが、プロスポーツ選手たちです。
 私は今回のサッカーワールドカップでの日本代表選手の活躍を見て、語学の重要性を再認識しました。
 彼らに驚かされるのが、欧州のトップリーグでプレーする技術もさることながら、語学力が急速に上がっていること。
 多くの選手が短期間で、クラブチームのチームメイトや監督と現地の言葉で堂々と話すレベルまで、語学力とコミュニケーション力を磨き上げています。
 彼らは「自分たちはサッカーのプロ選手だからサッカーの技術だけを磨けばいい」と考えていません。
 語学ができることで欧州のチーム間を移籍できるし、チームメイトに信用されるし、フィールドに立てるし、ボールを回してもらえる。
 高みを目指すなら、その世界のトップの人たちと自分の言葉で話せるようになるべきだ。スキルだけに甘んじてはいけないということを、彼らはワールドカップを通じて教えてくれたように思います。

完璧主義が最大の敵

──とはいえ、英語とスキル向上の両方を追いかけるのは大変ですよね。
新井 英語とスキルの関係って「かけ算」だと思うんです。
 英語が0〜10点、職業的スキルが0〜10点のかけ算で、総合点の勝負だと考えるとわかりやすいかもしれません。
 例え英語力が低くても、サッカーやイラスト制作など、得意なものとかけ合わせれば数値は大きくなります。
星 逆に、どんなに優れたスキルを持っていても、英語がゼロだと総合点はゼロになってしまいますね。
新井 そうです。まずは自分の存在を世界に知ってもらわないと、始まるものも始まらないんです。
 多くの日本人は「英語を7〜8点にしよう。それまでは恥ずかしいから使わない」と考えています。
 でも、使わなければ0点と一緒です。目的によっては2〜3点で十分役に立つこともあります。
星 スキルや才能の解像度が高い人ほど、自分の仕事が英語でできるようになるための英語力に見通しが立つのではないでしょうか。
「抹茶の魅力を伝えるのに必要な英語」「寿司の説明に必要な英語」「音楽活動をするのに必要な英語」でそれぞれ必要な語彙や表現、コミュニケーションレベルも変わってきます。
新井 「このくらい話せたらいいだろう」と目指すレベルを割り切れる人ほど、英語への苦手意識から抜け出せるような気がします。
 狭い分野や特定の目的など、必要なところから少しずつ話せるようになればいいと思うんです。
 僕の場合は、「英語が話せる」の定義を「今言いたいオリジナル英語フレーズが瞬時に出てくること」と決めてから、かなり勉強がしやすくなりました。
星 本当にそうですよね。
 よく英語で日常会話「すら」できないって感じている日本人は多いかもしれませんが、日常会話はかなり難易度が高い。
 テーマや場面が多岐にわたっていますから、必要な表現や語彙の範囲もかなり広い。
「幅広く学んで、日常会話から学ぶ」よりも必要でない英語は後回しにした方がいいと思いますね。

「学んでから」ではなく、「学びながら」

──なぜ、多くの人の英語学習は続かないのでしょうか。
星 モチベーションが続かないのって、危機感がないからなんです。誰しも必要に迫られなければなかなか本気になれない。
 そこで僕が勧めたいのは、今すぐ好きなことや得意なことでアートワークとかプロジェクトを立ち上げて、その内容を英語で発信することです。
 一度発信したら、世界中からそこに集まってくる人たちと英語でコミュニケーションを取らざるを得なくなりますから、そういう逃げられない環境を作ってしまえばいいんじゃないでしょうか。
新井 「学んでから」じゃいつまで経っても始められないですよね。英語は「学びながら」身につけていくものなんだという意識が大事です。
 僕自身、初めて本気で英語に向き合ったのは、ミュージシャンとして参加したカナダでのライブでした。
 ライブでは当然ながら、MCを英語で話さなくてはいけません。
 でも、自己紹介+α程度なら丸暗記しちゃえば何とかなるだろうと思って、3ヶ月間DMM英会話の先生と一緒にその内容を考えたり、発音やイントネーションを直してもらったり、1on1で実践的なレッスンをお願いしました。
 その甲斐あって、本番では「日本から来た小さな青年が結構上手に話してるじゃん!」みたいな感じですごく盛り上がりました。
 英語ができたらMCをしようと考えていたら、永遠に舞台には立てなかったでしょう。

目標への正しいアプローチ

──「英語ができるようになりたい」と思ったときに、まず何から始めたらよいでしょうか。昨今はお二人が精通している「オンライン学習」も注目されていますが、その継続のコツについても教えてください。
星 オンライン学習の長所は、学習効率の高さにあります。
 オンラインであれば、海外に行くどころか教室に行く手間もありませんし、どこでもすぐに学習を始められますよね。
 普段は週1〜2回のレッスンを入れておいて、「ちょっと海外旅行に行く前に」とか「外国人の人が顧客に増えてきたから」といったタイミングでレッスンを増やすといった臨機応変な使い方もできます。
新井 英語を学んでいると、ネイティブを相手に「あのとき、悔しかったな」「今度はこう話せるようになりたいな」といった感情がたびたび湧いてきます。
 そのときに、そのエネルギーをすぐにレッスンに向けられるのって、やはりオンライン英会話の強みですよね。
 自分はその辺りはかなり柔軟に使っています。
 先ほどのカナダでのライブMCのように目的に応じてレッスンを増やしたり、英語の会議で話せなかったときはひたすら会議の会話表現を習ったり。
 自分はDMM英会話を8年間使っています。
 DMM英会話の教材の良さは感じていますが、それ以上にレッスン内容を相談して一緒に考えてくれる柔軟さが大きな魅力だと感じています。
 サービスに対して受け身になるより、目的に合わせてカスタマイズして「使いこなそう」と考えてほしいですね。
星 オンライン学習を継続するうえで、やるべきことは2つです。
 一つ目はスケジュール。
 必ず英語を学習する時間をスケジューラーに入れ、「必ずやるべきタスク」にしてしまうことが大事です。
 オンライン学習の場合、「いつでも・どこでも」の利点が裏目に出てサボりがちになります。
 サボり防止のために、あらかじめ時間だけでなく場所まで決めておくことがコツです。
 二つ目は仲間の存在です。
 モチベーションの研究で、ライバル意識よりも仲間意識からくるモチベーションの方が学習の継続に貢献することがわかっています。
 例えば同じような英語のレベルの人がいれば、今日どこの国の人に話したのか聞いてみたりするとよいでしょう。
 お互いの進捗を伝えあうような仲間がいると、やる気も出ますし、学習効果も上がるということがわかっています。
 最近では英語学習のためのオンラインサロンやコミュニティサービスもあるそうなので、そういったサービスを活用して仲間を作るのも手かもしれません。
新井 僕は何事も長く続けるには、「プロセスエクスタシー」もすごく大事だなって思っています。
 一時期、絵を描くことですごく悩んだときに相談したイラストレーターの先輩が、「どんな絵が描けるかどうかよりも、紙の上にサササって鉛筆で描いているときの『サ』っという手の感覚がたまらなく気持ちいい」と。
 それをその人は「プロセスエクスタシー」と呼んでいました。
 僕の場合、英語における「プロセスエクスタシー」は発音です。日本人として生まれた自分の口から英語の発音が出ているという状態に、いまだに感動することさえあります。
 モチベーションが下がったときは、自分にとって「プロセスエクスタシー」が感じられる行動に集中するとよいかもしれません。
──講師はどのように選んだ方がよいでしょうか。
星 語学学習の講師選びについては、ネイティブ・非ネイティブの違いや教育資格の有無などさまざまな観点があると思います。
 ただ、私は日本人の学習者の場合、もっとアジアやアフリカ出身の講師とコミュニケーションを取る経験を積んだ方がよいと思います。
 アジアやアフリカ出身の非ネイティブと英語で話すと、彼らは発音も英語の表現の仕方も独特であったり、クセが強かったりします。
 彼らの英語には、いわゆる「教科書的な正しさ」はないけれども、意思疎通はしっかりできる。
 英語学習のあるべき方向性は「正しさを追求する」のではなく、「目の前の相手とコミュニケーションできる」ことです。
「ネイティブのような完璧な英語を話そう」と考えがちな多くの日本人にとっては、彼らの英語や上達までの学習姿勢が、一つのお手本になるかもしれません。
新井 同じネイティブ同士でもニュージーランド人とアメリカ人だと、お互いに何度か聞き返さないと聞き取れないということがあるそうですね。
「完璧」とか「正しい」って本当は存在しないのかもしれません。
星 そうですね。
「完璧な英語」という幻想がなくなれば、英語はもっと気軽に始められる楽しいものに変わるはずです。
 そういう意味では、120カ国の講師とコミュニケーションできるDMM英会話は、非常に優れた学習インフラだと思います。