2022/12/22
【なぜ】新型プリウスがリーズナブルになる? サブスク「KINTO」が仕掛ける新たな一手
KINTO | NewsPicks Brand Design
2018年、トヨタ自動車が「モビリティカンパニーに生まれ変わる」と高らかに宣言し、その急先鋒として立ち上げられたプロジェクト「KINTO」。
定額料金で利用できる“クルマのサブスク”として認知を集め、この4年で様々なサービスを立ち上げ、PoCを繰り返して進化を続けてきた。
そしてKINTOは2023年を見据え、新たなサービス「KINTO Unlimited」をローンチする。定額で利用できるのは変わらないが、ハード及びソフト面において、アップデータブルな車両を提供できる。
その結果、納車後もクルマの価値を維持することで、結果的に月額料金も下げられるという。
物価高、円安、半導体不足など、消費に対するビハインドの風が吹くなかで、なぜ「KINTO Unlimited」はこのような施策が可能なのか。
KINTO 代表取締役社長の小寺信也氏と、自動車産業に精通するナカニシ自動車産業リサーチ代表の中西孝樹氏の対談から明らかにしていく。
INDEX
- 5年目のKINTO。その現在地を知る
- 消費者ニーズをどう捉えるか
- 「KINTO Unlimited」とは何か?
- 「サービス増」なのに月額が下がるカラクリ
5年目のKINTO。その現在地を知る
──クルマのサブスク「KINTO」は2019年1月に設立され、5年目を迎えようとしています。まず、これまでをどう振り返りますか?
小寺 2019年7月に全国展開を始め、苦戦するときもありましたが、試行錯誤しながら成長を続けています。
直近ですと、2022年の9月と10月は過去最高の月間販売台数を記録。緩やかではありますが、成長しているという手応えを得ています。
改めてこの4年間を振り返ると、いくつかの追い風となる要因がありました。
まずはコロナ禍で皆さんの移動に対する意識が変わり、公共交通機関よりも密を避けやすいクルマの価値が見直されたこと。
また、自動車以外にも世の中に多種多様なサブスクのサービスが台頭したため「選択肢のひとつ」として認識された点も大きい。
──特に、Z世代やミレニアル世代に至っては、サービスを選ぶ際に、サブスクはかなり一般化してますよね。
小寺 そうですね。 KINTOも20〜30代のお客様が40%以上を占めています。特にクルマの購入の場合、販売店に出向いて価格交渉することに抵抗を感じる傾向があるそうです。
だからシンプルかつ透明性の高い料金体系で、オンラインで契約が完結するKINTOは、メリットを感じていただきやすいのかなと。
KINTOの月額利用料には自動車保険も含まれていますが、年齢や等級に影響されないので、料金は変わりません。
これも若い世代の方々に「トータルで考えると買うよりも安いよね」と実感していただきやすい要因だと思います。
中西 私は自動車業界をマクロの視点で見ていますが、KINTOは粘り強く戦い続けてるなあ、と感じます。
私も含めて多くの人が「個人リースと同じじゃないのか?」という偏見を持っていた3年前から地道に認知活動を続けて、どんどん仕掛けている。
グループ全体として「モビリティカンパニーを目指す」という一貫性や、様々なサービスを立ち上げ、PoCを繰り返す手数の多さが強みですよね。
親会社のトヨタによるバックアップ体制も盤石ですし、世界をリードするサービスになりそうなポテンシャルを感じますね。
今は、皆さんご存じの通り「100年に一度の変革期」と言われており、技術革新が進んでいます。
それによって自動運転の技術が育ったり、コネクティッド機能を持つクルマが次々と誕生していたりしています。
ところが、そういった技術革新を広く提供するためのモビリティサービスが世界で普及するスピードはあまり速くない印象です。
小寺さんがおっしゃったように、コロナ禍で関心が高まっているし、様々なサービスが乱立しているのですが、なかなかスケールしない。
結局、欧米の自動車メーカーは早々に見切りをつけて撤退しています。
──欧米が見切りをつけるなかで、KINTOが続けられる理由は何だと考えますか。
中西 大きなストーリーを描いたら、達成するまでブレない。それがトヨタの強さですし、本業でしっかり稼いでいることも大きいのではないかと思います。
どうしても本業が苦しくなると、すぐに利益を出せない事業は撤退・縮小の対象になります。
実際にこの2年間の間にGM、フォード、フォルクスワーゲン、メルセデス……など、みんなモビリティサービスの事業を縮小したり、一部売却しているわけですよね。
小寺 中西さんのおっしゃる通りで、トヨタは長期的なビジョンをクリアに持っています。その上で、実現するための手段は問いません。
分かりやすくたとえるなら「富士山に登るのは決めた。どこを通って登るかは考える」みたいなスタンスです(笑)。
だから、我々も目先の収益よりも、将来の目標のために挑戦を続けられるんですよね。
消費者ニーズをどう捉えるか
──消費者の視点に立つと「若者のクルマ離れ」が叫ばれています。消費者ニーズの変化をどう捉えていますか?
小寺 最近、特に驚いているのは、若い方々の思考の変化ですね。以前であれば以下のような流れでした。
1.クルマを買う決断をする
2.ブランド・車種を決める
3.支払い方法を考える
2.ブランド・車種を決める
3.支払い方法を考える
しかし、サブスクビジネスを続けていくなかで、逆の流れもあると感じています。
1.クルマの支払い方法・使える金額を考える
2.購入、サブスク、カーシェアなどを選択
3.クルマを選ぶ
2.購入、サブスク、カーシェアなどを選択
3.クルマを選ぶ
そういった消費者ニーズと向き合い、サービス環境を整え、若者のクルマ離れに歯止めをかけられる可能性はあるなと。
中西 日本の自動車は、もともと非常に耐久性が高い。なかなか壊れないので、保有期間が長いんですよね。
つまり、これまでは所有したほうが「経済合理性」が高かった。
しかし、現在のクルマはナビゲーションシステムはもちろん、センサーによる安全システム、車載ソフトウェアなど、様々な付加価値があり、とても高価になっています。
だからこそ、KINTOのようなサブスクなら、経済合理性を担保しつつ、自動車メーカーが持つ最新技術やブランド価値を享受し続けられる。
そういったニーズに応えられたからこそ、KINTOは若年層に受け入れられているのかな、と。
今後は、若い世代だけではなく、売り方、あるいは価値提供の方法を工夫することで、全世代に価値が伝わるサービスを構築していくフェーズに差し掛かっていると思います。
「KINTO Unlimited」とは何か?
──ユーザーニーズに応えられていると実感を得られるまで、どんな苦労があったのでしょうか。
小寺 これまでKINTOは「のりかえGO」や、「わりかんKINTO」など、本当に様々なサービスを立ち上げてきました。
ある意味、ここまでスピーディにPoCを繰り返せたのは、いい意味でトヨタらしくないからかもしれませんね。
莫大な投資がかかるクルマの開発とちがって、あくまでサービスなので、様々なことにチャレンジできた。
またトヨタが掲げる「モビリティカンパニー」の急先鋒として、自由にできたのは大きかったかもしれません。
これまでPoCを繰り返してきて、一定の価値提供はできたと自負しています。しかし、今のままでは提供価値が不足しているとも、考えていました。
そこで、さらにもう一段発展させるために、トヨタの若手の中でも精鋭を集めてプロジェクトチームを作りました。
そのチームから生まれたのが、今冬の新型プリウスの発売からスタートする「KINTO Unlimited」です。
中西 実は、私もそのサービスは初耳でして(笑)。「KINTO Unlimited」とは、どんなサービスなのでしょうか。
小寺 中西さんもご存じの通り、KINTOは車両代金に加えて、保険や車検、メンテナンスなどの維持費が月額料金に含まれます。
「KINTO Unlimited」は、そこにトヨタの先進サービスを加えました。特徴は大きく2つあります。
1つ目は、リース期間中にソフト及びハードの両面をアップグレードできること。
ソフト面では、スマホのOSのように常にソフトウェアを更新できるので、年々進化する機能をクルマに追加できます。
またハード面では、クルマの設計の根本を見直し、ハードウェアの後付けを可能にするため、事前に織り込んだ「アップグレードレディ設計」を導入。これはトヨタでは初の試みです。
この仕様によって、膨大な作業時間がかかって難しかったハードウェアの後付けも可能にしました。
──ハードがアップグレードできると、どんなメリットがあるのでしょうか?
小寺 納車した後も、より快適に運転するために、様々な機能を追加したくなることがありますよね。
今までは、そのようなニーズにメーカーとして対応できていませんでした。これを、メーカー純正のもので保証もついたうえで、アップデートできる。それが新しい価値になるんです。
それを実現するために、クルマ作りを根本的に変えたんです。
──クルマ作りを変えたとは、どういうことでしょうか?
小寺 これまで、クルマは基本的に「プロダクトアウト」のものづくりでした。
しかし「KINTO Unlimited」は「マーケットイン」への転換であり、自動車メーカーとしては異例だといえます。
たとえば、クルマを保有していて、後付けで「ブラインドスポットモニター」というシステムを搭載するとします。
これはクルマの後方部分に組み込まれたセンサーが、斜め後方を走るクルマを検知して、接近時に車線変更しないようドアミラーにある警告灯を点灯させて、危険を知らせるというものです。
通常、このシステムを後付けする場合、センサーを繋げるワイヤーハーネスを設置するために、シートやカーペット、インパネ(メーター類が設置されるパネル)を外さないといけない。
他にも工程はあるのですが、このシステムを付けようとすると半日ぐらいかかるんですよね。でも、アップグレードに必要な施工作業の大部分をクルマにあらかじめ織り込んであるから、数時間で取り付けられる。
その結果、欲しい装備を、欲しいタイミングで後付けできるようになりました。
中西 クルマ作りにKINTOのビジネスモデルまで盛り込んで設計をしているのは、かなり画期的ですよね。
小寺 ありがとうございます。そして、2つ目の特徴は、トヨタのコネクティッド技術でお客様のクルマを見守ることです。
たとえば「コネクティッドドライブトレーナー」。
お客様のクルマと繋がり、ブレーキの踏み方やハンドル操作、ウィンカーを出すタイミングなど、幅広い走行データをもとに運転の特徴を診断します。
お客様がより安全でエコな運転ができるようにサポートする仕組みです。
※画面は開発中のイメージです
※本機能はトヨタ自動車株式会社と株式会社KINTOが行う実証実験の位置づけで提供予定です
※本機能はトヨタ自動車株式会社と株式会社KINTOが行う実証実験の位置づけで提供予定です
この2つが「KINTO Unlimited」の大きな特徴といえます。
中西 先程、トヨタの若手の中でも精鋭を集めてプロジェクトチームを作ったとの話でしたが、どんな部門の人材を集めたんですか?
小寺 開発、生産、サービス、販売、企画……。ほぼ全部門ですね。
彼らとアイデアを持ち寄り、理想のサービスを練り上げてきて、その先駆けとなったのが2022年1月にスタートした「KINTO FACTORY」。
そして「KINTO Unlimited」は、よりアップデータブルな仕様をベースに設計した新型プリウスで展開します。
「サービス増」なのに月額が下がるカラクリ
──個人的にもすごく魅力的なサービスに思えるのですが、革新的技術を盛り込むと、車両の本体価格やサービス料が跳ね上がりませんか。
小寺 それが業界の常識ですが、今回は2つのサービスを追加しながら、月額を下げます。
なぜなら、アップグレード機能によってリース期間が終わったときのクルマの価値(残価)が高くなり、我々が中古車として運用しやすくなるから。
また、デバイスを最新バージョンに進化させたり、見守り機能でお客様に安全運転を促したりすることで事故件数を減らし、メンテナンスコストや修理代を下げられる。
この“合わせ技”で月額利用料を10%程度下げられる見通しです。
我々としては付加価値そのものに魅力を感じていただける自信がありますが、「とにかく安くしてほしい」と願う、経済合理性を重視するお客様の期待にも応えられる作りになっています。
中西 実は、コネクティッドサービスで付加価値を作るのは本当に難しい。
世界的にも上手くいっている企業は数えるくらいしかなく、多くは失敗しているといっても過言ではありません。
なぜなら、コネクティッドサービスのクオリティが、ユーザーにとっては付加価値といえるレベルに到達できていないからなんですね。
昔からあるオペレーターサービスですら有効活用できていない企業も多く、ある欧州のビッグメーカーは、日本では撤退してしまいましたからね。
本日、小寺さんのお話を最初に聞いたときは「月額が上がるのであれば、前途多難だな」と思ったのですが、まさか月額が下がるとは……。
もちろん、今後「KINTO Unlimited」のベネフィットを示していかなければなりませんが、本当にクルマの残価を上げられれば、大変面白いビジネスモデルになる。
これまで新しい技術やサービスを享受できなかったユーザー層にもアプローチできる試みですし、すごくワクワクさせられますね。
小寺 実は「KINTO Unlimited」のサービスと、そのための自動車開発は、若手だけを集めてやりました。
「次世代の話だから、若手を集めてやろう」と。トヨタとしては、珍しい仕事の進め方だと思いますね。
だからこそ、KINTOが新型プリウスと「KINTO Unlimited」で成功を示せれば、トヨタ全体のクルマ作りさえも変えてしまうかもしれない。
それくらい大きなチャレンジだと考えています。
中西 難しいと思いますが、未来のクルマがソフトウェア化するのは明らかなので、時代に合わせてビジネスモデルを変えなければいけない。
その上で「いいモノを安く」という本来のトヨタの強みも踏襲されている。これからKINTO が普及するための起爆剤になれる可能性を感じます。
小寺 ただ、正直な所、先のことはどうなるか分かりません(笑)。
未知数の部分があってもトライするのがKINTOのやり方なので、「KINTO Unlimited」を皮切りに新しい挑戦を続けていきたいと思います。
執筆:浅原聡
撮影:茂田羽生
デザイン:小鈴キリカ
編集:海達亮弥
撮影:茂田羽生
デザイン:小鈴キリカ
編集:海達亮弥
KINTO | NewsPicks Brand Design
トヨタ自動車株式会社(トヨタじどうしゃ、英語: Toyota Motor Corporation)は、日本の大手自動車メーカーである。通称「トヨタ」、英語表記「TOYOTA」、トヨタグループ内では「TMC」と略称される。豊田自動織機を源流とするトヨタグループの中核企業で、ダイハツ工業と日野自動車の親会社、SUBARUの筆頭株主である。TOPIX Core30の構成銘柄の一つ。 ウィキペディア
時価総額
45.7 兆円
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