2022/12/21

【兵庫】有名企業コラボでブランド向上。日本ハンガーを世界に

株式会社ソトエ代表、フリー編集者・ライター
“ふくをかける”というコンセプトで、自社ブランド「NAKATA HANGER」をギフト市場のヒット商品に成長させた中田工芸3代目社長の中田修平氏。ここ数年、「NAKATA HANGER」は有名企業からのコラボ依頼が後を絶たないほどの存在感を放っています。

コロナ下では「今できること」に注力し、SNSマーケティングを強化。海外マーケットも視野に入れた人材採用を行うなど、常に挑戦を止めない中田社長の今と未来に迫ります。(全2回の後編)
INDEX
  • 企業コラボに技術とこだわりで応える
  • 枠から外れた発想でファンを増やす
  • 世界ブランドへの成長は働く環境の整備から
(写真提供:中田工芸)

企業コラボに技術とこだわりで応える

長く使われてきたハンガーという商品に、新たなコンセプトを設定し、ブランディングに成功したことで市場を切り開いた中田工芸の「NAKATA HANGER」。
そのクオリティに注目したのは、アマゾン・ジャパンだけでなく、ユニクロ、トヨタ自動車の高級車ブランド「レクサス」、JR西日本の高級寝台列車トワイライトエクスプレス「瑞風」など有名企業ばかりでした。
「熟練の職人たちに支えられた自社の高い技術力があるからこそ、有名企業のコラボ先として選んでもらえている」と中田社長は語ります。これら有名企業とのコラボ企画において、中田工芸側から営業したことは一度もないのです。
「JR西日本の高級寝台列車トワイライトエクスプレス『瑞風』用にハンガーを作ったときは、『電車の揺れにも耐えられるようなフックの強度』を先方からリクエストされました。それが、1泊2日で約30万円以上する高級寝台列車の“こだわり”なのだと実感しました」(中田社長)
山陰地方を走る「瑞風」ともコラボ。走る電車の姿は、兵庫県豊岡市の中田工芸の本社からも望める(写真提供:中田工芸)
中田工芸は、JR西日本の期待に応えるべく、通常2つの木をつなげる製法を、大きな木を削る製法へと変更。その結果、つなぎ目がなく、立体感がある『瑞風』のハンガーを作り上げることに成功。ジャケットの型を崩さず、列車の揺れにも耐えられる強度を持った一品に仕上がり、JR西日本に喜んでもらうことができたといいます。

枠から外れた発想でファンを増やす

どんな企業であっても、先方からのコラボ企画は「前向きに検討する」のが中田社長のスタイル。その理由は「ハンガーの可能性を探究したいから」。海外から帰国して中田工芸を継ぎ、新たなブランディングに取り組もうと大きな決意と共に2007年に東京・港区にショールームを立ち上げた時から、その姿勢は変わらないそうです。
港区にオープンしたショールーム(写真提供:中田工芸)
ショールームでは、建築学部の大学生が自由にペイントしたハンガー作品の展示会、石川県の漆職人による漆ハンガー展など、さまざまな企画を実施。アンティーク品など趣味で200本以上のハンガーを持つコレクターの展示会は、「まるでミュージアムの企画展のよう」と話題になり、雑誌の取材が入るほどの反響だったと振り返ります。
「面白そうだと思ったら何でもチャレンジするのが、わが社の姿勢。コロナ下でも、悲観するのではなく“今やれること”に注力してきました」(中田社長)
コロナ下で「やれること」として挑戦したのが、SNSを通じたマーケティング。2月8日を「ハンガーは8の字、フックは2に見える」との理由から、「ハンガーの日」と設定。同日にSNSでハッシュタグをつけ、ハンガーを持つ姿を投稿した人に、抽選でハンガーをプレゼントするイベントを開催しました。
2月8日をハンガーの日としてキャンペーンを展開(写真提供:中田工芸)
「昔と今とでは、ブランディングの手法が変わっています。今は、何よりファンづくりが大事。ネットもリアルも垣根なく、ファンの方々と一緒に世界観を作り上げていきたいと考えています」(中田社長)
このイベントを通して、直接お客様の反応を感じることができて、コロナ下で苦しい時に励みになったと中田社長は振り返ります。

世界ブランドへの成長は働く環境の整備から

中田社長が今後、さらなる高みに向けて視野に入れるのが海外展開。
「昨今は海外に挑戦しようと思う企業が少ないそうですが、地方企業こそ海外にチャレンジすることが大事だと思います。今はネット環境も充実し、地方にいることが不利ではない時代です。ネットで見かけた外国企業が、香港やニューヨークから視察に来てくれたこともあり、うれしかったですね」(中田社長)
倉庫に残るたくさんの型(写真提供:中田工芸)
高級ハンガーの主戦場である欧米で、日本以上に重視されるのが、ブランドヒストリー。単なる服をかける道具ではなく、幸福をかけるハンガーという「NAKATA HANGER」の特徴をいかに訴求できるかが、海外展開の鍵となりそうです。
海外展開には語学力に長けた人材も不可欠。人手不足の昨今、語学力がある優秀な人材の獲得競争は激化しています。そうした状況下、中田工芸は今年、語学が堪能な新卒の女性2人を採用。ブランド力もさることながら、「働きやすさ」が採用市場では選ばれる一因になっているといいます。
「意欲ある若い社員が、人生のライフステージの変化によって、能力が発揮できなくなるのは会社にとって損失です。わが社はそうした事態を避けるために、男女関係なく、やりがいを持って働ける職場にするべく人事制度を見直しました」(中田社長)
社員と家族ぐるみの付き合いができる社風。(写真提供:中田工芸)
具体的には、育児休暇ならぬ育児“目的”休暇という休暇を新設し、従来の育児休暇制度に加え、小学校就学前の子どもを持つ全社員を対象に年5日間の「ペアレント休暇」を付与。そのほか、仕事と家庭の両立を推進する企業を、国が認定する「くるみんマーク」取得に向け、男性育児休業の取得促進などを含む行動計画に取り組んでいます。
「服をかける」ハンガーの既成概念を打ち破り、続々と新市場で攻勢をかけてきた中田工芸。さらなる高みである日本発の世界ブランドを目指すその道筋は、地方のメーカーの先駆者としての姿になるかもしれません。