世界で戦う和僑たち_150117

ラーメンでつくる飲食系和喬の道

世界のトップシェアを狙える「海外ラーメン市場」

2015/1/17

「多くのベンチャー企業が口をそろえて“世界を取る”と豪語していますが、グーグルやアマゾンといった企業が競合になりうるビジネスでは難しいと思います。でも、僕が挑む市場ならこれから世界のトップシェアを狙えると確信しています。それが『海外ラーメン市場』。将来、1兆円規模にまで拡大すると思います」

こう語るのは、ラーメン通販最大手の「宅麺.com」を運営するグルメイノベーション代表取締役社長の井上琢磨氏だ。宅麺.comは、海外ではまだ知られていない、日本で人気のラーメン店の味を取り寄せることができる、いわばネット上の「ラーメンのセレクトショップ」だ。その実店舗版「TAKUMEN」の1号店、2号店を昨年11月にシンガポールで立て続けにオープンしたところだ。

グルメイノベーション代表取締役社長 井上琢磨氏

グルメイノベーション代表取締役社長 井上琢磨氏

ラーメンのセレクトショップ?

「TAKUMEN」の実店舗では常時6ブランド、2号店では週替わりで1ブランド、有名店のラーメンを提供している。最初のラインナップは、二郎系「ちばから」、勝浦タンタン麺「ビンギリ」、鶏白湯「HAJIME」、久留米豚骨「本田商店」、家系「作田家」、東京の味噌ラーメン「ど・みそ」。これまで海外でほとんど紹介されていないが日本ではすでに根強いファンを獲得しているラーメン屋が名を連ねる。

「ここ数年、アジアのラーメン店を回っていますが、ようやく、”日本の本当の味”が浸透し始めました。それまでの海外ラーメンはローカライズされたものが主流でした。例えば豚骨ラーメンだと、ローカルに合わせた味ばかりで、ぬるくて、甘くて、塩分濃度が低いものが多かった。ですが、日本を訪れるアジア人も増えてきて、本場の味が知られ始めた。本当の味で勝負するなら、今だと思います」

「TAKUMEN」では“ラーメンのセレクトショップ”と言われるという名の通り、さまざまなラーメンを紹介していく。メニューは最長約1年のサイクルで入れ替える。人気のブランドは宅麺の支援を受けて単独店を出すこともできる。

井上氏いわく、通常、出店には約3000万円程度かかるが、「TAKUMEN」内の出店であれば、宅麺が初期コストを負担するため、低コストでの出店も可能になる。ラーメン店側には、売上の数%が配分されるビジネスモデルだ。

1号店を構えるのは、ビジネス街のすぐ近くにある飲食店が集まるボートキー地区。政府主導の再開発が進行中で、平日も週末も賑わうスポットだ。1号店はカウンター、テーブル席あわせて合計30席。2号店は、ビジネス街にある居酒屋の中にあるショップinショップの形式を採用する。

「TAKUMEN」の1号店

「TAKUMEN」の1号店

基本的に調理は店内ではなく、郊外にあるセントラルキッチンで行われる。調味料は日本から運び、食材をシンガポールで調達。宅麺側が各ブランドの門外不出の作り方をヒアリングして、レシピ化、調理まで行う。セントラルキッチンで調理されたスープは冷凍され、店舗へ運ばれる。味の決め手となるタレは日本の各ブランドの店舗で作られたものを輸入する。こうすることで常に同じ味を提供することが可能となった。

だが、「同じ味を作る」と言ってもそう簡単なことではない。日本の店主が作る「こだわりの味」をシンガポールで再現するのは至難の技だ。国によって食材や火力、気候や素材に違いがある。店主をシンガポールに招き完成したラーメンを試食してもらい、指導を受けた。気温が高いから使う水は多めに、など職人の勘を一つひとつ丹念に数値化、言語化していった。

当面の目標は、1日あたり30席×10回転×単価20ドルで月商1500万円。3年以内にシンガポールで10店舗、5年以内にアジアで100店舗にまで拡大させる方針だ。2カ国目の進出もすでに検討済み。有力なのは、シンガポールから車で約1時間、マレーシアジョホール州だ。

シンガポール郊外にあるセントラルキッチン

シンガポール郊外にあるセントラルキッチン

自分の後に続く、飲食系和喬の道となる

井上氏の目標は単にラーメン店の成功に留まらない。ラーメン文化を丸ごと根付かせようとしている。「シンガポールはアジア諸国のカルチャーと経済のハブになっている」

2013年に和食が世界遺産に登録されたことからも明らかなように、日本食は今や、世界に通じるブランドになりつつある。「海外の日本食のレストランは日本に比べると顧客単価も高く、利益率も高い」と井上氏は指摘する。だが、飲食店の海外進出は、設備投資など、巨額な資金が必要だ。だからこそ、宅麺を通じて、小さな規模でも味で勝負したいお店の海外進出を促す仕組みづくりを井上氏は目指す。

アジアで戦う和喬の井上氏は、自分に続く次なる飲食系和僑を呼び込もうとしている。

※次回は来週土曜日の公開です。