2022/12/4

【教養】企業も積極投資。次世代リーダーが学ぶ「サステナ教育」

NewsPicks for Kids編集長/NewsPicks Studios
火曜夜10時からNewsPicksとTwitterで配信中の「The UPDATE」。
11月22日は、NewsPicksが今年8月に創刊した子ども向け新聞『NewsPicks for Kids』とコラボし、「次世代リーダーが学ぶべき「サステナブル教育」とは?」というテーマで、UCC協賛のもと、小宮山利恵子氏(スタディサプリ教育AI研究所所長、東京学芸大学大学院准教授)、松田悠介氏(Crimson Education Japan代表取締役社長)、里見陵氏(UCC上島珈琲 取締役副社長)、坪田信貴氏(坪田塾塾長、『ビリギャル』著者)とともに徹底討論した。
今年9月、スタンフォード大学が新学部「サステナビリティ・スクール」を開設した。
世界のトップ頭脳が気候変動やサステナビリティを重要分野に掲げたことは、大きな話題となった。
サステナブル教育は、正式には「ESD=Education for Sustainable Development(持続可能な社会を目指し、行動する人を育む教育)」と呼ばれる。
気候変動対策に向けた市場規模も急拡大しており、2021年上半期は半期単独で600億米ドルを超えて過去最高額に上った。こうした背景もあり、サステナブル教育への関心は世界的に高まっている。
一方の日本では、諸外国と比べてサステナブルな意識が根づいているとは言えず、サステナブルな商品を購入したことがないと答えた人は4割以上に及ぶ。
このため政府は2021年、サステナブル教育を強化する「ESD国内実施計画」を新たに発表した。
2023年には、徳島県にサステナブル教育を謳う学校「神山まるごと高専」が開校予定など、日本でも変化の兆しが見られる。
果たして日本の教育は、世界と同じ速度でアップデートできるのか。教育業界の最先端を、4名の論客とともに議論した。

サステナブル教育は必須教養に

小宮山 これまでの教育は「学ばなければいけない」という、ShouldやMustの意味合いが強いものでした。一方でサステナブル教育は、例えば気候変動に対して「自分には何ができるか」というWantの姿勢で取り組むことが可能です。
サステナブル教育は子どもたちが「自分ごと化」して学ぶことができるテーマになるのではないかと、非常に期待しています。
里見 私たちが取り扱うコーヒーは新興国で生産しているため、人権や気候変動など、SDGsの課題に大きく関わっています。
そこで小学生から大学生向けに、「コーヒーから考えるSDGs」と題してオンライン授業を行っています。
サステナブル教育は、従来の教科学習のように、一つの答えがあるわけではありません。複雑かつ広い課題に向き合うことを通して、高い視座や、さまざまな視点で議論することも学べます。
また、コーヒーは身近なプロダクトなので「こういうものを買えば、生産地にとって、このようにプラスになるんだ」と自分ごと化しやすいのもポイントです。
子どもたちにとって、SDGsは「このままだと、未来はまずいことになる」という意味で、自分ごと化せざるを得ないテーマなのかもしれません。
松田 従来の「Mustの教育」は、社会的な要請から生まれたものでした。工業化が進む中で、しっかり大量生産してくれる人材が必要だった。そのために暗記偏重型の教育が行われていたわけです。
日本は、この工業化教育においては世界最高レベルでした。だからこそ資源が乏しいにもかかわらず、経済成長を成し遂げることができたと言えます。
ただ、その代償として、環境や貧困、格差の問題がどんどん出てきてしまいました。
そのほこ先が、従来の産業や教育のあり方に向いているのが現状です。
今はピンチでもありますが、ここで教育を抜本的に見直していくことで、ある意味、この先、50年後の社会のあり方まで変えられるチャンスにもできると思います。
坪田 ESGへの投資額は、現在の6000兆円から、2026年までには34兆ドルに達すると予測されています。
世界の投資家が、サステナブルなビジネスにどんどんお金を突っ込んでいる状況です。
事実、サステナブルな靴づくりを手がける「オールバーズ」は創業2年で時価総額10億ドル以上のユニコーン企業になり、去年の11月にスピード上場を果たしました。
サステナブルな会社として上場したので、IPOならぬ「世界初のSPO」と呼ばれています。
今後、SPOをする企業が増えていくと考えると、将来的に、世界の産業の半分以上が、サステナブルに関係のあるものになるかもしれません。
だからこそ、今この段階においてサステナブル教育をやらないなんて、あり得ないわけです。
小宮山 私自身、2018年にハワイでリーダーシップのプログラムを受けたのですが、そのとき最初に叩き込まれたのが「サステナブルな海洋とはどういうものか」というテーマでした。
スタンフォードやハーバードといった世界のリーダーを輩出する大学も、今やサステナブル教育に力を入れています。
グローバルに課題を解決していこうと考えている彼らと会話する上で、その知見がなければ取り残されてしまいます。サステナブル教育は、これからの教養の一つになっていくと思います。
松田 一方で「世の中のトレンドがサステナブルに向かっている」という外圧によって、日本では結局「正解主義的」なサステナブル教育になってしまう懸念もあります。
その結果、SDGsの「17のフレームワーク」に基づいて教材が作られ、テストが作られる。現に中学入試では、SDGsに関する問題が出ています。
サステナブル教育の本質は「世の中を知る機会になる」ということではありません。
そこで扱われる社会課題は、基本的に1人の力では解けないものです。多様な価値観を持っている人たちとともにチームを編成し、コミュニケーションを取りながら一緒に解決していく必要があります。
そのプロセスにこそ、次世代リーダーを育成するヒントが隠されているのです。

「自分ごと化」が大切

里見 私たちは、かねてから中高生向けにコーヒーのサプライチェーンやサステナビリティをテーマに教育を提供していたのですが、最近、学校からますます多くのお問い合わせをいただくようになりました。
コロナ禍で課外活動がなかなかできない中、「サステナビリティを教えられる具体的な題材がほしい」という思いが、現場の先生方にはあるようです。
身近なコーヒーを題材に、実社会にある課題を分かりやすく教えると、子どもたちはポジティブにアイデアを出しながら、深く考えようとしています。
松田 私は高校生の課外活動を支援しているのですが、面白い事例があります。
一つが「ROKU」というサービスで、これは規格外のみかんをアップサイクルして、アロマキャンドルをつくるというものです。
これを手がけている子は、小さい頃から食べることが大好きだった。ところが『Taste The Waste(邦題:もったいない!)』という映画で、大量の食品ロスが出ていることを知り、非常に心が痛んだそうです。
そこで、自分が住んでいる長崎の名産品・みかんに着目して、YouTubeやSNSで仲間を集めて、高校2年生の時にサービスを立ち上げました。
もう一つが「Rulie」というサービスです。
これは、メイクが大好きな子が、化粧品が環境破壊や動物実験の温床になっていることを知り、ショックを受けたのがきっかけになっています。
ただ、それまでの環境に優しい化粧品、いわゆるクリーンビューティー商品は非常に高価で、誰もが使えるものがなかった。
そこで、安く、誰でも手に入るクリーンビューティー商品を作ろうと考えて、SNSで仲間を集めて、クラウドファンディングで資金を集めました。
今、みんなSDGsを勉強しているんですけども、学ぶだけではなく、自分の好きなもの、身近なものから課題解決のアクションを起こしていくことが重要だし、希望だと感じます。

日本の教育をアップデートするには

里見 サステナブル教育自体、非常に学びが深いものではあるのですが、そこに語学が加わることで、可能性が大きく広がると考えています。
今、日本の学生の皆さんにも、いろいろな情報にアクセスして考える機会は開かれていると思うのですが、やはり英語なり自国語以外の言語で取れる情報の量は、比較にならないほど多いです。
そこに触れるか触れないかで、将来的なリーダーシップを育めるかどうかが大きく変わってくるのではないかと考えています。
また、同じ言語を使う人同士、同じバックグラウンドの人同士で話をしていても、議論はそれほど深まりません。問題の本質に迫るには、言葉の壁を越え、多様な環境で議論することが重要だと思います。
これがサステナブル教育において実現すれば、非常に大きな教育のアップデートになるのではないでしょうか。
松田 デンマークには、17歳から入れる「フォルケホイスコーレ」という全寮制の国民学校があります。
サステナブル教育の事例としてよく取り上げられる教育機関ですが、実はここでは、SDGsそのものを教えているわけではないんですね。
IT、語学、料理など、さまざまな分野があって、ともに住み、対話をしながら、自己理解も、お互いへの理解を深めていく。入試もテストもなく、いわば「ゆとり教育の究極形」のような場所です。
そのゆとりがあるからこそ、子どもたちは「なぜ自分は、この社会課題に興味があるのだろうか」「自分はどうしていきたいのか」ということをしっかり考えて、行動に移していくことができるようになります。
サステナブル教育で日本がアップデートするには、正解主義からの脱却はもちろん、カリキュラムをある程度ゆるくしていくことも重要ではないでしょうか。
坪田 最近気づいたのですが、英語は、大文字と小文字を合わせて52文字覚えればいいわけですよね。
ところが日本語の場合、小学校の6年間で、ひらがなとカタカナを50字ずつ、漢字を1000字以上覚えなければいけない。音読み、訓読み、送り仮名なども含めると、1万パターンにもなります。
つまり、学習の基礎の段階で、必要な知識の量に、52対1万という約200倍の差が存在する。これが、どうしても日本が詰め込み教育にならざるを得ない理由です。
そこに加えて、今はIT教育もしなければなりません。さらにサステナブル教育も、と上乗せするのは、現実的に難しいのではないかと思います。
では、どうすればいいか。
今、学校の授業の多くはインプットの時間なので、サステナブルな課題をリサーチして、プレゼンするという授業から始めるのが、日本の教育をアップデートする一つの方法ではないかと思っています。
人は「8割知っていること」に興味が湧くものです。
ですから、学校でも家庭でも、例えば「アイスコーヒーのカップはプラスチックなのに、なぜストローは紙製ストローなんだろう?」など、子どもたちの身近なところから少しずつ好奇心を引き出して、始めてみるのがいいのではないでしょうか。
小宮山 これまでの教育では、一つの正解に向かって、問題を早く、正確に解くことが求められていて、失敗をしないことが大事だとされてきました。
しかし、これからの「正解のない社会」では、失敗をして、改善をして、また失敗をして改善する、そのサイクルを回していくことが非常に重要です。
ただし、同じ失敗をする必要はありません。改善した先で、また違う失敗をして、新しい知見を得ていく。失敗をマネジメントすることが必要だと思っています。
先日訪問した立命館慶祥中学・高等学校では、サステナブル教育の一環として、修学旅行でガラパゴス諸島やペルーに行くのだそうです。
途上国の状況や生態系を実際に見にいく。奈良や京都に行くのとは違って前例がないので、その過程では失敗ばかりだと思うのですが、そこから得るものこそが大きい。
ここ2〜3年、国内でも熊本で水資源について学ぶなど、サステナブル教育を軸とした修学旅行を、先生たちも求める方向に変わってきています
奥井 視聴者の方から質問が来ています。「サステナブル教育に企業として取り組む上で、組織と個人、それぞれ何をアップデートするといいでしょうか」。
里見 私たちは、1年くらい前にパーパスを含むUCCグループの経営方針をしっかり定義し直しました。それは「より良い世界のために、コーヒーの力を解き放つ」というものです。
コーヒーの力を解き放つためには、生産者の生活をはじめ、さまざまな課題を正面から考えなければなりません。
私たちグループの社員はコーヒーが大好きな人ばかりですから、「コーヒーの力を解き放て」と言われると「よし」と一丸になるんですね。
このように、分かりやすい言葉で組織全体に共感を生むことが、まず一番大事ではないかと思います。
また、サステナブルな問題は、気候変動や人権など、中身が複雑です。そこで私たちは、学校現場に教育を提供するだけではなく、社内で自分たちが学ぶための勉強会も多数行っています。
個人としては、そういった勉強会に参加して知識や視点をアップデートすることが、「自分の部門ではこんなことができそうだ」と課題に取り組む一助になっているように思います。

本日のキングオブコメント

サステナブル教育が次世代リーダーにとって必須教養となることは、まごうことなき事実だろう。
しかし、教える側がその必然性について腹落ちし、内発的な動機づけができていなければ、結局のところ「正解主義」「SDGsウォッシュ」に陥ってしまうのだろう。
とはいえ、今の子どもたちにとって、サステナビリティは切実な問題であり、当たり前のように自分ごと化している。
このテーマに関しては大人も子どもと一緒に学ぶ、むしろ子どもに教えてもらう姿勢でいることが、適切なのかもしれない。
サステナブル教育を通じて、子どもは大人と一緒に対話したり、そこで自分の考えを認められたという成功体験を積むことも可能だ。
それによって「自分の力で問いを立てることができる」や「課題を解決していける」という子どもたち自身の希望にも、繋げていけるのではないだろうか。
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