2022/12/22

【革新】医療、交通、行政。「データエコシステム」は、もはや社会インフラだ

NewsPicks for Kids編集長/NewsPicks Studios
 PCやスマートフォン、IoT家電からクラウドサーバーまで、データ社会の今、ありとあらゆる機器やネットワークの中枢を担っている半導体。爆発的な需要増から、一時期は世界的な供給不足に陥ったのは記憶に新しいところだろう。
 この産業を牽引するインテルは、こうした増え続ける需要に、ただ半導体メーカーとして応じるのみならず、さまざまなプレイヤーを繋ぐことで「社会のデータエコシステム化」を実現しようとしている。
 本特集では、同社が「データエコシステム」で社会を豊かにしたいという思いと、そのためにビジネスから教育まで、幅広い分野で積み重ね続ける事例について取り上げてきた。
 このエコシステムは、普段は目に見えない生活者の身の回りにも、深く浸透している。
 そこで最終回となる今回は、特に医療や道路交通の分野において導入が始まっているデータ利活用の事例を通して、「データエコシステム」がこれからの社会の維持に不可欠であることを明らかにしていく。

高速処理のソリューションは、暮らしの至るところに

──今回は、より生活者に身近なところで、データ利活用がどのように進んでいるかをお伺いできればと思います。
吉井 ごく身近な例として、コンビニのPOSレジ、銀行ATM、駅の券売機、自動改札など多くの機器にインテルのCPUが導入されています。
 インテルのCPUと聞くと、PC内蔵のイメージが強いと思いますが、実はそれ以外の分野でも20年以上採用され続けているのです。
 最近では、電車内に設置されているサイネージにや飛行機内のエンターテイメントビデオ配信システムにもインテルのCPUが搭載されていたり、生活の至るところに導入されています。
 通常、機器の性能には限界がありますが、インテルCPUを組み込むことによって、製品の制限を超えて、高度な画像処理やコンピューティング処理を実現できることが強みの一つです。
赤池 感覚的に言うと、「サクサク動く」ようになるんです。
 例えばテレビをインターネットにつないで動画を視聴するときに、動作が遅かったとして、インテルCPUを導入すればサクサク処理されるようになる。そのようなイメージです。
──第1回でご紹介いただいたように、データ利活用の時代に突入し、通信量は爆発的に増えるなか、処理の速さがますます求められるようになっています。今お伺いしたのは消費者のユースケースですが、事業者側ではどういった事例があるのでしょうか。
吉井 直近ですと、「OpenVINOツールキット(以下、OpenVINO)」という開発ツールによって医師のサポートツールを実装しました。
 一般的に、AIによるディープラーニングは「学習」と「推論」に処理が分かれています。
 OpenVINOは推論に特化したAI開発ツールで、これを使えば多くの人が簡単にAIプログラムやAIサービスを作ることができるというものです。
(提供:インテル)
 このツールキットの活用によって、医療用ソフトウェアが画像処理する時間を3分の1以下に短縮できました。
──詳しく教えてください。
赤池 今回、処理時間を短縮できたのは、精密機器メーカーの島津製作所が開発する「Smart DSI」という遺残確認支援ソフトウェアです。
 遺残とは、手術した際のガーゼや縫合用の針が、患者の体内に残ったままになってしまうこと。医師たちはこの遺残物がないか、手術の最後に確認をしなければなりません。
 従来は、手術前後でガーゼの数をカウントしたり、X線画像で体内を確認していたと言います。しかし、白黒のX線画像では糸と骨が重なって見えることも多いため、目視で体内遺残物を捉えることはかなり難しく、時間と体力、集中力が必要な工程でした。
 そこで、島津製作所がインテルの「OpenVINO」を活用し「Smart DSI」というアプリケーションを開発しました。
 これをX線画像診断装置に導入すると、AIによる推論で、術後にX線画像から体内遺残物の判別支援ができるようになるのです。
(提供:島津製作所)
吉井 一方で当初、この画像判別処理には、試験環境で平均19.06秒かかっていましたが、OpenVINO™ツールキットを活用する事によって6.16秒に短縮する事ができました。
 手術に携わったスタッフは画像確認が完了するまで待機する必要があるため、ここをなるべく短くしたいというご相談をいただきました。
 OpenVINO™ツールキットは使いやすいツールではありますが、最適化をする上では専門知識も必要です。
 今回は一部のモデルのOpenVINO形式への変換で想定した精度が得られない問題にお困りでしたが、インテルのエンジニアのサポートにより速やかに解決し、当初の目標だった15秒を大きく切る形で時間を短縮することに成功しました。
 患者の安全はもちろん、人手不足が叫ばれる医療現場の課題解決や、医師の働き方改革にもつながっていると考えています。
──ツールを提供して終わりではなく、サポートから実装まで伴走すると。医療分野におけるデータ利活用は、今後ますます事例が増えていきそうです。
赤池 特に画像診断領域で、OpenVINOの活用事例は増えています。
 国内、海外の名だたる大手医療機器メーカーにも採用いただけています。

社会に「半歩先の未来」を作る

──現場のソリューションであると同時に、私たち生活者の命に直結するお話ですよね。
赤池 生活者の命を支えている例では、沖電気工業と取り組んでいる交通分野のプロジェクトも挙げられます。
 例えば静岡県では、AIカーブミラーの実証実験を行いました。
 OpenVINOを使った学習済みのAIモデルが、カメラセンサーから対向車線の映像を判断して、警告のLEDライトを点灯するシステムです。
 ここで使われているのが、OpenVINOを搭載している沖電気工業の「AE2100」というAIエッジコンピューターです。
吉井 今回のカーブミラーの場合、目の前の交通データを高速で処理し、ライトを点灯する必要があります。
 ところが交通データを収集したあと、クラウドにデータをそのまま送信して処理を行おうとすると、トラフィックが重くなってしまいます。
 車が向かってきているのに、ライトが点灯するまでに時間がかかってしまっては意味がありません。
 そこで、沖電気工業のエッジコンピューターにOpenVINOを搭載することで、高速かつセキュアに交通情報を処理することができたのです。
赤池 今後は、環境によって処理速度が左右されることがないよう、AIエッジコンピューティングを活用する事例は増えてくると考えています。
吉井 具体的には、交通面では渋滞予測や自動走行サポート、防災面では川の水位の変化や土砂崩れの検知などのユースケースが考えられています。
──今回のカーブミラーが成功事例になれば、静岡県に限らずいろいろな道路で導入されたり、あらゆる交通問題の解消や防災にも展開ができそうですね。
赤池 道路にはさまざまなステークホルダーがいるので、警察庁や国交省、経産省などと複雑な調整をする必要があります。
 しかし、事故を減らすためには、そうした壁を乗り越えてでもデータ利活用によるソリューションを提案していかなければなりません。
吉井 だからこそ、第2回でもご説明したように、私たちは多くの実証実験を行い、事例を作り続けているのです。前例があれば話をスムーズに進めやすくなりますから。
 テクノロジーを駆使して、目の前のどんな課題解決が可能なのか。半歩先の未来を実際の形で見せていくことが私たちの仕事だと考えています。

行政を動かす、堅牢なセキュリティ

──インテルによるデータ利活用の事例が、また次の事例を生み出しながら、私たちの消費活動から、医療・インフラまで、あらゆる場面に浸透しているのですね。一方で、データ利活用が進めば進むほど、セキュリティも重要な観点になります。どのような対策を講じられているのでしょうか。
吉井 はい。ユースケースを問わず、データ利活用においてセキュリティは無視できない問題です。
 対応策の一つの例ですが、インテルのサーバー用CPUのインテル® Xeon® スケーラブル・プロセッサーには「インテル® ソフトウェア・ガード・エクステンションズ(以下、SGX)」という機能が導入されており、強固なセキュリティの基盤を構築しています。
 これはコンフィデンシャル・コンピューティングと呼ばれ、処理段階で無防備になるデータを守るシステムです。
 従来は、データを保管したり転送するときは暗号化するため安全だった一方、データを処理するときは平文に戻していたため、「処理中のメモリ」はセキュアな状態ではなかったんです。
 それを「暗号化された空間で処理を行う」ことにより解決したのが、コンフィデンシャル・コンピューティングであり、SGXです。
(インテル資料を基にNewsPicks作成)
 また、SGXは監査機能やデータを外部に持ち出すときに暗号化する仕組みも持っており、セキュリティに関しては一定の評価をいただいています。
──半導体レベルでセキュリティを担保しているのですね。
吉井 茨城県ではオンライン選挙の実証実験を行っていますが、ここでもSGXが貢献しました。
 投票は、仕組みそのものはシンプルなのでデジタル化しやすいのですが、情報漏洩の懸念があるために、今もアナログのままなのです。その課題もSGXの活用によって一歩前進しました。
赤池 こういった政府系のプロジェクトは、セキュリティ部分が極めて重要です。DXへの意思決定を促すには、欠かせない要素です。
 なお、比較的小規模な市町村との連携のほうが、スピード感をもって進められることが多いです。静岡県で行ったカーブミラーの実証実験や、第2回でお伝えした三豊市のデジタル人材教育の例もそうですね。
吉井 これまでは製品開発事業者とお話する機会が多かったのですが、今後はエンドユーザーの声も理解した上でニーズに合った製品の開発につなげることが使命だと思っています。
 こういった取り組みを実直に続けていくことで、インテルのテクノロジーによって社会貢献できる。そんな確信があるんです。
* * *
 エンドユーザーのニーズに向き合いながら、豊富な実証実験を提供し続けることで、パートナーがどうすれば動きやすくなるか?というサポートまでを一気通貫に手がけるインテル。
 パートナー同士を繋げたりすることも多く「半導体屋が、なぜそこまでやるのか?と不思議がられることも多い」(赤池氏)と笑う。
 同社の一つ一つの取り組みがエコシステムとして繋がった先に、個々のソリューションの集合体としてではない、真のデータ社会の到来が予感される。
*全3回終了
参考
https://www.f5.com/ja_jp/services/resources/glossary/edge-computing