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第1回:大前研一ビジネスジャーナル

大前研一「経営者の勉強は“幼稚園”からできる」

2015/1/15
これからのグローバル化社会で戦っていける「強いリーダー」を生み出していくためには何が必要なのか? そのために何をするべきかを長年伝えてきたのが元マッキンゼー日本支社長、アジア太平洋地区会長、現ビジネス・ブレークスルー大学学長の大前研一氏だ。
本連載は大前研一氏総監修により、大前氏主宰経営セミナーを初の書籍化した「大前研一ビジネスジャーナル」(初版:2014年11月7日)の内容を一部抜粋、NewsPicks向けに再編集してお届けする。初回は「強いリーダー」になるために必要な、企業単位でビジネスを動かすスキル、そしてその習得方法を経営を志すビジネスパーソンへ向けて語ってもらった。
(2014.9.11 取材:good.book編集部)

なぜ”グローバル”がキーワードなのか?

本連載は、私が主宰しているセミナーや教育機関(大学)で話していることがベースになっているわけですが、最初に、私がこれらのセミナーや大学において発信しているテーマについて、お話ししておこうと思います。

まず、私のセミナーにおける一貫したテーマとして、”グローバル”というものがあります。なぜグローバルかというと、私が参加者の皆さんに伝えようとしている基本的な軸というのが、「日本がなぜいつまでも低迷しているのか」というところにあるからです。

つまり、世界全体を眺め、今の日本を世界と比べてみることによって「日本が良くならない理由は何なのか?」また「日本が良くなるヒントが、どこかにないのか?」という本質的な問題についての解決策を見出していきましょう、ということなのです。

そして、この”グローバル”や日本の経済、企業経営を考える上でキーワードになってくるのが「コンシューマー」と「テクノロジー」です。企業にとってのお客さん、すなわちコンシューマーが今、どのような状況にあるのかという、コンシューマーの変化を的確に捉えること。それから、現代のテクノロジーがもたらしている産業界の変化というものが、今どうなっているのかを把握すること。この二つが非常に重要になってきます。

まずコンシューマーについては、いわゆる”おひとりさま”が世帯数で一番多くなるとか、“イオニスト”や“マイルドヤンキー”が増えているとか、そのあたりを勉強会で具体的に示しながら、今、コンシューマーがどうなっているか、ということを把握してほしいなと思っているわけです。

それからテクノロジー。これはシリコンバレーとかそういう分野の話だけではなくて、「テクノロジーが産業をどう変えてきているのか」という部分にまで踏み込んで話をしています。テクノロジーの進歩というのは非常に速いですが、それに対して、多くの経営者がそれに気がついて対応するのが遅い。

これがやはり、最近の日本において裏目に出ているところが非常に多いんです。一昔前の日本は、テクノロジーに対しては非常に貪欲にやっていたんですが、最近、これが遅れ気味になっている、という話を中心にしています。

ですからセミナーでは、実務的なノウハウ、例えばマーケティングがどうのこうの、ということを考えたり教えたりすることは、まずありません。普通のビジネススクールなどで教えている「マーケティング技術」や「統計の技術」「アカウンティング」といった話はしないんです。そういう普通のビジネススクールで教えているようなテーマというのは、我々のセミナーのテーマではないんです。

あくまでも、国と企業とコンシューマーが互いに及ぼしあっている影響、それらを分析しながらこれからの社会、経済、経営がどうなるのか、経営環境がどう変わっていくのかを考えていくことが私の関心事であり、それを長年にわたって発信してきたんです。このテーマを、セミナーであれば350社くらいの経営者に対して様々な角度から分析・解説したり、時にはみんなで海外まで出かけていって、実際に自分の目で見てくるわけです。

本連載では、このようにセミナーや学校で話したり勉強していることを整理しながら、皆さんに少しずつ公開していけたらいいなと思っています。

私が主宰している大学等の教育機関では、様々な分野の講師が様々なテーマで講座を開いているので、ある意味「経営に関する知識のデパート=大前百貨店」のようなものです。常に「どのレベルのお客さんに対しても、それぞれに合った最も良いものを提供していこう」という学校です。百貨店ってそういうものじゃないですか。各フロアとも、いろんな客層に合わせたベストと思うもの、良いものをそろえてお出迎えする、というわけです。

ただし、全体の共通テーマというのは統一していて、「世界における競争力をどうやってつけていくのか?」ということです。「世界で何が起こっているのか」「自分たちはそれに対してより進んでいるのか、キャッチアップしなければいけないのか」「それによって我々はその生存さえも危うくされるのか」、そういうことを考えていく。これが非常に重要なんです。

そしてこの百貨店は、一時として留まっておらず、常に動いていることが重要だと考えています。経済環境や国際情勢、技術といった外的な環境、外的要因を見ながら、それによって競争相手や新興企業がどう動いているのかを考え続ける。それが、この大学においても、またセミナーにおいても共通の重要テーマなんです。

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大前研一(おおまえ・けんいち)
ビジネス・ブレークスルー大学学長 、株式会社ビジネス・ブレークスルー代表取締役社長。マサチューセッツ工科大学(MIT)にて工学博士号を取得。経営コンサルタント。1994年までマッキンゼー・アンド・カンパニーで日本支社長アジア太平洋地区会長、本社ディレクター歴任。スタンフォード大学院ビジネススクール客員教授(1997-98)。現在、UCLA教授、ボンド大学客員教授、(株)ビジネス・ブレークスルー代表取締役をはじめ、グローバル企業の取締役など多数。

読者に“ハンデ”はつけない

私の大学では、経営トップ(経営者)から一般のビジネスパーソンまで幅広い受講者を受け入れています。

私は、経営トップと新卒社員がそれぞれ違うことを勉強するべきだとは思っていません。私自身、若い頃から常に経営者の立場でものを考えるクセをつけてきました。私がいたマッキンゼー・アンド・カンパニーという会社は、常にトップマネジメント・パースペクティブなんです。

つまり、たとえ入社1年目であっても、トップの立場で経営を考えるということをしないといけない。だから私も、1年目だから、2年目だから、という考え方をしたことがありません。それまでは原子力の開発を9年間やっていたので、全く経営のケの字も分からなかったけれど、ハンデはつけてもらわなかった。

だから、私の大学でも、受講者にハンデはつけません。経営の勉強、経営の道というのは初日も10年目も40年目も同じものじゃないかと思っているんです。

ハンデをつけない理由がもう一つあります。それは、今の時代、昔のようなシーケンシャル(順序立った)な考え方は勉強にはあってはいけない、少なくとも経営の勉強にはあってはならない、と思うからです。

どういうことかというと、高度成長期の大量生産、大量消費型の時代に入社した人たちは、最初の10年は丁稚のようにソロバンをはじいて、そのうち電卓を叩いて、それからパソコンのキーボードを叩いて、という環境で段階を踏んでやってきた。しかし、今は子どもの頃からスマホが染色体の中に入ってるような人たちが、いきなりいろいろな新事業を考えている。こういう時代に、もはや入門編も上級編もないんです。

テクノロジーが発達した今の社会では、だいたい後から遅れて来た者が強い。そういう意味でも、もう年齢もキャリアも性別も関係ないんです。今、破壊的に世界を、産業構造を変革させている人は10代の人かもしれないし、20代かもしれないし30代かもしれない。もしかしたら60代の人かもしれない。グローバル型、破壊型の企業をつくる上で、世代や経験は関係がないんです。

最近の受講者の傾向として、「大前さんの言うことはその通りだなとは思うんだけれども、なかなか難しいですね」と言うのは年配の人に多い。若い人は特にそういうことを言わないんです。それは良い傾向じゃないかと思いますよ。だからハンデはつけない。経営には絶対ハンデはあってはいけないんです。

本連載でも読者にハンデはつけず、新入社員から大企業の経営トップまで、幅広い層の読者に読んでもらいたいと思っています。私のセミナーは経営者を対象にしていますが、私はその内容を大学生にも見せているし、大学院生にも見せているし、部課長クラスの研修の場でも見せている。そこから何を引き出すかっていうのは人によって違いますし、そこは自分自身で考えてほしいんです。

そういう意味で、本連載を一般の人たちが読んでくれるというのは非常に嬉しいことなんです。今まではそういうものを表に出さなかったですから。

“今のケーススタディ”が経営者を育てる

私の大学では、最新の企業データを使って、「あなたが今、この企業の人間だったらどうしますか?」という課題を与えます。あなたがもし、この会社の社長だったらどうするの、と。「10年間で売り上げが10分の1になってしまって、お客さんがほとんど居なくなってしまいました。さて、あなたならどうしますか?」というような課題を、リアルなデータを使って考えていく。

経営を学ぶにはリアルタイムのケースで考えないとダメなんです。どこかのビジネススクールみたいに、一つの事例を10年も使っているなんていうのはあり得ないですよ。

私はスタンフォード大学で教えていた時に、「日産自動車はいかにしてフォード・モーターを打ちのめしたか」というケースを使って講義していましたが、それは30年前だから通用した話。その後、今度はフォードのほうが強くなって日産がひっくり返ってルノーに買われてしまったわけですから。

今、光のようなスピードで時代が変わっている時に、過去のケースを持ってきて話をしても、そんなものは何の役にも立ちません。企業では、いかに今の情報を使って意思決定ができるのか、ということが最重要なんです。実際に経営者になれば、必ずそういう局面に追い込まれます。これを私の大学では毎週やってもらう。議論で相手に負けないようにクラス内で討論しているんです。まあ、私に束になってかかってきても絶対負けませんが(笑)。

人間というのは不精ですから、「自分がそのポジションになってその役割を与えられたら考えよう」という人が多すぎる。経営っていうのはそれじゃダメなんです。経営者というのは、明日それをやれと言われたら「それなら元々考えていました」と言って、パッと走り出せるような人じゃないとダメです。

だから将来経営者になろうと思ったら、今から考え続けることが重要。そうしないと、いざ経営者になった時に「えー、前任者のやり方を踏襲して…」なんてバカな挨拶をするわけです。前任者のやり方を踏襲するくらいだったら、そのまま前任者にやらせておけばいいんです。

「俺は、前の社長とは違うぞ」ということを言うためには、ちゃんと普段からシミュレーションして、助走しておかないとダメです。赤提灯に行って上司の悪口を言っていたら経営者にはなれません。経営を志すなら、普段の生活態度が全てだということです。

経営者の勉強は”幼稚園”からできる

フィンランドなどでは、幼稚園の頃から起業家養成をやるんです。これはどういうことかというと、例えば子どもを青果店に連れていって、「このおじさんはどうやって飯を食っているのか?」ということを考えさせるわけです。

まず、農家からこういう野菜を買ってくる。その時、どういう買い方をしているのかを勉強する。買いすぎたら腐っちゃって損するから、上手に買わないといけないよね、ということを学ぶわけです。そういうことを幼稚園の頃から考えさせる。腐ったら儲からないというのは、幼稚園児でも分かるわけです。フィンランドの子どもたちは、そうやって自分がもし青果店になったらどうするのか、ということを常に考えながら育つわけです。

これを繰り返し繰り返しやるということが重要なんです。掛け算の九九を覚えるだけじゃなく、自分が青果店になったら、自分がクリーニング屋になったら、自分が鉛筆削りを売っていたら、自分が何々していたら、というのを何百回、何千回と考えて、初めて経営者の資質というのが生まれてくる。経営者の勉強っていうのは幼稚園からできるんですよ。

だから、学校の先生が質問したことだけに正しく答えようとする日本の教育で育った人間は、経営が苦手なんです。フィンランドの幼稚園児が学んでいるようなことを考えたことがないですから。

さらに会社に勤めると、「そんなことは経営者になってから考えればいいや」と思う。これはもう最悪ですね。親に言われて受験勉強して良い大学入りました、今度は良い会社に入りました。そして、23歳になるまで鉛筆1本売ったことのない人間が「営業希望です」なんて言う。それって、おかしくないですか? と思うわけです。

松下幸之助は、小学校を出たらすぐにいろんなものを売って、いろんなことを創意工夫している。本田宗一郎もそうですが、日本の戦後第一世代というのは、みんな大学なんか出ていないんです。それにもかかわらず、世界に冠たるブランドを作り上げた。今は、アジアの優秀な経営者がたくさん出てきていますが、みな日本の戦後第一世代と同じようなタイプです。

しかし今の日本では、良い学校へ行って先生や教科書の言うことを一生懸命覚えて、自分もいつか経営者になりたいと思っていても、気がついてみたら経営者の入り口にも立てずに歳をとっていた、ということになる。はい、残念でしたという感じです。10歳からやっておくべきだったよね、と。それが経営というものです。特に今、ユビキタスな環境の中でテクノロジーが体に染み込んでいるような世代の人っていうのは、やはり早めに商売を考え始めたほうが絶対得ですよ。

ですから、若い人たちにも本連載を読んで、毎回、実践的な勉強をしてほしい。そうすれば毎回、必ず自分なりにどこか引っ掛かるものがあるはずですから、次に、そこをずっと深掘りしてもらいたい。全部を吸収しようとすると、読み終わった時にただの百科事典になってしまいますから。

そういう勉強の仕方じゃなくて、これは自分にとって重要だと思うテーマを見つけたら、そこに長居をしてみる。その上で、そこで学んだことを自分のものにしていろいろと考えを進めていく。本連載は、そういう読み方、使い方をしてもらったらいいと思っています。
(2014.9.11 取材:good.book編集部)

※本連載は1週間に1〜2回のペースで掲載予定です。次回は、「アジア・グローバルの今」がテーマです。

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