Weekly Briefing(メディア・コンテンツ編)
ディズニーとテック、The Economistの強み、ドラマの長さ
2015/1/13
Weekly Briefingでは毎日、ビジネス・経済、メディア・コンテンツ、ワークスタイル、デザイン、スポーツ、中国・アジアなど分野別に、この1週間の注目ニュースをピックアップ。火曜日は、世界と日本のメディア・コンテンツ・マーケティング関連のニュースをコメントとともに紹介します。
海外メディアは、「コンテンツ×テック」が大好き
個人的な趣味とネタ探しを兼ねて、週に1回は、本屋をブラブラ歩くようにしている。とくにお気に入りは、ブックファースト銀座コア店と、青山ブックセンター六本木店だ。センスのいい本がセレクトされているのに加え、海外の雑誌が充実しているのがありがたい。
今週の海外ビジネス誌は、「コンテンツ×テック」関連の記事がひときわ目についた。
『フォーチュン』はテクノロジー帝国としてのディズニーを特集、『ファストカンパニー』は、アマゾン特集に加え、ヤフーのニュースルーム改革を取り上げ、『ワイアード』はバズフィードなどの新興メディアを深堀りしていた。
普段、NewsPicksでキュレーションしている『ニューヨーク・タイムズ』でも、コンテンツ、広告、テクノロジー関連の記事が毎日のように飛び込んでくる。「コンテンツ×テクノロジー」のビジネスは、今もっとも動いているだけに、ニュースにしやすいネタが多いのだろう。
グーグル、フェイスブックといった今をときめく企業も、広告を主たる収益としている点では、メディア企業と言える。今の世界のビジネスシーンの中心のひとつに、コンテンツがあることは間違いない。
前置きが長くなったが、今週は以下の4つの記事を紹介したい。
Pick 1: “テクノロジー帝国”としてのディズニー
・Michal Lev-Ram “Disney CEO Bob Iger`s empire of tech” Fortune Magazine (2015年1月1日号)
2005年にディズニーCEOに就任した、ボブ・アイガーを中心に、テクノロジー企業へと変貌するディズニーを描いた9ページの長文記事。読み応えがある。
CEO就任時、アイガーが定めた3つの柱は、「クリエイティブコンテンツへの投資」「国際展開」「技術面でのイノベーション」だった。
その言葉どおり、自ら“事実上”のCTOとしてテクノロジー戦略を先導するとともに、大型買収を次々と実行。2006年のピクサー(買収金額74億ドル)を皮切りに、2009年にはマーベル・エンタテイメント(同43億ドル)、2012年にはルーカスフィルム(同40億ドル)を傘下に置いた(ルーカスフィルムの買収には、世界屈指の特殊効果・VFXスタジオ、インダストリアル・ライト&マジックも含む)。
これらの買収により、一流のクリエイター、テクノロジストを得るとともに、これまでのディズニー流とは異なる“新しいカルチャー”を手にした。とくに、ピクサー買収を通じて、スティーブ・ジョブズ、アップルと良縁を築けたメリットは計り知れない。
ディズニーのテクノロジーの力は、『アナと雪の女王』のCGはもちろん、2015年12月18日公開予定の『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』にも存分に発揮されているという。
ほかにも、フロリダ・ディズニーランドでのRFIDを埋め込んだリストバンド活用、スポーツ専門チャンネルESPNによるスポーツ中継でのドローン活用など、テクノロジーが戦略に溶け込んでいる。傘下のTV局ABCのTVドラマをいち早くiTunesに配信するなど、デジタル配信にも積極的だ。
今のディズニーを端的に表すのは、本文中で引用されている、シェリル・サンドバーグ・フェイスブックCOO(ディズニー取締役も兼務)の以下のコメントだ。
「コンテンツにフォーカスしている企業や、テクノロジーにフォーカスしている企業はたくさんある。しかし、ディズニーのように、双方にフォーカスしている企業は極めて稀だ」
ディズニーの2014年9月期の業績は、売上高が488億ドル(約5.8兆円)、営業利益が114億ドル(約1.3兆円)に達し、ともに過去最高を更新。コンテンツとテクノロジーの融合という点でも、経営という点でも、今のディズニーは、向かうところ敵なしである。
Pick 2: ヤフーのコンテンツ強化を担う、スターキャスター
・ By Danielle Sacks“ KATIE COURIC“I’m in this giant petri dish where anything is possible”Fast Company(2015年2月号)
コンテンツ企業として、テクノロジー強化に励んだのがディズニーだとしたら、その逆を行くのがヤフーだ。CEOのマリッサ・メイヤーの指揮の下、テクノロジー企業として、コンテンツ強化に挑んでいる。
その象徴と言えるのが、現在、ヤフーのグローバルニュースアンカーを務める、ケイティ・クーリックだ。
クーリックは、NBC『トゥデイ』『CBSイブニングニュース』などでキャスターを務めてきた、大物ニュースキャスターだ。そんなスターキャスターが、昨春よりヤフーに参画し、政治、医療、社会問題、イノベーションなどのニュースを動画で発信している。
まだクーリックの試みは、成功しているわけではないが、活字メディアだけでなく、映像メディアでも、大物のウェブシフトが進み始めているのは、米メディア界のダイナミズムを感じさせる。
日本でも、池上彰さんのようなスターが、ウェブの世界での活動を増やせば(もしくは専属になれば)、風向きが一気に変わるかもしれない。
テクノロジーの進化、マネーの流入、消費者のスマホシフトなど、ウェブメディアが盛り上がるための土壌は整いつつある。最後のピースとして欠けているのは、クオリティコンテンツであり、それを生み出せるスターだ。
Pick 3:英誌「The Economist」の5つの強み
・近藤甘奈 “英誌「The Economist」編集長ロングインタビュー 世界一信頼される経済誌の秘密”『文藝春秋』(2015年2月新春号)
世界一のクオリティ経済誌と言えば、英国のThe Economistが筆頭に挙がるだろう。同誌は雑誌不況もどこ吹く風、過去20年で部数を、60万部から155万部へと大幅アップさせている。
同誌は、経済を超えた多様なテーマをグローバルで取材しているだけに、いったい何人メンバーがいるのかと思いきや、編集者・記者の総勢はわずか75名だという(うち4割が国外勤務)。その生産性の高さに驚かされる。
ジョン・ミクルスウェイト編集長が挙げる同誌の強みは以下の5つだ。
1)グローバルな視点
2)ニュースのフィルターという役割
3)データ収集・分析・ビジュアル化の能力
4)購読料に依存したビジネスモデル(広告依存度は25%以下)
4)自由市場主義で、リベラルなスタンス
個人的に、3)はとくに興味深い。ビジュアルをさらに強化するため、これまで別々だったデータ分析部とグラフィックス部を統合したという。
編集長がインタビューの最後で、記者、編集者に大事な姿勢として、「パラノイア(恐怖)」を挙げ、「常に読者に有意義で価値があって、適切な情報を届けられているかを、悩み、考え、焦り、追い詰められること」を説いているのが印象的だった。
経営者だけでなく、編集者・記者にも「パラノイアだけが生き残れる(by インテル創業者のアンディ・グローブ)」という時代が訪れようとしている。
Pick 4:デビット・フィンチャーの「ドラマの長さ」論
・ “デビッド・フィンチャー ドラマ初挑戦にしてエミー賞を席巻。『HOC』成功の背景を問う”『CUT』(2015年1月号)
映画監督・デビッド・フィンチャーへのインタビューが面白い。
デビッド・フィンチャーは、映画、TV、CMと全方位でプロデューサー・監督として活躍。最近は、ネットフリックス向けのTVドラマシリーズ『ハウス・オブ・カード(HOC)』で話題をさらい(この作品は強力におすすめする)、最新作の映画『ゴーン・ガール』も強烈な内容だった。
そんなフィンチャーが、「今後のドラマはどう進化すべきだと思いますか?」という質問に答えたくだりが示唆深い。
「1時間ドラマだったら54分、30分ドラマだったら22分という時間枠を壊すことだと思う。11分の回があったその次に1時間40分の回があってもいい。そうすることで、ドラマは小説的なものに成長することができると思う」
テレビも本も雑誌もウェブも、みな「定形の長さ」にこだわりすぎる。これからは、「長さ」を変えることで、イノベーションが生まれるはずーーわたしもそれを肝に銘じて、「長さ」を考え抜きたいと思う。
※Weekly Briefing(メディア・コンテンツ編)は毎週火曜日に掲載する予定です。