2015年予測_女性 (1)

2015年の予測~女性編~

優遇政策により、「育休男子」が激増する

2015/1/3

日本の企業社会で女性活躍推進が遅れている背景の一つとして、長年指摘されてきたのが「妊娠・出産を機に仕事を辞める女性」が6割以上にものぼるという現状だ。

「産んだら辞める」がスタンダードになってしまった理由としては、産後も女性が無理なく働き続けられる環境整備の遅れという企業側の努力不足がよく指摘されてきた。しかし、もう一つの側面として、家庭の中での育児の担い手が女性に偏り過ぎていたという問題も無視できない。

「男は育児より仕事。たとえ共働きだったとしても、育休をとるのは女性だけというのが当たり前」というジョーシキが誰に対しても適用される前提のようになり、産後の“保活”(子どもが通う保育園を探し、限られた枠に入るべく各園・自治体窓口を走り回る活動のこと)や、復職後のハードな両立生活も妻が一身に負担する家庭は多数派であるのが今の日本の現状なのだ。

周りにいるワーキングマザーがゆとりなく多忙を極める空気を振りまいていれば、これから出産を迎える若い女性たちは「あんなに大変そうな生活、私には無理」と諦めたくもなる。

「育児はしっかりしたい」→「でも、夫は頼れないから、やるとしたら妻の私ががんばるしかない」→「一人で仕事と育児の両立は大変そう」→「ならば、私が仕事を辞めるしかない」というロジックで、合理的選択として女性は「産んだら辞める」を選んできたのだと私は思う。

つまり、男性が育児にも参加しやすい環境が整えば、出産を理由に好きな仕事を辞めなければならない女性は減るはずだ。

男性が育児参加しない理由はオカネ?

男性が育児に参加しづらいのは、長時間労働を前提とした企業環境や、「男は仕事に生きるべし」という空気、それぞれの個人が持つ人生の価値観など様々な要因が関係しているが、実はネックになっているのは”オカネ”かもしれない。

男性側も育児をしたいという意欲はあっても、平均賃金が男性優位の日本では「稼ぎ頭が休まれたら困る」という家庭の事情がある。なぜなら、2013年度までは育児休業中に支給される収入=「育児休業給付金」は休業前の50%だったからだ。

夫の給料が半減するリスクをとるより、妻が頑張って育児を担うという選択をする夫婦が多いのは当然かもしれない。

男性育休取得率が13%以上なら法人税軽減

この収入の心配を解消するアプローチとして注目されているのが、2014年4月に改正雇用法の一部施行による、育児休業給付金は67%にアップという”育休改革”だ。

雇用保険料の免除なども計算すると、約8割の収入が保障されることになる。育休当初180日間に限定されるとはいえ、夫婦が交代で取得すれば、片方の収入80%キープのまま1年は育休取得が可能になる。

さらに2015年度からは、男性の育児休業取得率が13%を超える企業には法人税軽減をするという方針がほぼ固まっている。

13%といえば「7人に1人」で、ひとつの課やチームに1人は「育休男子」がいるような風景がイメージできる。家庭の財布だけでなく”企業の財布”も支える政策が踏み込んで実施されることで、「育休男子」は加速的に増えそうだ。

結果、女性の育児負担が軽減され、キャリアを中断する女性は減り、「産んでも辞めない」が初めて過半数を突破。新たなスタンダードになる(…と期待したい!)。

その他の予測トピックも簡単に

◎新卒採用は理系を中心に女子売り手市場へ

「2020年度までに指導的地位の女性を30%に」という政府目標に合わせ、女性管理職育成を急ぐ企業が、新卒で女子学生を積極的に採用。

◎30代半ばの不遇世代のヘッドハントも過熱

また、「即戦力になるマネジャー候補」として中途市場でも女性の需要が過熱。新卒時代に氷河期で辛酸をなめた30代半ば~後半世代にはヘッドハントの引き合いが増え、リベンジを実現する女性たちも増える。

 2015年予測_女性

◎主婦の復職が増加、復職サポートビジネスが続々登場、“働く女の多様化”は進む

配偶者控除の撤廃など、「主婦復職」関連政策がさらに進んで、ブランクを乗り越えて職場復帰しようとする女性が増加。そこで課題になる「ブランクの不安」を解消するサービスとして、ビジネス感覚を取り戻す、語学やITなどのスキルを磨くといった研修ビジネスが盛り上がってくるはず。また、「フルタイム勤務は無理でも、1日数時間の在宅勤務なら可能」といった多様な働き方のニーズに応えるマッチングサービスも充実してくる。同時に企業内では、様々なバックグラウンドを持つ社員に対応する組織運営がますます求められる。「ブランクを経て復職した元主婦社員」「仕事一筋でずっとやってきたシングル社員」「育児や介護で残業できない制約社員」など、”働く女の多様化”はますます進む。

◎「女の定年」が新たなキーワードに

1986年の男女雇用機会均等法の施行から30年目を迎え、当時社会に出た女性たちは50代に。遠くない将来に「定年」を控え、「女の定年の迎え方」がこれまでになかったテーマとして徐々に注目されそう。役員まで目指す、専門スキルで組織に貢献する、早期退職してセカンドキャリアを切り開く…など、どのような締めくくりを女性たちが選択していくのか。これまでの男性社会にはない新たな選択肢も生まれるかもしれない。

◎「ワーママ」をターゲットにしたメディアがタッグを組んで共同宣言

近年はワーキングマザー読者を意識した記事を積極的に発信し、「ワーママ1000人委員会」を立ち上げた『AERA』(朝日新聞出版)、共働き育児世帯に特化したウェブメディア『日経DUAL』(日経BP社)など、「ワーママ」系メディアの存在感が増している。これらのメディアがタッグを組んで”共同宣言”として、政府に向けた要望書などを提出する動きがそろそろ出そう。派生して、新党結成もあるか?

【プロフィール】
宮本恵理子(みやもと・えりこ)
ジャーナリスト、ノンフィクションライター、編集者。1978年福岡県生まれ。筑波大学国際総合学類卒業後、日経ホーム出版社(現・日経BP社)に入社し、「日経WOMAN」「日経EW」「日経ヘルス」の編集部に所属。2009年末にフリーランスとして活動を始め、主に「働き方」「生き方」「夫婦・家族関係」のテーマで人物インタビューを中心に執筆する。編集者として書籍、雑誌、ウェブコンテンツなども制作。著書に『大人はどうして働くの?』 (日経Kids+)などがある。