2022/10/17

【8年目】「SDGsスコア」19位の日本。進捗状況をチェックする

NewsPicks Brand Design Senior Editor
 電車にタクシー、テレビにと、街中にあふれる「SDGs」の文字。
 しかし、一体どれだけの人が、内容をきちんと理解し、行動に移せているのだろうか。
 SDGs、つまり「Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)」が初めて提唱されたのは2015年9月。
 国連のサミットで、その加盟国によって採択され、2030年までに解決すべき問題を、17のゴール・169のターゲットで構成した。
 日本を含めた先進国と発展途上国が取り組む、普遍的なスキームとなっている。
 そして、今年で丸8年。2030年までの15年間のうち、約半分の月日が経ち、早くも折り返し地点にきている。
 その進捗状況を示すべく、ドイツのベルテルスマン財団や、SDSN(持続可能な開発方法ネットワーク)がスコア判定を、2022年6月に発表した。
 これによると、日本は19位
 順調な目標もあれば、「5:ジェンダー平等を実現しよう」「12:つくる責任 つかう責任」「13:気候変動に具体的な対策を」「14:海の豊かさを守ろう」など、劣後している目標もある。
 今後、企業や我々ビジネスパーソン個人は、SDGsの達成に向けて、どんなアクションを取るべきか。
 SDSN Japanのプログラムチェアで慶應義塾大学大学院教授の蟹江憲史氏と、株式会社ニューラルCEO/信州大学特任教授の夫馬賢治氏の、SDGsに関する専門家2人に、SDGsスコアも踏まえて、現状に通信簿をつけてもらった。

SDGsの本当の意味

 まず、SDGsについておさらいをしておこう。
 SDGsとは、地球環境の保持あるいは改善をしつつも、人類が発展するために採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」に記載された国際目標を指す。
「我々の世界を変革する」を基本理念とし、政府、企業、金融機関などが共に協力しあい、課題解決と経済成長を両立できる社会をつくるべく、抜本的な変革を目指している。
 しかし、SDGsのメッセージを正しく理解するのはなかなか難しい。なんとなく「地球環境に貢献しよう」といった受け取り方をする人も、少なくないはずだ。
「SDGsの本質は、環境や社会を良くするためだけのものではありません。環境や社会をより良いものにしながら、経済成長を促進させることです。その認識がない人が意外と多い」
 そう話すのは、サステナビリティ戦略やESG経営のコンサルティングを行う、株式会社ニューラルCEOの夫馬賢治氏だ。
「まず、2015年9月の国連サミットで加盟国の全会一致で採択された『持続可能な開発のための2030アジェンダ』の冒頭に、こう明記されています。
『これらの目標及びターゲットは、統合され不可分のものであり、持続可能な開発の三側面、すなわち経済、社会及び環境の三側面を調和させるものである』。
 つまり、SDGsの17のゴールは環境・社会・経済の3つの分野に分けられます」(夫馬氏)
 この3つはピラミッドのようになっていて、ボトムが環境、真ん中に社会、トップが経済となる。
 環境や社会の土台がなければ、経済が立ち行かなくなるということを、視覚的に示しているのが下記の図だ。
「このアジェンダには91項目の宣言が書かれているんですが、特に企業及びビジネスパーソンは67番目の一文に注目してほしいんです。
 そこにはこう書かれています。
『我々は、民間セクターに対し、持続可能な開発における課題解決のための創造性とイノベーションを発揮することを求める』
 つまり、アジェンダにおいて企業に求めるのは“創造性”“イノベーション”なんです」(夫馬氏)
 課題解決をしながら経済成長を実現するためには、今の経済モデルを根本から変えなくてはいけない。だからこそ、イノベーションが必要なのだ。
iStock / Diego Thomazini
 今の技術やビジネスモデルでは、特に環境や人権などのサスティナビリティの観点から、多くの課題があると既にわかっている。
「だからこそ、既存事業でのSDGsへの貢献をうたうことにほとんど意味はないんです」(夫馬氏)
 しかし、現実は「日本ではSDGs=反経済成長のように捉えられがち」だ。
 SDGsというと、経済を縮小しながら環境負荷も低減して、低カロリーな暮らしを目指すものと思う方もいるかもしれない。
 しかし、人口が大幅に増加した世界では、経済活動を多少縮小したところで、SDGsが掲げる環境課題は解決しない。
 あくまで環境や社会の問題を「”創造性”を駆使しながら解決し、イノベーションを促し、人類が過去なし得ていない社会・経済モデルを実現すること」が、SDGsで掲げられていると夫馬氏は説明する。

SDGsはイノベーションの中心地

「持続可能な開発のための2030アジェンダ」及びSDGsの目標に、“創造性”と“イノベーション”と明記されたのは、これまでの教訓がある。
 SDGsの前身となるMDGs(ミレニアム開発目標)は、途上国の課題解決を目標に2000年に採択されたが、課題が残る結果となった。
 その大きな理由が「MDGsは国が主体となる取り組みだったから」と夫馬氏は指摘する。MDGsは目標期限だった2015年までにほとんどが達成できず、その多くが後継となるSDGsに引き継がれることになった。
「MDGsは国が主体となったために、イノベーションが起こせなかった。創造性とイノベーションを起こせるのは、やはり企業であり民間セクターが多いですから」(夫馬氏)
 現在、人工培養肉を生み出すフードテックや、再生可能な次世代エネルギーを開発するクリーンテックに注目が集まっており、これらのイノベーションがSDGsの目標達成の手段となるのは想像に難くない。
iStock / Olga Ubirailo
 では、SDGsの達成に、創造性とイノベーションが鍵を握っているとして、どんなアプローチができるのか。
「SDGsの進捗が劣後している目標がありますが、これがイノベーションを必要としている領域とイコールだと考えています。
 私はESG投資にかかわる仕事もしていますが、いま消費者向けのデジタルサービス分野への投資が冷え込んでいるなかで、環境やエネルギー分野には依然としてお金が流れています。
 VCやコーポレート・ベンチャー・キャピタル(CVC)、金融機関などがSDGsの中で課題の大きい分野に投資するので、この分野のスタートアップには資金が集まっています。
iStock / Khanchit Khirisutchalual
 つまり、イノベーションの中心地がSDGsなのです。そして、この競争に負けたら、ビジネスと市場競争にも負ける。
 すでに、大企業やスタートアップも、この観点を経営戦略の柱に据える企業が続々と登場しています」(夫馬氏)
 しかし、2030年のSDGs達成から逆算すると、多くの時間は残されていない。
 いつイノベーションが生まれ、それがどう課題解決へと導き、経済成長を達成できるかというと未知数な点もある。
「だからこそ、世界の協調が重要。SDGsは日本だけでなく、世界の目標です」と語るのは、日本政府の「持続可能な開発目標(SDGs)推進円卓会議」構成員を務める、慶應義塾大学大学院教授の蟹江憲史氏だ。
「自国が不足している目標については、他国のナレッジや方法論を生かすというのも手かもしれません。
 逆に進んでいる課題に関しては、相応の技術や制度を有しているはずなので、他国にシェアしていく。
 そこには当然ビジネスチャンスもあるわけですから“共有する”という意識があれば、結果的に全体最適に収斂していくのではないかと考えます」(蟹江氏)

「SDGsスコア」19位の日本は良いのか、悪いのか

 さて、2015年に『持続可能な開発のための2030アジェンダ』が採択されて、8年目を迎えた。
 実際に進捗状況はどうなのか。企業は“創造性”と“イノベーション”を発揮し、SDGsに向けてよりよいアクションが取れているのか。
 それを示すべく、2022年6月にドイツのベルテルスマン財団とSDSN(持続可能な開発方法ネットワーク)が、スコアを発表した。
 各国のSDGsの進捗状況についてスコア判定をする「SDG Index & Dashboards 2022(SDGsスコア)」だ。
 前述したように、日本は2022年現在19位(163カ国中)で、一見するといい数字に思えなくもない。
 これについては、どう判断したらよいのだろう。
 スコアを発表したSDSN Japan チェアも務める蟹江氏は、こう評価する。
「特に、気になるのは『5:ジェンダー平等を実現しよう』ですね。SDGsスコアでも非常に劣後していますし、2022年のジェンダーギャップ指数では、146カ国中116位とG7で最下位ですから。
 それから『12:つくる責任 つかう責任』も大きく劣後していて、重要課題のひとつです。これは、破棄するところまで考えてモノをつくりましょうという目標ですが、こちらも低評価になっている。
 ただ、まだ課題が多い一方で、『教育』『産業や技術基盤の構築』などは、他国と比較すると水準が高いという評価が出ています。
 19位という数字は物足りないイメージがありますね」(蟹江氏)
 ただ、蟹江氏は「SDGsスコアだけを見て、その国のSDGsの到達度を一律に評価することは難しい」と留意する。
 たとえば、図書館の数で教育や文化を測る指標とすることもあるが、本はカフェやアパレル店舗、企業、家庭にも存在する。一律に測れる指標には限界もあるので、教育水準や文化度を正確に評価するのは困難だ。
iStock / Wavebreakmedia
 厳密にスコアを精緻化し、平等にスコアリングするには課題がある。
 その上で、重要なのは順位を確認して「良かった」と溜飲を下げるのではなく“測ること”だと蟹江氏は言う。
「測り方によって、ランキングが変わるという部分は留意すべきなんですが、SDGsの功績は、進捗状況を可視化する点にあります。
 SDGsの前身の取り組みであるMDGsは、主として途上国が対象でした。だから世界中の環境・社会・経済に関する取り組みを“見える化”しようとする試みはこれが初めてなんです。
 可視化できれば、各国の不得意な分野がわかり、何をすべきなのかが見えてくる。これが非常に重要なのです」(蟹江氏)
 夫馬氏も、順位だけを見て一喜一憂するものではなく、これまでの取り組みを回顧した上での考察が重要だという。
iStock / Golden Sikorka
「日本はかつて世界第2位の経済大国だったわけで、世界でも有数の豊かな国であることは間違いありません。街はゴミもなく綺麗だし、大気汚染もそんなに深刻じゃない。
 でも、大事なのはSDGsスコアの『モメンタム(勢いや方向性)』です。
 順位がどんどん落ちて、良くない状況になってきている。まるで、かつて高かった日本の給与所得額が30年横ばいで、順位を落としているのと同様に感じます。
 これこそが最大の問題。このままだと、2040年には50位以下になっていても不思議ではありません」(夫馬氏)

8年目のSDGsを採点する

 ここまで見てきて、日本の19位というスコアが、ポジティブには捉えられないことがわかってきた。専門家の2人は、いまの日本の現状をどう見ているのだろうか。
 最後に10点満点中で、“通信簿”をつけてもらった。
「総合的に見て6点でしょうか。SDGsという言葉がこれだけ広まったのは高く評価したいと思います。
 ただ、行動が伴っていないという点でやはりマイナス。知ることは第一歩なので評価しつつも、あとは進捗を確認しながら、良いところを伸ばし、劣後している点にフォーカスする。
 そのためには、個人にしろ企業にしろ、成功事例をどんどんつくり、共有しあうことが大事だと思います」(蟹江氏)
“ギリギリ合格点”を出してくれた蟹江氏に対し、やや厳しめの夫馬氏。
「僕は3点をつけたい。
 やはりモメンタムがないという点に加えて、近年は飢餓と貧困が世界でも日本でも増えており、経済格差も拡大していますからね」(夫馬氏)
 日本では、食べられるものを食べずに廃棄する「フードロス」が社会問題となっている。一方で相対的貧困率は15.7%(7人に1人)という状況だ。
 輸入依存率が高い日本において、気候変動で穀物を輸入できなくなる可能性も否定できない。そうなったとき、SDGsスコアはもちろん、生活の実態もさらに悪化する。
iStock / hamzaturkkol
「それなのに『SDGsって何ですか?』と聞いたら、『国連がつくったやつですよね。17個の目標があって……』と、のほほんと考えている。
 そして『じゃあなぜ必要なの?』って聞くと、何が求められているか、どのレベルまでやるべきか、達成できなかったらどうなるのかの理解がないのはかなりマズい」(夫馬氏)
 夫馬氏は自分ごと化できない理由を「良くも悪くも30年間安定していたから」という。
 SDGsを達成できても、できなくても「きっと変わらない」と錯覚してしまっていることに、最も懸念を抱く。
 しかし、8年後の2030年は必ずやってくる。
 新型コロナやウクライナ情勢の影響によって、我々の生活や仕事は“世界と繋がっている”という意識が、改めて芽生えた人もいるはずだ。
 我々のアクションは、少なからず世界とリンクしている。そして、SDGsに対するポジティブな取り組みは、社会的・経済的にも評価されるようになってきた。
 残り8年で、本気でSDGsをスコープに入れたビジネスやイノベーションを推進するのか、そうでないかで、環境・社会・経済は大きく変わっていくはずだ。