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激論Jリーグ・第3回

Jリーグは原理主義者になってはいけない

2014/12/31
Jリーグは約20年間、創立時の理念を守ってリーグを発展させてきたが、理念に縛られる「原理主義者」が生まれるという弊害も出てきた。「このままでは川淵さんを妄信する人間がJリーグを滅ぼす」。金子達仁が警鐘を鳴らす。
リクルート出身の村井満チェアマンには、創立時のルールに縛られずに改革することが期待される。(写真:松岡健三郎/アフロ)

リクルート出身の村井満チェアマンには、創立時のルールに縛られずに改革することが期待される。(写真:松岡健三郎/アフロ)

今必要なのは愛のあるケンカ

――金子さんはFC琉球のスーパーバイザーを務めていて、マレーシアU-23代表選手を獲得した経験があることを前々回の連載で触れました。そもそもなぜマレーシアの選手に注目したんでしょう。

「ロンドン五輪予選で日本と対戦したときに、マレーシアの選手たちに惚れ込んだのがきっかけだった。で、選手獲得には至らなかったけれどベトナムの選手にも惚れた。今の東南アジアは才能の宝庫。東南アジアのリーグも爆発するポテンシャルを持っているよね」

――Jリーグは怠けていると抜かれてしまうと。

「正直、日本人は怠けはしない。ただ、原理主義者になってしまうところがある。ルールを作ると、そのルールに自分たちが縛られてしまう。今はそこを壊すべきとき。村井満チェアマンに一番期待しているのは、川淵三郎さん(日本サッカー協会最高顧問)にケンカを売ること。川淵さんを否定する勇気。リクルート出身の村井さんは外様ですごい大変だと思うんだけど、外資の導入は大英断だと思うし、微力ながら応援したい」

――あまり大胆に動くと、抵抗勢力に潰されるかもしれません。

「役所もそうだけど、日本は偉い人が決めたルールに関して、思考停止になってしまう部分がある。で、20年間思考停止しを続けてきたのがJリーグだった。ぶっ壊す、というのを期待したいな」

――川淵さんもJリーグの創設者として、それを待っているかもしれませんね。

「と思うよ。川淵さんが一番困っていると思う。現人神(あらびとがみ)にされてしまって。忘れちゃいけないのは、何かやろうとすると必ず『時期尚早だ』と言う人たちが今のJリーグにはいるけど、それと一番戦ったのは川淵さんだからね。Jリーグを作ろうとした当時、『日本にプロサッカーなんて』という意見ばかりだったんだから。川淵さんが言っていた中で一番素敵な言葉は、『まだと言う人たちは100年経ってもまだと言う』。だから絶対に川淵さんはわかってくれるという信念を持ってケンカを売っていいと思うけどね」

――愛のあるケンカですね。

「でないと、川淵さんを妄信する人間が、このままJリーグを滅ぼすと思うから。それは琉球で本当に痛感した。なぜ企業名を排さないといけないのか。突き詰めると川淵さんが決めたからでしかないのよ」

奥大介さんの事故が突きつけた現実

――世界的にも企業名は絶対禁止ではなく、ドイツにはバイヤー・レバークーゼン(バイエル薬品のチーム)があるわけですからね。

「沖縄で事故に遭って亡くなった奥大介さんの人生を考えてほしい。世界的な経済大国において、トップリーグでプレーしていながら、代表になっていながら、引退後に離島のホテルで皿洗いしていた。これがドイツ代表でありえるだろうか? 三流や二流の選手はプロ野球でも大変だよ。でも侍ジャパンに入るような選手が、皿洗いをするかな」

――いろいろな経緯があったとはいえ、野球とサッカー、何が違うんでしょうか。

「野球は引退後に困らないくらいの稼ぎが現役中にあるから。たとえば元阪神の金本知憲さんは年俸が5億円以上だったからね。それを3年やったら、引退後に贅沢しても大丈夫でしょ。すごい選手だったから当然の報酬。でも、奥さんが金本さんの10分の1の価値しかなかったか、というと…」

――ジュビロ磐田の黄金時代に輝いていました。

「あのときのジュビロはすごかったじゃない?」

――日本サッカー界全体が考えなければいけないテーマですね。

「今のJリーグの制度は、選手たちを著しく食い物にしてしまっている。選手たちの犠牲の元に成り立っているというのを、Jリーグの経営者たち、早く気づけよって」

――あの事故はその問題に気がつく契機にしなければならないですね。

「ほとんど誰も気づいてないけどね」

経営者の関心をJリーグに引きつける仕組みを

――前回も触れましたが、サッカー界で当たり前だと思っていることも、広い視野で見るとブラック企業的と言われてしまうかもしれません。

「飛行機の移動で、社長はビジネスクラス。選手はエコノミー。珍しくないよな? それをおかしいと思わない人は、経営に関わっちゃいけないと思う。選手って宝物なんだぜ。一部のチームを除いて、それを石ころのように扱っているのが、今のJリーグだと思う。お金がないからしょうがないでしょっていう言い訳のもとに」

――確かにそこに疑問を持たなきゃいけないですね。

「なんでプロ野球には契約金があるのに、Jリーグはないのって」

――当初はクラブを保護するのが目的でした。でも現在は、雇う側、雇われる側、双方から不満が出ていますね。

「自分が親だったら、子どもがJリーガーになりたいと言ったら絶対に反対するもん。野球の場合、1億円以上の契約金をもらっても、マスコミまで一緒になって嘘をついてくれるわけじゃない? 1億円だって言ってくれる。スポーツの才能はお金になるというのを、ちゃんと国として認めてあげないと、今みたいな『ブラック企業スポーツ』の国がオリンピックをやっちゃいかんと思うな。メディアで叩かれているブラック企業より、もっとひどいよ」

――前回、FC琉球の新人選手の月給が3万円だと聞きました。3部の選手になれる力があるのに、その報酬しかもらえないとは…。

「俺は学生時代にレストランで働いて月に12万円稼いでたから。これが日本のプロスポーツの現実です。村井チェアマン、これを放置するんですか? 今のJリーグには頑張っているクラブがたくさんあるよ。たとえばJ3のガイナーレ鳥取では、GMの岡野雅行くんがカニを売って頑張っている。ふるさと納税にヒントを得て、チームに寄付をしてくれた人に海産物を送ってね。そのお金で外国人選手を補強したりしているんだけど、それで中国のクラブと戦えますかって話じゃない」

――それは無理ですね…。企業名を出せれば、徳島ヴォルティスももっとJ1で健闘できたかもしれません。大塚製薬が出資しているので。

「エリエールが愛媛FCのスポンサーになっているけれど、もし企業名をチーム名に出せれば、経営者がカジノにつぎ込まずにクラブに使ってくれた可能性もあるわけじゃない。サッカーチームを自分のお金で強くするって、世界中のお金持ちの夢なわけだから」

――その熱狂はカジノどころじゃないわけですね。

「だってバルサをいわす可能性があるんだぜ。ACLを勝ち上がっていけば。まだ誰もアジアからヨーロッパチャンピオンをいわしたことがない。いわしてやろうって、孫正義さんなら考えるよな」

(聞き手:木崎伸也)

*次回は2015年1月中旬に掲載する予定です。