[ロンドン 30日 ロイター] - ロシアから欧州にガスを送る海底パイプライン「ノルドストリーム」のガス漏れについて、欧州各国は破壊工作によるものだと見て警戒を強め、他のエネルギー供給システムの安全を確保するため、軍を送るなどの対応に乗り出した。

ロシアのウクライナ侵攻を契機とした欧州エネルギー危機は、供給確保の問題から供給網の安全確保の問題へとエスカレートしつつある。

<高まるノルウェーの重要性>

米戦略国際問題研究所(CSIS)は「最も差し迫った懸念は、輸送を開始したばかりの『バルチック・パイプ』を含む、ノルウェーと欧州を結ぶパイプラインの安全確保になるだろう」との見方を示した。

欧州がエネルギー危機を乗り切る上で、ノルウェーの重要性は高まっている。同国は生産を拡大して欧州に対する最大のガス供給国になり、欧州需要の約30%を賄うまでになったと、エネルギー調査会社のライスタッド・エナジーのアナリスト陣は説明している。

昨年は欧州ガス需要の約40%を供給していたロシアは現在、その割合が10%を切っている。

ノルウェーの石油、ガス、水力発電の大半は沖合で生産され、海底パイプライン・ケーブル網を通じて欧州に送られている。

欧州諸国はノルドストリームのガス漏れ原因を破壊工作だと考え、こうした他の海底設備の安全性にも不安を募らせている。

ノルウェーは90を超える沖合油田・ガス田に加え、全長9000キロに及ぶガスパイプライン網を守るため、軍を派遣した。

ドイツのエネルギー当局は、重要なエネルギーインフラの保護強化を呼びかけた。同国送電システムの4大運営会社は、安全確保で緊密に協力していると明かした。

近く退陣するイタリアのドラギ政権は、南方や東方からイタリアにガスを送る海底パイプラインの監視と制御を強化した。高官2人が明らかにした。

ポーランドの送電大手PSEによると、スウェーデン電力当局は、スウェーデンとポーランドを結ぶ送電用海底ケーブルの点検を実施する。このケーブルは被害を受けたノルドストリームと交差する位置関係にある。

<新パイプライン巡り警戒>

データ分析大手のフィッチ・ソリューションズのアナリスト陣は「重要インフラに追加的な破壊工作が行われる恐れが強まっており、戦争がより広い地域紛争へと拡大するリスクが浮上している」と指摘する。

欧州には、欧州連合(EU)諸国間およびロシア、アフリカ、アゼルバイジャン、トルコ、北海を結ぶ数十本のガスパイプラインが通っており、建設中、計画中のものもある。

この他に送電用海底ケーブル、送電網、液化天然ガス(LNG)ターミナル他の施設もあり、破壊工作の標的になりかねない。

特に重要なのは、ノルウェーとポーランドを結ぶ新たなガスパイプライン「バルチック・パイプ」で、10月1日からデンマーク、ポーランド市場と近隣諸国のエンドユーザー向けに輸送を開始した。このパイプラインも、デンマーク沖の島の近くでノルドストリームと交差している。

ポーランド当局はバルチック・パイプの海底部分を監視。デンマークエネルギー当局は、全ての電力・ガスインフラの保全を強化するよう指令を出した。

<サイバー攻撃>

エネルギーインフラは、以前からサイバー攻撃にも弱い。

今年はウクライナが、ロシアによる電力網へのハッカー攻撃の試みを阻止したと発表したが、過去には同攻撃により停電が起こったことがある。

米国でも昨年、サイバー攻撃でパイプラインが5日間停止した。米国は欧州に対する最大のLNG輸出国であり、その供給の安定確保は必須だ。

今年6月、米フリーポートLNGターミナルで火災が発生した際には、輸出に影響して欧州のガス価格が急騰した。

ライスタッド・エナジーのバイスプレジデント、エミリー・マクレイン氏は「(ノルドストリーム級の)供給削減が起こると、影響は免れない。短期的に親ロシア方向に政治情勢が振れたとしても、既に深く破壊された欧州のガス供給システムを元に戻すことは不可能だろう」と語った。

(Nina Chestney記者)