AGC、新型ワクチンの原料生産 国内一貫体制が可能に
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mRNAワクチンを作るには「翻訳元の遺伝子情報」が必要で、研究機関がこれを入手するための国際的枠組みがあります。商業生産でmRNAを効率的に転写させるために必要な転写剤(遺伝子の一部に類似した構造を有する、核酸修飾に適した物質)は外国で最初に開発されていますが、改良の余地もあります。
mRNAとは遺伝子の一部の総称ですから、記事本文の「mRNA生産」という記述は正確ではないと思います。記事にある「原料」とは商業生産でmRNAを生産するために必要な原料(転写剤)を指しているはずで、記事の説明では、AGC社やタカラバイオ社は政府の援助に支えられ、転写剤について国内由来原料で製造するルートを作ったという意味になると思います。
輸入原料に頼っている場合、有事の際に外国からの供給が絶たれて危機に瀕しますから、このような取り組みには大きな意味があります。ワクチンや医薬品は安全保障上の確保すべき対象物質であることは間違いなく、この点で朗報です。
デメリットとしては、そもそもこれまでは「安価な原料を求めて」原料ないし原料の半製品を海外輸入していたことから、「国内産」では製薬企業の製造コストが上がると思います。現状、政府指示の薬価が毎年下がり続けるような改定が今後も伴うと、コスト上昇から製薬企業が産業として成立し難くなる危惧がうまれます。
実際に「日本製造」とするためには、修飾されたmRNAをターゲットに届けるために必要な「脂質ナノ粒子 (LNP) 」といわれる物質や、安定化のための添加物などが必要で、「日本製(日本開発)」とするためには、日本でワクチン基礎研究を行い、臨床研究を行うのに適した環境を整える必要があります。現在の日本の立ち位置からすれば簡単なことではありません。
日本は新型コロナウイルスが蔓延するはるか以前、ワクチンの生産技術においては世界有数の国でした。しかし20世紀後半から、ワクチン接種の任意化や安いワクチン価格、感染症対策の軽視の風潮を見据えて、各企業は技術開発をほぼ中止し、一部のワクチン専業メーカーは他社との合併、他の製品を有する製薬企業はワクチン事業からの撤退を試みてきたという経緯があります。
こういった状況の中で、日本では新型コロナ拡大初期でのワクチン開発がスムーズに進められなかったことから、バリューチェーンの全般的な立て直しが必要だと思います。以前、AGC副社長の宮地さんにインタビューさせていただいた時に伺った言葉が思い出されます。
「AGCの最近の社長は、大きな事業部出身からではなく、比較的傍流育ちが多いということもひとつの要因かもしれません。 大きな事業部の幹の中で育つと、その中にとどまり続け、動けなくなってしまいます。しがらみが生まれ、大きな変革ができなくなるのです。変革は、常に辺境から起きます。傍流の人だからこそ、思い切った決断ができてきた面はあると思います。」
https://www.agc.com/hub/pr/np_organization.htmlAGCは、核酸医薬(広い意味でワクチンを含む)の製造受託設備では世界でトップクラスです。これは、日本の大きな強みですよ。
もう一つは、長期的な視点ではワクチンに目を奪われ過ぎないほういいと思います。核酸医薬全般が伸びるかという視点が重要ですし、mRNA医薬、アプタマー、アンチセンスもあれば、それ以外にも多くの種類がありますので、どれが実用化段階に入ってきたか見ておく必要があります。
https://www.bonac.com/nucleic/about/
ちなみに私はとあるアンチセンス核酸医薬品の発明者に名前が入っています。
https://jglobal.jst.go.jp/detail?JGLOBAL_ID=201603020905248830