2022/9/30
どこから始める働き方改革 老舗企業にならう「推進の一手」
後継問題や、社員の高齢化、事業の停滞など日本の多くの中小企業が課題を抱え、事業をたたんでしまうことも多い昨今。創業110周年を迎えるオカモトヤは、働き方改革によって、そういった壁ひとつひとつを乗り越えてきました。
今では“ホワイト企業”と認定され、お手本としてスポットライトを当てられることが増えましたが、変革を1からトップダウンで進めたのは跡取り娘の4代目社長、鈴木美樹子さんでした。
今では“ホワイト企業”と認定され、お手本としてスポットライトを当てられることが増えましたが、変革を1からトップダウンで進めたのは跡取り娘の4代目社長、鈴木美樹子さんでした。
INDEX
- 休日出勤、子育てに介護…このままだと会社が危ない
- 産休・育休を経て「ようやくわかった」
- 認証取得を目指して社内規定の見直し
休日出勤、子育てに介護…このままだと会社が危ない
1912年に創業したオカモトヤは文具店として誕生し、現在は3500社以上と取引を行う文具はもちろん、事務機やオフィス家具などを扱うオフィス用品の総合商社です。官公庁のお膝元、東京・虎ノ門で、1世紀以上にわたりビジネスを展開してきました。
2代目社長だった祖父と暮らし、先代社長・鈴木 眞一郎さんの娘である鈴木さん。大学卒業後のキャリアで「祖父や父のあとを継ぐことは全く意識していなかった」と当時を振り返りますが、現実的な跡取り問題や老舗企業を継ぐことを周囲からポジティブに背中を押されたこともあり、2006年に入社しました。
鈴木:自社商品しか扱わないメーカーと、たくさんの商品を扱う商社では、語られる言語が異なれば、ものへの愛着も違います。商社の良さはあらゆるものを売れること。
一方で会社としての独自性が見つけにくく、営業の手腕によってものが売れるか否かが左右されてしまうということもあります。
オカモトヤの独自性を強化するために、オフィス構築事業を強化することが私の使命のひとつでした。
「ロッカーが欲しい」「椅子が欲しい」といったご要望に応えるだけでなく、オフィス空間をまるごと提案できるようになれば、商社としての付加価値が生まれます。
そう意気込んで始めたオフィス構築事業でしたが、企業の休日に工事に立ち会うなど、必然的に休日に稼働しなければならないことも多くありました。
鈴木:休日出勤をしたら振替休日を取るように促していましたが、社員たちの振替休日は溜まる一方でした。
どうしたらいいだろうかと頭を抱えていると、当時の役員が従業員満足度(ES)・顧客満足度(CS)というキーワードをあげてくれました。なかなか業績には反映されにくい部分ですが、試行錯誤を始めました。
また営業本部長をしていた時に、部下から「子どもの送り迎えのために出勤時間を変えたい」という要望が出ました。当時は周囲をどう説得したらよいかがわからず、かなえることができませんでした。同時に数人の離職が重なったり、年配の管理職からは両親の介護が心配という声も出始めます。
このまま社員の離職が進んでしまったら、オカモトヤの将来は大変なことになる。その時、“あらゆる人が働ける環境”を作らなければならないと強く思いました。
これを受けて2015年ごろから、オカモトヤの働き方改革はスタートします。それまでは中小企業にありがちな、社員から要望があれば個々に対応するというスタンスでした。
産休・育休を経て「ようやくわかった」
鈴木さん自身、結婚や出産といった大きなライフスタイルの変化を迎えます。2014年4月〜15年3月と、2016年6月〜2017年3月に、約1年間の産休・育休を取得しました。第一子の産休・育休時は仕事を休むことに対して抵抗感があり、日報の確認や、毎月の役員会議に出席していたと話します。また、「復帰したらフルタイム・フル出勤で働かなければいけない」という強迫観念もあったそうです。
鈴木:私もようやく子育てをする社員の要望を理解できるようになりました。復帰後の時短勤務制度を整えたり、子どもの送り迎えができるように子育て時差勤務制度を設けました。男性社員ももちろん取得できます。
産休・育児休暇によって数カ月会社から離れることで、女性は社会から離れて、自分だけが取り残されてしまったような感覚に陥りやすい。だからこそ、職場に復帰した時の仕事への反動がすごいんです。
私も身をもって経験しました。だからこそ、女性が安心して復帰できる職場作りが必要だと思いました。
認証取得を目指して社内規定の見直し
会社の現状を把握し、自身の実感をもって働き方改革の重要性に気づいた後、具体的な課題となったのは「何をするか」「どこから着手するか」です。社員一人ひとりの働き方への価値観は当然異なりますし、立場や経験の有無によって育児休暇への理解度も異なります。
かつて周囲にどう説明して理解を得るかに悩んだ経験もあったことから、鈴木さんはまず「認証を取得する」という目標を掲げることにしました。
この流れを受けて、2018年にオカモトヤはくるみんマークを取得します。くるみんマークは、少子化対策を図り、子育て支援など一定の基準を満たした企業や法人などが厚生労働大臣により認定され、そのマークを広告や商品などに付け加えることができるという、いわば「子育てサポート企業」の認定証です。
鈴木:「なぜ働き方を変えるべきなのか」と聞かれたら、「認証を取得するから」という理由を返すことができるので、近道になると考えました。“認証を取得する”という目標を掲げることで、現状の見直すべき部分を社内に説明しやすくなります。
くるみんマークは、新卒や中途採用の際にチェックしている人も多く、採用においてもいい影響を与えています。
くるみんマーク取得に向けた改善点
・育児規定・介護規定の見直し
・残業時間管理(勤怠システム導入・ノー残業デーの徹底)
・休暇の取得推進(管理職強制5日連続、一般強制3日連続)
くるみんマークの取得に向けて、残業時間を減らすためにノー残業デーの徹底と勤怠管理システムの導入、個々に対応してきた育児や介護にまつわる規定の明文化、休暇の取得推進などに取り組みました。
とくに「なんとなく平日に休みを取りづらい」というムードを払拭すべく、年休取得カレンダーを作成したことは大きな効果を得ました。各部門で個人の年休スケジュールを事前に組み、不在時には代理の担当者が対応できるように整えています。3カ月に1回、個人ごとの有休消化状況を部門長が把握できるようにフィードバックして取得を推進しています。
そのかいもあって、一時は溜まる一方だった有休消化率は昨年比で156%となり、家族の介護や子どもの学校行事の参加など、すべての社員が休暇を取得しやすい環境へと変化しました。また、現在は女性の育児休暇取得率は100%を達成しています。
次回は、オカモトヤのもうひとつの働き方改革の軸、オフィス環境づくりにフォーカスします。
※Vol.2に続く
取材・文:米山奈津美
撮影:菅野幸恵
編集:五十嵐ミワ
デザイン:山口言悟(Gengo Design Studio)
撮影:菅野幸恵
編集:五十嵐ミワ
デザイン:山口言悟(Gengo Design Studio)
4代目の“しなやかなトップダウン”に学ぶ
創業110年目の働き方改革