[フランクフルト/ミュンヘン 20日 ロイター] - ドイツのデュッセルドルフを拠点にトイレットペーパーを製造するハクレは1928年創業の老舗企業だ。それが今年夏のガス料金高騰で、あっさり倒産してしまった。

ロシアが欧州への天然ガス供給を中止したことで、ハクレのようなエネルギー集約型産業は特に大打撃を被っている。

「あっという間の出来事だった。電気とガスの料金が爆発的に上昇し、とてもではないが顧客に転嫁するのが追い付かなかった」とハクレのマーケティング責任者、カレン・ユング氏はロイターに語った。

8月以降、同社のように債務超過に陥る企業が急増し、欧州一の経済大国ドイツを倒産の大波が襲うのではないかとの恐れが広がっている。

ガス料金の高騰、数十年ぶりのインフレ、リセッション(景気後退)の恐れ、冬の燃料不足といったリスクから国民を守ろうと尽力するショルツ政権に、企業倒産という重圧が加わった格好だ。

ドイツの8月のエネルギー価格は前年同月比139%上昇した。

ハーベック副首相兼経済・気候保護相は今月のテレビインタビューで、生活に苦しむ顧客が商品を買わなくなったからといって企業が必ずしも倒産するわけではない、と発言して炎上した。

政府は企業支援策に数百億ユーロを投じており、国内最大のロシア産ガス輸入企業であるウニパーについては救済に乗り出した。

しかしハクレは、自社のような「ミッテルシュタント」への保護拡大を訴える。ミッテルシュタントは多くが家族経営の中小企業で、ドイツ経済のエンジン役を果たしてきた。

「システム全体に影響を与える巨大企業を見守り、解決策を探すことはもちろん重要だ」とハクレのユング氏。「しかしドイツの雇用の大部分をミッテルシュタントが担っているのも事実であり、そのわれわれが真に解決策を必要としている。ミッテルシュタントが未来もこのドイツで生き残れるように」と語った。

こうした懸念に応え、ハーベック経済相は中小企業への支援拡大を約束。ブッシュマン法相はエネルギー高に苦しむ企業を支えるため、債務超過基準の緩和を計画している。

<鎮静剤>

IWH経済研究所によると、8月に債務超過に陥ったドイツ企業は718社と、前年同月比で26%も増えた。9月の増加率も25%前後で高止まりし、10月には33%に上昇するとIWHは予想している。

IWHのシュテフェン・ミュラー氏は「債務超過企業の数は長年、低水準を維持していたが、トレンドが転換した」と述べた。

ドイツ産業連盟(BDI)が593社を対象に実施した調査では、エネルギー高により存続を脅かされていると答えた割合が3分の1を超え、2月の23%から増えた。

ドイツ化学産業協会(VCI)のウォルフガング・グロッセ・エントルプ会長は20日、ロイターに「(ドイツが)世界筆頭の産業国から産業博物館に転じてしまうまでの距離が今ほど短くなったことはない」と警鐘を鳴らした。

主要信用機関が8月に実施した調査によると、ドイツの不良債権は今年の319億ユーロから、来年は376億ユーロ(377億ドル)に増える見通しだ。

ドイツ貯蓄銀行協会のヘルムート・シュレワイス会長は8日の銀行業界の会合で「パンデミック中でも顧客企業は破綻の波を経験しなかった」が、「今はそうした事態を排除できなくなった。まだ計測できていないのは、その規模だけだ」と述べた。

フランクフルト金融・経営大学院のクリストフ・シャラスト教授は、パンデミック中は政府が支援措置を講じたため不良債権が大幅に増えなかったと指摘。「しかし現在は様相が大きく異なる。インフレ、サプライチェーン(供給網)の混乱、ウクライナに対する侵略戦争、利上げといった他の要因もあるからだ」と語った。

もっとも、債務超過件数の増加を見て誤った結論を導き出すべきではない、と釘と刺す専門家もいる。

パンデミック期の2020―21年には債務超過件数が人為的に低く抑えられていたため、当時との比較で現在の数字が悪く見えている可能性があるというのだ。当時は政府が経営難の企業を支えるとともに、債務超過企業に民事再生申請を義務付ける法律が一時停止されていた。

しかも政府データで見ると2021年の債務超過件数は1万4000件弱と、世界金融危機だった2009年の3万2687件、2003年の3万9320件に比べると半分に満たない。

不良債権は増える見通しだが、専門家によると金融業界のムードは比較的落ち着いている。企業破綻の急増を防ぐために政府が介入することを見越しているという。

再生専門家のルーカス・フルーター氏はロイターに、政府はビジネスモデルが根本的に不健全な企業まで税金を投じて保護すべきではないと指摘。「エネルギー危機は多くの企業のビジネスモデルに疑問を投げかけた」と語った。

フルーター氏はブッシュマン法相の債務超過基準緩和案を歓迎しつつも、基準撤廃は「深刻な間違い」になると言う。こうした措置は「鎮静剤にしかならない」とし、ある時点で競争原理を働かせるべきだとの考えを示した。

(Marta Orosz記者、Alexander Hübner記者)