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激論Jリーグ・第2回

Jリーグを「ブラック企業化」から救え

2014/12/25
前回、「近い将来、Jリーグは大爆発する」というテーマを論じたところ、NewsPicksオリジナルコンテンツで過去2番目に多いPVを叩き出した。やはりJリーグは途方もないポテンシャルを秘めている。ただし、その爆発の時計の針を早めるためにも、問題点と向き合う必要がある。FC琉球のスーパーバイザーとして日本サッカー界の「ブラック企業化」を目の当たりにしてきた金子達仁が警鐘を鳴らす。

外資を解禁すれば2シーズン制はいらない

――2015年から、Jリーグは「2シーズン制」を導入します(前期と後期に分け、最後に年間勝ち点の1位・2位・3位、および前期1位、後期1位の5チームがトーナメントで総合優勝を争う)。金子さんはどう見ていますか?

「大前提として、いろいろなことをやってみようという発想は、すごく評価している。でも、今シーズン終盤のものすごい盛り上がりは、2シーズン制にしたら失われちゃうのは確実じゃない? 純粋にもったいないなって思う。で、阪神ファンのひとりとして言うと、クライマックスシリーズを勝ち抜いて進んだ今年の日本シリーズが、まったく嬉しくなかったのよ」

――複雑な感情だったと。

「(セ・リーグ2位の)俺らはズルだし、っていうのがどこかに引っ掛かっていて。クライマックスシリーズが導入される前に日本シリーズに出場した2003年と2005年の喜びを100とすると、2、3にすぎなかった」

――あくまで主観でしょうが、10にも満たなかったんですね(笑)。

「勝った相手が読売巨人軍だったからまだ救われたけど、あれが広島とか中日相手だったら複雑なんてものじゃなかったよね。優勝争いできるチームが増えると、1チームが享受できる優勝争いの興奮度が希釈される。それがJリーグでも起こってしまう」

――運営側はオフィシャルスポンサーが減って10億円規模の減収になり、それを補うために2シーズン制をやらざるをえなかったと説明しています。分配金が減るとJ2のクラブが苦しくなると。

「でもさ、外資解禁がどういう形になるかわからないけれど、解禁されたらその程度の金額ではまるで意味がないことになるじゃない? だって今J2は22チームあって、単純に10億を1チームで割るといくらですか? で、そもそも俺はリーグが儲ける必要はないと思うのよ」

企業名OKならすぐにスポンサーが集まる

――リーグが儲けて、分配するという考えでは限界があると。

「それよりも個々のクラブが稼ぐのを邪魔しないでほしい。そのひとつがJリーグのクラブ名における企業名禁止だよね」

――それはFC琉球で感じたことですか?

「今、FC琉球は5000万円を出してくれるスポンサーすら探すのに四苦八苦している。その一方で、沖縄で立ち上あげようとしている女子サッカーチームは、九州リーグからのチャレンジになるかもしれないのに、いきなり数千万円のスポンサーがついた。なぜか? すごく単純で、女子サッカーリーグはチーム名に企業名を入れられるから」

――企業名を入れると、やはり効果があるんですね。

「何度も言うけど、ソフトバンクホークスとアビスパ福岡の差。楽天イーグルスとベガルタ仙台の差。これを放置しておくんですか? という話だよね。博多に行くたびに思う。仙台に行くたびに思う。サッカー、押されているよね。ホークス帝国が博多にできあがりつつあるし、いま大阪でオリックスがどれだけ頑張っても、ガンバ大阪がどれだけ頑張っても、阪神の牙城は揺るがないわけじゃない。福岡と仙台では、それ以上のものが今できつつあるよね。これを放っておくんですかと」

Jリーグは日本経済から切り離されてしまった

――企業名をミドルネームに入れてもいいとか、緩やかな形で解禁すればいいかもしれません。

「プロ野球球団に認められているように、『運営費が親会社の経費に計上できます』ということになれば、あえて企業名を出さないという選択をしてイメージアップを図る企業も出てくると思う。だってプロ野球を見ていると、日本の大企業が潤っているのが感じられるギャランティーになっているわけよ。ソフトバンクが松坂大輔を獲ったり、どんどん大物が来る。一方、Jリーグって日本経済から切り離されちゃっていると思わない?」

――名古屋グランパスの親会社であるトヨタが、もっと本腰を入れてくれればとは思います。

「だってさ、トヨタは史上空前の利益を計上しているわけだぜ。それがグランパスにまったく反映されてないと思わない? トヨタの広告を見れば、ネイマールを起用したりして景気がいいことがわかる。なのに自分たちのチームを見てそれがわからないというのは、おかしいと思わない?」

――確かに日本経済から分断されていますね…。

「1993年にJリーグを立ち上げたとき、企業名を切り離すことは当時としては大事だったのはわかる。でも、約20年が経った今、社会から切り離されてしまった」

――創立時は必須の理念でしたが、時代の変化によって問題も出てきたということですね。

「今スペインとイタリアは、失業率が大変なことになっています。だから胸スポンサーがまったくついてない。悪い意味で、その国の経済状況がサッカーリーグに現れている。首都のチームのローマとラツィオ、胸スポンサーがついていません。イタリア経済がぼろぼろな証だよね。で、日本に目を向けると、地方や末端に行き渡っていないという声がある一方で、首都圏の大企業は空前のボーナスになっているわけじゃない? それをJリーグから感じられますか? って」

――Jリーグのクラブの親会社には大企業が名を連ねているのに、それは感じられません。

「なのに、Jリーグは日本経済がどんどん自信を失って、競争力を失っていった時期の負の影響はどっぷり受けた」

――90年代後半、確かにそうでしたね。

「その頃に日本のプロ野球も落ちてきました。どんどん日本の選手が買い漁られていきました。でも歯止めがかかったよね。日本のサッカーは一向に変わらないじゃない? これでいいんですかと」

――ソフトバンクがサッカーチームを持っていたら、ヨーロッパの名門に負けないサラリーを払えたかもしれません。

「ルールを変えればね。だってさ、ヴィッセル神戸の選手と、イーグルスの選手の給料を比べてくれよ。母体は一緒だぜ。あれだけ神戸はいいスタジアムがあるのに」

――バスケットボール界も企業名でもめています。

「bjリーグはものすごく盛り上がっている。でもね、琉球ゴールデンキングスが、トヨタ自動車の2軍と練習試合をやったらコケ負けなわけよ。まったく歯が立たない。JBLにせよ、bjリーグにせよ、日本のスポーツの中ではまだまだマイナーなんだけど、企業がバックアップしているチームってそれだけ強いのよ。大企業がバックについているから、そこに子どもを進ませてもいいと考える親は少なくないと思う。日本サッカー界も人ごとではない。乱暴に言えば、今のJリーグの一部のクラブは、ブラック企業化しつつあるから」

才能に見合った報酬を払っていない

――ブラック企業! キツイ表現ですが、J2やJ3における問題の本質を突いているかもしれません…。

「ひとつ質問。今年契約したFC琉球の新卒選手の月給っていくらくらいだと思う?」

――10万円くらい…でしょうか。

「月給3万円です。プロ契約で。それがJ3の現状です」

――そんなに安いんですか!

「それについてはあらためて次回に触れたいけど、とにかく才能を持った選手が、我慢しながらプレーしている現状がある。これはある意味、J1も同じだよ。トップリーグなのに、四桁に届いてない主力選手がたくさんいる。才能に見合った額をもらっていないと思わない? 日本のGDPは世界何位でしたっけって話でしょ」

――3位です。

「おかしいと思わない方が、おかしくない? 地域密着というのは、もちろんものすごく大事な概念。でも地域密着というのは、社会密着という意味でもあるよね? なぜ企業名を多くのヨーロッパのリーグが外したのか。企業は潰れるから。チームは潰れてもらっちゃ困るから。チームよりも寿命の短いものに、大事なものを委ねることはできないから。もっともだよ。でもさ、日本のプロ野球では、ソフトバンクホークスは、ついこないだまでダイエーホークスだったわけじゃない。チーム名の一部が変わったことで、ファンは減りましたか?」

――減らなかったと思います。

「まったく減ってないわけよ。つまりJリーグを立ち上げた人たちが懸念した『チーム名が変わったらファンが離れてしまう・潰れてしまう』というのはまったく心配する必要がないわけです」

――日本におけるサッカー人気と経済規模を考えたら、どこかしら代わりとなる企業が出てくるし、日本人サポーターならそれを受け入れられると。

「日本人はそれを受け入れる。ヨーロッパでもそうかもしれないよ。バイヤー・レバークーゼンが他の名前になっても、きっとファンはついてくるよな。歴史を作っちゃえば」

――あれだけ密着したら、もう切り離せません。

「日本サッカーはお金がないボロボロの中で20年やってきた。ここに企業がつき、世界的なスーパースターが獲れるようになったら、あっという間に火がつくでしょう。アメリカのメジャーリーグサッカー(MLS)にしても、ずっとサラリーキャップをきつくはめて、地道に地域密着でやってきて、途中からそのタガを緩めていったわけじゃない? 日本も緩める時期にきていると思う。固く縛った状態でやったおかげで、太い幹はできたよ。地域密着という理想は育った。それをプロ野球がうまくアレンジして、おいしく頂いているわけじゃない? 今度はプロ野球がやったことを、Jリーグがさらにアレンジをすればいい。そのためのひとつの起爆剤は、外資だと思うしね。だからJリーグという株式会社があったら、大量に株を買っておきたい。ヤフー株な感じがするから」

――それくらいの可能性を秘めていると。

「株価で言えば、ゼロが2つ増えるくらいの前夜だと思う」

(聞き手:木崎伸也)

*次回は12月31日(水)に掲載する予定です。