独、原発2基の停止延期 エネルギー危機で方針転換
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流石にNord Stream停止を受け、方針転換でしょうか。ドイツはこの一週間、明らかにこれまでの方針を転換しています。
まず、電力市場改革。8月29日にハーベック経済相は電力市場への緊急介入を認める発言を行い、同日欧州委員会のウルズラ・フォン・デア・ライエン委員長が電力市場への緊急介入方針と中長期の電力市場改革の方針を明らかにしました。Pay as clearと呼ばれる現行のシングルプライスオークション方式の市場メカニズムを抜本的に見直す可能性が指摘されています。
※英国では7月下旬に電力市場の見直し案(REMA)を公表しており、バランシンググループ(英国ではBMUと呼びますが)によるセルフディスパッチから、系統運用者によるセントラルディスパッチへ、Pay as bidの枠組みへ変更になると見られています。
電力市場改革は昨年10月から、フランス・スペイン・チェコ・ギリシャ・ルーマニアの財務大臣が連名で欧州委員会に求めてきたものです。
また、英国が採用していた超過利潤税の導入も決めています。RWEやStatkraftなど、限界費用の安価な電源を有する事業者は市場価格高騰の恩恵を受けていますので、これら事業者から過剰収益を徴収し、国民に還元する仕組みです。
ストレステストも、当初はバイエルン州の1基のみ稼働の可能性が高いと報じられていましたが結果は2基。
今回の原発稼働延長方針も、先週からの動きも、Nord Stream停止による状況の変化やNS停止前後の急激な電力先物価格高騰、市場不安に対応したものと考えられます。
大変なのは事業者です。原発と同じく運転継続・再稼働を認められた石炭・褐炭火力発電所では、発電所従業員のリストラを一時停止しており、雇用継続など事業者の負担が重くなり始めています。(ドイツでは7月8日に石炭、褐炭、重油火力発電所の運転継続・再稼働を認める電力代替法が連邦参議院で可決し、12日に発効しました。)
いずれにせよ、想定以上に早い段階でロシア産天然ガスが止まってしまいました。ロシアにとっては経済的な「ベルリン危機」を演出しているのでしょう。
動きの遅かったUniperも、ここに来てLNG長期契約締結のリリースを相次いで出しており、徐々に「ウクライナ前」のエネルギー市場への回帰は難しくなりつつあります。松尾さんがコメントしておられるように、Nord Stream停止まで来ると、もうなりふり構っていられないといいますか、やれることは何でもやっておく必要があります。
とはいえ、原子力だけでなく、石炭・褐炭の現場でも、事業者の立場からすれば、身を切る思いで進めていたリストラ(終身雇用前提の日本とは違うのでしょうが)を「はい、方針変更ー。発電所動かしてー」って言われたら、それこそ「勝手にしろ」と言いたくなりますね。
気候変動対策や脱原発政策に関しては、「公正な移行」が目指されてはいますが(公正な移行とは、気候変動や生物多様性に配慮した持続可能な経済に移行するにあたって、労働者を含むすべてのステークホルダーの権利が確保されるとした言葉です)、その言葉を使っている人たちって、本当にその言葉の重さを受け止めているのかなぁ?とも思います。
数年前のCOPで、ドイツの環境大臣に「再エネ政策で生まれる雇用の話をはわかるが、失われる雇用についてはどう考えているのか?」と質問したときに「失われる雇用などない」と回答されたことがありますが、そりゃなかろう・・と。
よく「エネルギー安定供給には何が必要ですか?」と聞かれるのですが、一言でいえば多様な選択肢を確保するということだと思います。ゼロとか100って格好いいんですけど、完璧なエネルギー源はなくどんなエネルギー源にもリスクはあるので、ゼロとか100とかいう言葉は眉に唾つけて聞くことが必要かと思います。
追記 ここまでロシア依存度を高めたのって、明らかにメルケル時代の失敗なわけですが、エネルギー政策って失敗が顕在化するまでの時間が長いんですよね。今回の決断は原発なしで目の前の冬を乗り切れるか、という2度のストレステストの結果をふまえたものです。「22~23年冬に電力供給システムで1時間ごとに危機的状況が発生する可能性は非常に低いが、完全に否定できない」という内容でした。時限的措置を強調していますが、ロシア産ガス依存を断とうとする中、「次の冬も」とずるずる延長を繰り返さないとも限りません。中道右派のメルケル政権が福島原発事故を受けて脱原発を決め、「脱原発」を党是としてきた緑の党を一角とする与党が延期を決めたという皮肉な状況はこの問題を巡る政治・経済の複雑なパズルを象徴しているようです。