2022/8/30

【解説】英国「光熱費8割アップ」で、暮らしはどうなる?

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INDEX
  • 「最悪のシナリオ」が続々
  • ガス価格の変動に敏感な国柄
  • 対策に消極的な首相候補たち
  • 過去最悪のインフレに追い打ち
  • 市民の負担を増大させるシステム

「最悪のシナリオ」が続々

ここ何カ月もの間、エネルギー価格の高騰という現実が、津波のようにヨーロッパを襲っている。
そして先週金曜(26日)、英国に新たな大波が押し寄せた。10月以降、家庭のガス代と電気代がほぼ倍になると報じられたのだ。
英国のエネルギー規制当局によるこの発表は、世界で最も豊かな国の一つであるはずの英国に、人道的危機の到来を告げるものだ。政府が大規模な対策を講じなければ、何百万人もの英国人がこの冬、暖房や照明にも事欠くかもしれない。
折しも、ボリス・ジョンソン首相の後任を決める選挙戦は終盤を迎えている。しかし、この重要な局面で、政治への信頼は大きく揺らいでいる。
ドイツをはじめとするヨーロッパ諸国に対し、ロシアが天然ガスの供給を大幅に削減して以来、エネルギー危機は絶えず叫ばれてきた。にもかかわらず、英国は予想された事態に対して驚くほど無策であるようだ。
(Juana Mari Moya/Getty Images)
すでにこの国では、ガソリンや食料品の値上げが当たり前になっている。それでもなお、今回発表された光熱費の値上げ幅の大きさには、誰もがあっけにとられた。
家庭用エネルギー料金に設定された上限価格(プライスキャップ)の引き上げにより、一般的な英国の家庭では、電気代と天然ガス代に年間3549ポンド(約57万円)を支払うことになる。現在の1971ポンドから8割増しになる計算だ。
保守党の元エネルギー大臣、デビッド・ハウエルは「これは経済戦争だ」と述べている。
9月に新政権が誕生すれば、支援が必要になると予想される1500万世帯もの世帯のために200億~300億ポンド(約3兆~5兆円)を用意しなければならない。「新首相は、この難題に直面することになる」とハウエルは言う。
英国「光熱費値上げ」の影響

👉70%のパブは今冬を越せないと判断し、閉店の準備を進めている。

👉中小企業や自営業(エネルギー料金に上限設定がない)の場合、すでに光熱費の請求額は昨年の4倍に達している。

👉来年以降、標準的な家庭では年間の光熱費が5000ポンド(81万円)になるとの予測もある。

👉市民の相談窓口「Citizens Advice」の推計によれば、25%の世帯は値上げに対応できるだけの余裕がない

👉NHS(国民保健サービス)は、全年齢層で呼吸器・循環器系の疾患およびメンタルヘルスの不調が増えるだろうと警告している。