2022/9/4

日本は「ゆるい」のか? ホワイトすぎる大手企業、社内ニート…若手社員のリアルと本音

NewsPicksと朝日放送テレビのコラボレーション企画『U29News(ユニークニュース)~私たちが知りたいのは、未来だ~』。20代が当事者意識を持つニュースについて議論する番組が、9月24日(土)午後11時から朝日放送テレビ(関西エリア)で放送され、9月27日(火)からNewsPicks Studiosでも配信される。
本記事では事前取材として、番組で扱うテーマについて20代のオピニオンリーダーに話を聞いた。第2回のテーマは「若者と働き方」。(読者の皆様からいただく本記事へのコメントは番組内でご紹介する可能性があります)
転職、副業、フリーランス……若者の働き方やライフスタイルが多様化する現代。若者と会社をめぐる「齟齬」は今も日々生まれ続けている。
「若者の働き方」をテーマにした取材で出会ったのは、大手企業に入社したものの、職場環境に「大きなズレ」を感じて悩む2人だ。
今、若手社員は会社に何を求めるのか? 取材した2人が感じた「ズレ」を手掛かりに、若者の働き方の現在地を探る。

「結果を出す!」部活のような熱意で入社

「すごくやる気に満ち溢れていました。なにか結果を出せたらと……」
「やってやるぞ!」と気合十分だった。内定者の時期には、仕事に役立つと考えた簿記の資格を取り、入社後の初任給はExcelのオンライン講座につぎ込んだ。
中学、高校、大学とハンドボール部に所属していたRSさん。特に大学時代は顧問がいなかったため、練習メニューから部の運営まで、全てをこなしてきた。
新卒で配属された部署の上司たちは、丁寧に仕事を教えてくれて、周りも優しい人ばかりで恵まれた環境だった。
「社会人も部活のようにもっと熱意をもって、チームや部署の人たちと切磋琢磨して仕事に臨むものだと思っていました。しかし、周りを見ていても仕事に対して、高いモチベーションをもっている人が少なくて、ギャップを感じました」
しかし、配属から2か月経った頃、就活生時代に抱いていた社会人のイメージとのギャップを感じ始めた。
周囲の人たちはルーティン化された業務を淡々とこなし、それとなく働いているように見え、仕事に対する熱も感じられない。自身の仕事内容も数十年前から続いている顧客への営業で、すでにルーティン化されたものだった。
「残業はほとんどありません。8時間労働のうち、2~3時間が何もしてないようなものでした」
他部署には、遅くまで忙しく働く同期もいて、このままゆるく働いていては成長できないと不安を感じるようになってきた。
自分が「もっと働きたい」と言えば、変に思われて、職場で浮いてしまう。相談しても簡単に業務内容を変えることはできないと思い、仲の良い上司にも相談できなかった。モヤモヤを感じたまま仕事を続けていたため、次第に朝起きることもおっくうになっていた。
©kazuma seki/iStock

条件は度外視。刺激的でカオスな環境で働きたい

転機になったのは、入社から4か月後の8月に受けたキャリアコーチングだった。
「部活でチームをゼロから作り上げた経験から、環境がそこまで整っていなくともスタートアップのような事業でこれからどうなっていくかわからない刺激があるカオスな環境に飛び込みたいと思うようになりました」
5か月ほどが過ぎた年明けから転職活動を始めた。企業のネームバリューにとらわれず、自分のやりたいことを自分たちで作り上げることができる企業かどうかを重視した。
「年収や福利厚生も重視しませんでした。今は、力をつけて市場価値を上げていくほうがいい、と」
現在、RSさんは希望の転職が叶い、スタートアップ企業で働き始めた。転職前のモヤモヤについてブログを投稿したところ、同年代の読者から共感のコメントがあり、自分と同じように「なぜか社会人になってから熱く仕事に取り組むことができない」などといった悩みを抱えている人が多いと知った。
「自分に負荷をかけて成長をしたいという思いで転職しているので、20代の体力があるうちにバリバリ仕事して力をつけていきたいと思います」

配属ガチャ→社内ニート。時間をつぶす毎日

そう話すのは大手IT企業に入社した、ありんさん、現在25歳。入社後の3年間、任された仕事はなく、社内で暇をもてあます「社内ニート」だったと当時を振り返る。やる気に満ちて入社した彼女だったが、仕事がなくて心を病むことになるとは想像もしていなかった。
「志望していない部署でも何か一つでも技術を身につけられれば、と希望に満ちていました。残業に抵抗はなく、嫌だとは思わなかったです」
短い新人研修期間を終え、最初に配属されたのは社内で発足されたばかりのチームだった。ほかに若手社員はおらず、ありんさんは数年ぶりに配属された新入社員。10人ほどのチームの人たちは、勤務時間のうち大半の時間を社外に出払っていた。出社してもたった一人。話す相手もいなかったという。これが「配属ガチャ」か、と気づいた。ありんさんは、何度も教育担当者に訴えた。
「『何か仕事はありますか?』と聞くと、いつも同じ答えが返ってきました。『仕事はないから勉強しておいて』と……」
それから、地獄のような「社内ニート生活」が始まった。遅刻は絶対にしないと毎朝定時の9時に出社した。退社までの約8時間、漫然とパソコンを見つめる日々。研修で配られた資料を読み直すなど、ただただ業務時間をつぶすだけだった。「何かの役に立つだろう」と思って始めた英語の学習も長続きしなかった。こうした毎日が半年ほど続いたという。

深まる孤独感にコロナが追い打ち

「同期が忙しいと話しているのを聞くと、自己肯定感が下がっていきました。
『毎日やることなくて』とつらい気持ちを話しても、多くの人に『いいね』と言われ、私の気持ちはわかってもらえませんでした」
同期に悩みを相談しても理解してもらえない。忙しく働く同期と自身の境遇を見比べてしまい、次第に連絡を取る機会も減っていった。
初期配属から半年後、他のチームへ異動が決まった。しばらくは仕事もあり、それまでの思いを取り戻すように仕事に励んでいた。
それも束の間、突然チームから外され、社内ニート生活に逆戻りした。やっと手に入れた自分の居場所、ようやく業務も理解してきたのに……。こうした状況に、追い打ちをかけたのが新型コロナウイルスの流行だった。勤務体制がフルリモートに切り替わったのだ。
「コロナのストレスも大きかったですけど、仕事もせずに家でダラダラしていたので給料泥棒みたいな気持ちになりました。そんな風になりたかったわけではなかったからすごいストレスがありました。でも、自分ではどうにもできないことだとも思いました」
自宅での業務と言えば、始業時に社用パソコンを立ち上げて、メールチェックをするだけ。いつのまにか、同居している家族とテレビを見たり、好きな韓国ドラマについてネットサーフィンをしたりしていた。
©iStock/bee32

転職したくても「経験がない」からできない

そんな状況ではもちろん、転職を考えることもあった。転職サイトに登録したり、企業に問い合わせをしたりしてみたが、社内ニート歴が大半のため、転職先でなにもできないと思い、踏み切れなかった。
「3年間、社内ニートをしていると『今まで何をしていたのか』と聞かれても答えられない。自分が頑張っていなかったと思われそうで……だから、採用してもらえないだろう、転職先でやっていけるかなと不安になって動けませんでした」
両親からは「暇で給料がもらえるのならいいことだ」と言われた。両親にも思いをわかってもらえず、更に孤独を感じ、精神的にも追い詰められていた。
「誰にもわかってもらえないことで『なんで生きているんだろう』という気持ちになったり、両親の何気ない発言にイラっとしてしまったり、お風呂に入るのもおっくうになっていました」
ありんさんは今年入社4年目。その後、部署異動を経て、ようやくイメージしていた働き方ができるようになったという。
「自分を一番優先にして仕事をすべきだと思いました。なにを優先するかは人それぞれだと思いますが、精神状況がおかしくなるまで収入や安定にこだわらず、自分に合った働き方ができるように準備することが大切です」

社会の変化によって生まれた“ゆるい職場”

入社前にイメージしていた働き方と、実際の職場での働き方に「ズレ」を感じて悩むことになったありんさんとRSさん。こうした「ズレ」が生まれる背景には何があるのか?
若手社員の就業や価値観の変化について調査しているリクルートワークス研究所・古屋星斗・主任研究員に2人のエピソードを手掛かりに、近年の若者の働き方、若者と職場の関係性について聞いた。
──ありんさんとRSさん、このお二人が転職を考えるまでに至った共通の原因は何だと思いますか?
その職場で仕事をしていればキャリアの選択肢を持ち続けることができるという「キャリア安全性」がとても低い職場にいらっしゃったんだと思います。
一方で、過剰な労働がない、パワハラするような上司はおらずオープンな態度であるなどいわゆる「心理的安全性」は高い職場である可能性がありますね。最近、このような「心理的安全性だけが高い職場」が増えています。
また、お二人の職場では、給与や福利厚生などの待遇、職場環境はひとまず守られています。ですが、RSさんは「恵まれた環境だけど、このままでいいのか」と不安を抱き、転職をしましたよね。
このように、会社自体の環境にはある程度は満足しているけど、その職場で仕事を続けていて、自分のキャリアの選択肢を持ち続けられるのか疑問を感じている若手社員が増えています。
企業は若手に対して、心理的安全性だけではなく「キャリア安全性」も提供できるかを考えなくてはいけない時代になっています。

「負荷は少ないが成長が感じられない」

── 一見すると、ほどほどの仕事をしていれば収入や待遇が約束されている「居心地の良い職場」のようですが実は違う、と。
私は、負荷は少ないけれど成長を感じられない職場のことを「ゆるい職場」と呼んでいます。
実際に、新入社員の労働時間や残業時間は減ってきていて(※下図)、働く環境は良くなってきました。そのため過去の統計から一般的に考えると連動して離職率は下がるはずなのに、早期離職する若手社員の割合は以前とあまり変わっていません。
つまり、仕事がきつくて辞めるのではなく、ゆるいと感じて辞める人がいるのです。
実際データを取ってみると「きついと感じ、辞めたいと思っている」方と同じくらいの割合で「仕事がゆるくて辞めたい」と思う方がいるとわかりました。

「鍛えられると思っていた」募る若手社員のモヤモヤ

──これまでの調査の中で、若手社員からは他にどのような声がありましたか?
実際に若手社員に話を聞くと、「鍛えられる職場と思ったけど、そうではなくてがっくりきた」という声や、上司に自ら「もっと鍛えてください」と頼む方もいました。
最近の新入社員の中には、学生時代から社会に発信したり、企業で働いたりした経験がある人が増えています。すでに入社前に仕事をした経験がある「白紙じゃない新入社員」がいるわけです。
その方々が実際に会社で働いてみると「学生時代に比べて、社会人になってつまらないことをやっている」「社会人はこんなにも仕事に対して情熱を持っていないのか」と肩透かしを食う人が多いようです。
──そうした不安や悩みを持つ若手社員の増加には、どんな背景があるのでしょうか?
これには2010年代から現在にかけて急速に進んだ労働に関する法律の制定や改正が関係しています。
若者雇用促進法、働き方改革法やパワハラ防止法などが施行されて、企業は、社会からの監視の目もありますし、優秀な人材を獲得したいので、職場環境をよく見せようと努力してきました。
そのため、心理的安全性はとても高くなりましたが、労働時間に上限ができたこともあり、以前のようなOJTを中心とした教育体制を続けることができなくなって、キャリア安全性が低くなってしまった職場が多いのです。
スキルや経験を身につけないと、自分の職業人生の見通しをつくれない時代。“ゆるい職場”という新しい職場のあり方に最高速度で適応しようとしているのが今の若手の方々なのです。
そのため、転職を含むキャリアプランに対する感覚も変わってくることは当たり前のことです。
「若い方々の忍耐がなくなった」みたいな話では決してなくて、取り巻く環境が変わったために働き方や職場に対しての考えが変化してきているのです。

会社の内外でアクションを起こそう

──もし入社して、「自分はこの会社では成長できない」と感じてしまったら、新人はどうするべきだと思いますか?
一番やりやすいのは、会社の外でアクションを起こすことです。
職場では、長時間労働が見直され、ハラスメントなどの心理的な負荷も減っているので、生活の中に「余白」も増えています。
副業や兼業を認める会社も増えていますし、大学院などの学校に行くのも選択肢だと思います。ボランティアでも、地域のコミュニティ活動でも、自分が成長できる機会を会社の外側につくるというのが、手段の一つです。
また、会社の外に限らず、社内にそういった場所をつくるという手もあります。大手企業の中には、若手社員が部署を横断し勉強会をつくって外部から講師を招いて話を聞くとか、ビジネスコンテストを開催するといった動きも広がってきています。
──逆に、会社としては、どういったかたちで若手と向き合えばいいのでしょうか?
会社側について言えば、「会社の中だけで育てる」のはもう限界で、自分の会社だけで育てる時代が終わりにきていると思います
社内だけで育てても、従来の育成水準の70〜80%しか育たない感覚をお持ちの方も多いと思います。業務を通じて仕事のコンピテンシーや必要なスキルを伝達しようにも、シンプルに職場で働く時間が短くなっていますから、仕方がありません。
昨今まで普通に行われていたOJTをベースに「ビシバシ鍛えて修羅場のような体験を提供する」手法に代わるような方法が必要になっているのです。
そのひとつの方法論は、若手に越境させて、そこで得たものを本業の仕事と循環させていくこと。
この好循環を起こす仕組みをつくることができた職場が、若手が活躍する新しい職場像になっていくと思います。
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