米国製エリート教育は本当にすごいのか? (1)

【第2回】米国製エリート教育は本当にすごいのか?

米国製エリート学生と、日本製エリート学生の違い

2014/12/18
G(グローバル)大学、L(ローカル)大学の議論が盛り上がる中、日本の大学教育のこれからに注目が集まっている。米国と日本の大学教育、ビジネス事情に詳しい、起業家の齋藤ウィリアム氏に、日本の教育へのアドバイスを聞いた(全3回)。
第1回:日本の大学教育は、なぜプアなのか?

アメリカと日本では、企業の人を選ぶ基準が真反対

佐々木:もしウィリアムさんが総理大臣なら、日本の教育をどう変えますか?

ウィリアム:文部科学省による中央集権的な教育制度の改革かな(笑)

勿論それはちょっと言いすぎだけど、都道府県など自治体にもっと独自のやり方ができるように権限を委譲してもいいのでは? どこかの県でベストの教育システムをつくって、「○○県なら、ハーバードに行ける」となれば、いろいろな仕組みが変わるはず(笑)

シリコンバレーになぜ優秀な人が集まるかというと、そこに優秀な大学があるから。

佐々木:例えば、スタンフォードとか。

ウィリアム:そう。カンザスに会社をつくっても、優秀な大学がなかったら人材が集まらない。企業と大学にはそんな関係もありますね。

佐々木:日本には旧帝国大学があって、どこも似たような教育を行ってきました。慶應、早稲田など私学もがんばっていますが、国立とは資金力が違います。特に、理系分野では国立が圧倒的に有利です。

ウィリアム:確かに予算面ではフェアじゃない。国立と私立では差があるからね。さっき、「文科省の改革から」と言ったけど、イメージとしては「文」の部分だけを切り離し、科学技術には中央の権限を残します。科学技術の、特に基礎研究は国が主導しないとできない部分がありますから。

競争の下、多様な教育システムが出てきて切磋琢磨すればいいと思います。

佐々木:大学教育だけですか?

ウィリアム:それ以外も全部。

佐々木:いかに多様性を持たせるかがポイントですね。実際の教育内容やカリキュラムについてはどう思いますか? 科目レベルでは、プログラミングをやったほうがいいんじゃないかと最近はよく言われますが。例えば、DeNAの南場さんが代表例です。

ウィリアム:プログラミングを教えていないのは大問題。そもそも理系と文系を分けるのは、非常に危ないことだと思います。

佐々木:文系の人はサイエンス的な素養がなさすぎますし、理系側はプレゼンや、人とのコミュニケーションがうまくない傾向があるように感じます。高校、大学で文系・理系という別ルートを通ったという違いはありますが、イノベーションを起こすために文系・理系が一緒になってやらなきゃいけないのに、うまくできていません。確かに、どの分野にもそんな問題があります。一方、アメリカは文系・理系がうまく融合しています。

米国製エリートと日本製エリートの違い

佐々木:アメリカのトップエリートと日本のトップエリートの違いは何でしょうか?

ウィリアム:例えば、アメリカではゴールドマン・サックスの内定をペンディングにして、ティーチフォーアメリカ(Teach for America)などのボランティア団体に入り、田舎の子どもに英語を教えたりする人がいる。何千万円という給料を放棄して教師になることが珍しくない。いわばエリートである自分の、社会的な責任についての自覚の差ではないでしょうか? 借金しながらハーバード大学を出て地方で教師になるのは、日本では考えられないよね。

佐々木:私がスタンフォードに留学して思ったのは、アメリカにも日本と同じように、「寄らば大樹」でマッキンゼーやゴールドマン・サックスといった名前のある企業に就職したいだけの人も大勢いるということ。そういう人もすごく優秀ですが、世の中を変えるという感じはしません。ただ、マッキンゼー、ゴールドマン・サックス組とは別に、とてつもないイノベーションをもたらすような、飛びぬけてすごい人がいる。

ウィリアム:アメリカの学生にはハングリーさがあるね。私は日本の就職活動は間違っていると思う。アメリカでは大学でもちゃんと勉強しないと、名のある会社には入れない。だけど日本なら「東大に入れば大丈夫」エスカレーター方式で有名企業に入れる。みたいになってるでしょ。

佐々木:日本の学生には、新しい進路をつくろうという考えはあまりありません。既存のピラミッドの中でどこがいいかを選ぶ感じですね。

ウィリアム:人を評価するシステムが違う。マッキンゼーやゴールドマンは「いかに変わっている人を探すか」がテーマ。日本の企業は、特徴のある人、変わっている人は逆に落とされますよね?

佐々木:組織になじみそうにもないと言われてしまいますよね。

ウィリアム:人を選ぶ基準が、真反対。でも企業が「ちょっと変な人」を求めるといっても「ちゃんと育ってない変な人」だと、「だいぶ変な人」になる。「変な人」といっても、「中身が詰まった変な人」じゃないと意味がない(笑)

※続きは明日掲載します。

【プロフィール】
齋藤ウィリアム浩幸(SAITO William Hiroyuki)
株式会社インテカー代表取締役社長、内閣府本府参与
米国生まれ。日系二世の起業家、ベンチャー企業支援コンサルタント。10代で商用ソフトウェアのプログラムを始め、大学在学中にI/Oソフトウェアを設立。指紋認証など生体認証暗号システムの開発で成功し、2004年会社をマイクロソフトに売却。その後、日本に拠点を移しベンチャー支援のインテカーを設立。2011年ダボス会議(世界経済フォーラム)「ヤング・グローバル・リーダー」メンバーに選出。後に、ボードメンバーに就任。日本では2012年、日経ビジネス「次代を創る100人」に選ばれる。日本語著書に『ザ・チーム-日本の一番大きな問題を解く』(日経BP社2012年)、『その考え方は、「世界標準」ですか?』(大和書房2013年)。日経産業新聞コラム「ウィリアム氏と明日を読み解く」を執筆中。