テレビイノベーション

ソーシャル連携、同時視聴、そして、1年分保存へ

「ガラポンTV」が実現する、テレビ視聴の真の革命

2014/12/18
前回は、ユーザーのテレビ回帰を引き起こすガラポンTVの特性と、番組の中の特定シーンの再生位置を示すURLをシェアすることで、ソーシャルメディアの拡散力を番組視聴に直接結びつける機能について述べた。今回は、ガラポンの目指すソーシャルメディア志向と、ガラポンTVの未来の姿について述べる。

サイト自体がメディア化する可能性

ガラポンでは、ユーザーにソーシャル視聴を日々体験してもらい、テレビに関する口コミ情報を増やすために、番組のレビューの書き込みや評価をできるガラポンTVサイトを運営している。評価は星の数で表記し、最高は星5つだ。サイトを訪れると、「話題の番組」や、「Like数」などのジャンルで分けられ、各テレビ番組について、様々なコメントがつけられている。

面白い番組を探すユーザーがここに来ると、自分が知らなかった番組、見ようと思っていなかった番組に星がたくさん付いていたり、コメントが盛り上がっていたりするのを見て、それが視聴につながる。

Twitterでは、テレビ番組に関するツイート数で圧倒的に多いのがアニメだが、このサイトではアニメは少数派で、バラエティーが意外に多い。ドラマでは初回と最終回のコメント数が多いそうだ。また荒れないのも特徴で、「見たくない」などというネガティブな書き込みは少ないという。

運営側も、スパム投稿をするユーザーには警告するなど、良い環境を維持する努力をしている。レビューを書き込む人の9割がガラポンTVユーザーなので、レビューの中にシーンを特定できるURLをつけている人もいて、ユーザーはそれをクリックするだけで、そのシーンの再生ができる。

ガラポンTVユーザーがもっと増えれば、レビューの数も増え、視聴率以外の番組を評価する新たな指標となるのではないだろうか。また、レビューを書く人たちは、番組に対して建設的であり意識の高い人がセグメント化されている。この場で番組内容を題材に、議論が繰り広げられるようになると、サイト自体がメディア化していく可能性もあるだろう。

8チャンネル同時視聴という新機能

ガラポンTVの初号機がデビューしたのは2010年だが、今年8月7日にはガラポンTV四号機が発売開始された。新しい機能として加わったのが、8チャンネル同時視聴。これは画面上に8つのテレビ画面が同時に表示されるものだ。現在録画中のテレビ局8局の放送を再生でき、選んだ局の音だけを出せる。

また個別に巻き戻したり、一つの局を画面半分に拡大、隣に7局を小さく並べることもできる。普段、一つの局の放送だけを見ているユーザーには新鮮な体験だ。これはワンセグ画質だからできることで、高画質でこれをやろうとしても、データ量が多すぎとても無理だという。

ただし、ワンセグ画質とはいえ8チャンネル同時視聴する場合は3.2Mbpsの安定的な回線速度が必要となるため、自宅外からの視聴では途切れてしまうこともあるようで、自宅内LAN環境内での視聴に適している。価格は税抜きで3万6500円。初号機からの累計販売台数は1万台を超え、会社も黒字化したという。
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世の中を変えるには、100億円が必要

ここまでは、ガラポンTVの魅力を述べてきたが、ガラポンTVの未来に懸念はないのか。

まず考えられるのが大手家電メーカーの参入だ。しかしその可能性は少ないのではないか。ある家電メーカーの方に聞いたのだが、メーカーではハードウェアとしてのテレビを第一義に考え、録画機は、「テレビの魅力を引き上げるためのもの」と位置づけされているそうだ。

だからどのメーカーの録画機も高画質を誇り、大画面高画質のテレビで再生されるのが前提となっている。ガラポンTVのように、ワンセグ画質なので大型テレビでは見るに耐えないような商品は、大手家電メーカーが手を出す可能性は低いだろう。

次に考えられる懸念は、徐々に広まっているテレビ局の無料見逃し配信サービスが、全局全番組に拡大することだ。実際、今年9月に民放連会長が、在京キー局全社による見逃し配信サービスの検討を開始したと発表している。しかし、この構想に対する各局の思惑はバラバラで足並みはそろっていないようだ。

しかもガラポンTVのように自分の録画機で録画したものを自分で見る私的録画ではなく、テレビ局側が配信するとなると、権利処理が大きなハードルになる。テレビ番組はスポーツにしてもドラマにしてもバラエティーにしても放送権と配信権ははっきり分かれており、オールライツで契約しているもの以外は、新たに配信権を獲得しなくてはならない。

また出演者が所属する事務所によっては、インターネットでの露出を拒否しているところもある。各局ともVOD事業を積極的に展開しており、以前よりかなりスムースに権利処理できるようになった。とはいえ、すべての番組を権利処理し配信できるのは、おそらくまだまだ先になるだろう。ガラポンTVの事業分野では、直近に大きな懸念はないといっていいだろう。

したがって今後は、どうやって普及させるかが最大の課題になる。ガラポンでは11月27日に、500ギガバイトの内臓ハードディスクを外したモデルを2万4800円で発売した。外付けハードディクスを別に購入する必要があるが、4テラのものを付ければ4カ月分の録画ができる。このモデルはわずか2日間で、用意した数百台が売り切れた。これだけの数が売れるのには普通1カ月はかかるそうで、大至急で増産中とのことだ。

ガラポンの保田社長は、ユーザーのニーズは確実に存在すると確信し、価格を少しでも安くすることの重要さを思い知ったという。価格は生産台数を増やせばさらに下げられる。保田社長は、価格を9800円まで下げて、一気に100万台を普及させるという夢を見るようになったそうだ。

ガラポンTVユーザーが100万人になれば、テレビ視聴に本当の革命が起きるだろう。世の中が変わる。ただし100億円が必要だ。「どうやって調達しようかなぁ」とつぶやいた保田社長の表情は、まんざら夢を見ているだけのようではなかった。

ガラポンTVの次の一手

これまでのガラポンTVサイトで書き込まれるレビューは、放送して2日後までがピークで、1週間後の次回放送まで徐々に少なくなっていくそうだ。つまり放送後7日以上経つと、あまり録画視聴されなくなる。ということは、今の、放送後2週間分を保存するという仕様は、ハードディスクを使う上での効率が悪い。

そこで、ユーザーが番組を選択して消去できるという、新しいサービスを提供するそうだ。近いうちにプレスリリースを出す予定だという。これができると見ない番組は早めに消して、好きな番組を長い間保存できるようになる。

例えばアニメ番組だけを残すと、8局で放送されたすべてのアニメ番組を、内臓ハードディスクで約2クール=24週分保存でき、1テラバイトのハードディスクをつければ、1年分保存できるなど、ユーザーの使い勝手が広がる。

ガラポンでは、ユーザーに提供するサービスは常に改善し、より便利になる機能を追加する努力を日々、行っているそうだ。「ガラポンはハードウェアを製造販売しているけれど、実はハードウェアを介したインターネット企業なんです」と保田社長は話す。

ガラポンTVがアーリーアダプターを確保し、キャズムの壁を越えてアーリーマジョリティにシェアを拡大するのは、いつだろうか。「ガラポンTVはテレビの味方」だということの理解を深め、広めていくことが重要な決め手の一つになるだろう。

※本連載は毎週月曜日に掲載します。