米国製エリート教育は本当にすごいのか? (1)

【第1回】米国製エリート教育は本当にすごいのか?

日本の大学教育は、なぜプアなのか?

2014/12/17
G(グローバル)大学、L(ローカル)大学の議論が盛り上がる中、日本の大学教育のこれからに注目が集まっている。米国と日本の大学教育、ビジネス事情に詳しい、起業家の齋藤ウィリアム氏に、日本の教育へのアドバイスを聞いた(全3回)。

日本の学生は自分で学費を払わないから、本気で勉強する気がない

佐々木:私が『米国製エリートは本当にすごいのか?』という本を書いたのが2011年です。私のように大学までずっと日本で教育を受けた人間がアメリカに留学して何を感じるのかを、日記のように、感想文のように書いたものです。

齋藤ウィリアムさんは、ご両親は日本の方ですが、ずっとアメリカで育ち、アメリカで教育を受けられたわけですね。アメリカで優秀な方、いわゆる「エリート」とお付き合いがあると思いますので、日本とアメリカの教育の違い、日米のエリートの違い、それぞれのいい面、悪い面について聞かせてください。

ウィリアム:よろしくお願いします。

佐々木:大学教育に関して、「アメリカはすばらしいけど、日本の大学はダメ」とよく言われますが、自分が実際に経験してみて、「そう言われても仕方ないかな」と思いました。

私がスタンフォードに行ってみて、とくに思い知らされたのが、インプットとアウトプットの量の差です。とにかく、アメリカでは大量の本を読まされました。アカデミックな本を1年で100冊以上読まされて、レポートも毎週のように書かされる。「読み・書き」だけじゃなくて、議論の時間もたくさんあります。

この徹底的な「読み・書き・議論する」トレーニングを、私は「知の千本ノック」と言っているんですが、その部分が決定的な違いだと感じました。

ウィリアムさんはどう思われますか?

ウィリアム:最初に断っておかなきゃいけないんですが、私は日本で教育を受けていないので日米の比較はできません。いま、佐々木さんが「アメリカはすごい」と言われた部分は、私にとって当たり前なんですよ。逆に、「日本の大学生は本を読まないの?」と聞きたくなります(笑)。アメリカで当たり前のことが日本では珍しいみたいで、よく驚かれるのは事実です。

私がいま、教育再生会議に出てコントリビューションできるのは、アメリカでコンピューターサイエンスを4年間教えた経験があるからです。日本でも、東京農工大やICU、慶応、早稲田、東大、京大で授業をした経験があります。

佐々木:有名校はほぼ網羅されてますね、日本におけるトップ校を。日本の大学教育について、率直な感想をお願いします。

ウィリアム:学生が大学に入るだけで精一杯で、疲れているのかなという感じがします。何をするために大学に来ているかがわかりません。彼らも大学で何をしたらいいのかを探っていると思いますけど。

日本では自分で授業料を払っている学生がどのくらいいます? ほとんどいないじゃないですか。教育の価値がわかっていない。何を学ぶかもわかっていないんですよ。お金を払ってるのに、きちんと勉強する気がない。プアなのは当然だと思います。

佐々木:学費を払っているのはほとんど親ですよね。

ウィリアム:そうでしょう。車の例を出しますね。もしポルシェを買ったら、ガソリン入れますか? 普通は入れない、ハイオクにしますね。

佐々木:ポルシェならハイオクですね。

ウィリアム:せっかく素敵な車を手に入れたのなら、大事に有効に使わないともったいないですよね。

日本の学生は、親からいい車を与えられて、「運転するのは面倒くさいし、駐車場代は高いし、ガソリンもなんでもいいよ」という感じに見えます。

佐々木:親から与えられた車だから扱いもぞんざいなわけですね。

ウィリアム:誰がお金を払うのかというのは、すごく大事な問題です。最近はよく、日本人留学生の数が減っているって大騒ぎするけど、定義が間違っていると思う。バブル時代には、企業が海外留学に行かせていましたよね。

企業が金銭を負担して、留学した人は何を学んだんでしょうか。日本のある企業は課長クラスを毎年15人くらいアメリカに送って、2年間のプログラムを受ける。「この人たちは、ゴルフをしにきたのかな?」という感じでした。ちゃんと勉強する人はほとんど見たことない。会社の金だから、気合も入っていない。せめてネットワークくらいできればいいんだけど、日本人だけで遊んでいるから、それも難しい。

佐々木:「自分のお金でこれを学ぶ」という目的がないと、そうなります。意志がないと流されますね。

ウィリアム:もし自分で汗水流して買った車なら大事にするし、こまめに手入れしますよ。自分で苦労しなかったら、気合は入らないし、魂も込められない。

アメリカでは、親が学費を払うのが日本みたいに普通じゃないから、自分のために、将来のために勉強します。専門の勉強だけではなくて、クラブ活動もするし、インターンもボランティアもする。

学校に通っているのに、なぜ塾が必要なのか?

佐々木:日本の大学教育は、どのあたりが「プア」なんでしょうか?

ウィリアム:まずは学生の心構えからですよね。

佐々木:大学での議論もプアですね。

ウィリアム:国際会議で活躍する日本人は少ないですよね。本当に使えるナレッジがプアだし、自分の意見を伝えるのが苦手です。「何が教育なのか」本質がわかっていない。グーグルで検索できる情報を暗記したり、レポートに転記するだけでは意味がない。ナレッジをどう応用するかを教えられていないんですよ。

佐々木:教える側にも、本質を必死に教えるというインセンティブがあまり見受けられないですよね、研究してる割に。

ウィリアム:「学生が文句言わないからいい」みたいな感じではもったいないですよ。

佐々木:誰も本気にならないメカニズムというか、大学は本気の人が誰もいない空間になってしまっているということですか。

ウィリアム:そうかもしれない。学生は、私の基準では明らかに勉強量が足りていないんだけど、「日本ならこんなものです」と大学の人に言われちゃう。みんな、勉強量が少ないのに、でも就職に関係するから自分の成績にはうるさい(笑)

佐々木:大学のカリキュラムがどうとかよりも、大学教育の位置付けというか、社会的なポジショニングがおかしい。社会の設計自体をやり直さないと日本の大学はダメなんでしょうか?

ウィリアム:そうでしょう。親がとりあえず大学に行けと言うし、金を出してもらうから「卒業証書をもらえばいい」となる。それって、すごくおかしくないですか?

ところで、日本の小中高生はみんな、学校に行ってますよね? でも、学校のあとに塾に行くでしょ。どうして?

佐々木:受験合格のためですね。

ウィリアム:でも、受験って公的な試験ですよね? 学校の勉強だけではダメなの?

佐々木:学校の授業だけでは対応できないってことです。

ウィリアム:それは、公立学校が自分たちの責任を果たしてないことになりませんか?

佐々木:そうですね。

ウィリアム:大学に入るために時間を削って勉強して、大学ではお友達をつくって就職活動する。少しは大学で勉強する人がいるかもしれないけど、学問を通して自分の頭で考えられるようになることが目的じゃない。大学を通過して就職することが目的になっているように思えます。

日本で一番いい大学だと言われている東大も、大学の世界ランキングを見ると、トップ10にも、トップ20にも入らない。教育がその国の将来を決めるのだから、イノベーションが必要なんだけど、タイムスリップしてストップしたまんま。政府の中枢にいる人はそのシステムで受かった人だから、変えようとしない。

佐々木:自己否定できないですよね。

ウィリアム:世界ランキングの上位に私立大学が並んでいるのは、資本主義(競争原理)が働いて、お客さんがバリューを求め、大学がそれに応えているから。

バリューに応じた高い対価を学生は払っているから、学費に見合ったものを獲得したいと考えるでしょ。考えようによっては、投資と同じ。しっかりリターンを求めるのが当たり前です。でも、日本の学生は自分は出資していないし、出資してもらっているという意識もない。あれは、親の寄付だから。

佐々木:寄付? そうかもしれないですね。

ウィリアム:自分のお金で株を買うなら、これから伸びる企業や産業を選ぶはず。

もし「ここはダメだ」と思うなら、違う大学を選べばいい。大学でも競争があるからこそイノベーションが生まれ、教育も進化するんですよ。

アメリカは国の成り立ちからして、州が強い。つまり、ユナイテッドステイツの中では少なくとも50のやり方がある。日本には文部科学省があって、県ごとに違うやり方はできていないですよね。

※続きは明日掲載します。

【プロフィール】
齋藤ウィリアム浩幸(SAITO William Hiroyuki)
株式会社インテカー代表取締役社長、内閣府本府参与
米国生まれ。日系二世の起業家、ベンチャー企業支援コンサルタント。10代で商用ソフトウェアのプログラムを始め、大学在学中にI/Oソフトウェアを設立。指紋認証など生体認証暗号システムの開発で成功し、2004年会社をマイクロソフトに売却。その後、日本に拠点を移しベンチャー支援のインテカーを設立。2011年ダボス会議(世界経済フォーラム)「ヤング・グローバル・リーダー」メンバーに選出。後に、ボードメンバーに就任。日本では2012年、日経ビジネス「次代を創る100人」に選ばれる。日本語著書に『ザ・チーム-日本の一番大きな問題を解く』(日経BP社2012年)、『その考え方は、「世界標準」ですか?』(大和書房2013年)。日経産業新聞コラム「ウィリアム氏と明日を読み解く」を執筆中。