進撃の中国IT

インドでの販売禁止令から考える…

HTCとソニーからシャオミが学ぶべきもの

2014/12/16
グーグルのアンドロイド製品管理ディレクターだったヒューゴ・バラ氏を副社長に引き抜いて以来、シャオミは国際的に最も注目を浴びる中国企業の一つになった。中国で生まれ育った企業で、名前までもきわめて中国風のシャオミが、なぜ世界の一流企業、一流IT人材を惹きつけることができるのだろうか?

インドの販売禁止が意味するもの

バラ氏の引き抜きをきっかけに、米国、台湾、香港、英国、マレーシア…多くの海外メディアが次々とシャオミについて報道した。その結果、中国でもっともイノベーション力が高いとみられたシャオミが、いまだに独自の特許を貯めこむにいたっていないということに人々は気がついた。

そしてつい先日、雷軍CEOが「シャオミの国際化戦略でもっとも重要な部分」と期待するインド市場で事件が起きた。シャオミが通信特許を審判しているとエリクソンが告訴。インドの裁判所が8日、訴えられた当該シャオミ製品の販売禁止を命じたのだ。

たぶん、シャオミにとっては海外での特許訴訟はこれで終わりにはならないだろう。教訓としてHTCの経験が注目に値する。

2010年、飛ぶ鳥を落とす勢いだったHTCは、アップルの特許訴訟に直面した。翌2011年はHTCにとって喜びと悲しみがあいまじった1年となった。米国市場で最大シェアのスマートフォンメーカーとなった一方で、アップルとの訴訟に敗れ、2012年4月から米国市場で一部機種の販売が禁止されたのだ。

これはHTCにとっては致命的な打撃だった。

製造業に詳しい友人によると、製品の研究開発と製造には一定の周期があるという。ちょうど組み立て生産に入ろうとしたタイミングで販売禁止が通達されたため、HTCはすでに製造を発注していた可能性が高く、甚大な損害を被ったとみられる。

しかも当時、HTC製品の半数は米国市場で販売されていた。アップルの訴訟はまさにHTCの急所を締め上げるものとなったのである。

このHTCの教訓を知っているがゆえに、シャオミは米国に進出していないのかもしれない。まずは中国本土周辺からじわじわと攻略。その後東南アジアへ、そしてインドなど低価格携帯の需要がある国へと進出していくルートを選んだ。

もっとも別の市場にはそれぞれ別のハードルが待っている。特許戦争の経験豊富なアップルを避けたはずが、通信分野で多くの特許を持つエリクソンにぶつかってしまった。

製造業を変えたソニー、そしてシャオミ

 Technology Shopping in Hong Kong

国際化を果たした企業として、ソニーの経験は今なお学ぶに値する。とりわけ米国市場での成功だ。消費者の多くはソニーを米国ブランドと認識している。

この成功の背景には創業者である盛田昭夫、井深大の深謀遠慮があった。

「絶対に人真似はしない、絶対に妥協しない、絶対にあきらめない」という三絶原則が技術スタッフに叩き込まれ、イノベーションを追求する気風が生み出された。また具体的な進出にあたり、ソニーは特許情報を積極的に収集して海外の技術トレンドに注目、研究開発の正しい方向性を保ち続けた。

これは単に特許地雷を避けるためのものではない。他社との提携、買収、合資協力、技術貿易などの企業戦略を決定するインフラとして機能したのである。

ソニーの成功は日本の製造業を変えた。ソニー以前の日本製造業は現在の中国製造業と同じだった。低価格低品質の代名詞だ。ソニー以後、日本企業は一つずつ技術的課題を克服し、またソニーの成功体験を学び、大量の日本ブランドが生まれた。例えばデジタルカメラはすでに日本企業の独占市場となっている。これは争いようのない事実だ。もちろん、ソニーとHTC、シャオミを比較するのは必ずしも公平とはいえない。

国際的ブランドの台頭には時間が必要だ。ソニーは1946年に創業。1956年にトランジスタ技術を突破口として、日本発のトランジスタラジオTR-55を開発した。この製品のヒットでソニーは初めて安定的な収入を得る。

1968年、ソニーはトリニトロン方式のテレビを開発、世界的な大ヒットを飛ばし企業の地位を確立した。この間、創業から20年もの歳月が過ぎている。

ならばシャオミは、ソニーの歴史からなにを学ぶべきだろうか?

私たちは雷CEOの強調する「インターネット思考」にばかり注目して、シャオミが中国製造業に与える影響力を軽視してきた。「シャオミはたんに資本調達の成功を背景に急拡大したに過ぎない」、これが一部の製造業関係者の考え方だ。だが彼らは、シャオミがブランド構築に投じた努力と工夫を軽視している。

シャオミがそのスマートフォンを出す前に、スマートフォンOS関連のネット掲示板で一世を風靡した、独自のアンドロイド・カスタムOS「MIUI」こそ、シャオミのブランド力上昇のカギとなったことを。

見え始めた、急成長を続けるシャオミの弱点

中国国内では安物、模倣の悪名を着せられているが、雷CEOの最終目的はシャオミを国際ブランドに育て上げることなのだ。ただし、その手法は技術で突破を果たしたソニーとは異なる。

まずはSNSを使って徹底的に宣伝してシャオミ・ブランドで消費者の心をつかんだ後に、製品の改善を推し進めるという手法だ。シャオミのスマートフォンは基本スペックしか揃えていなかった初代シャオミから一部パーツをグレードアップさせたシャオミ2Sへ。

そして仕上がりとデザインが不評だったシャオミ3を経て、全面的に成熟したシャオミ4へと進化してきた。ハードウェア分野で、シャオミは漸進的な改善を通じて採用する技術レベルの向上を続けてきた。一方でブランドの成長は製品の進化を上回るペースで進んでいる。

雷CEOの戦略はきわめて明確だ。携帯電話に関連する電気製品はすべて取り込もうという考えだ。バッテリー、ルーター、テレビ、ウェアラブルデバイス、そして空気清浄機。すべてが携帯とインタラクティブに通信する機能を備えている。

しかし、これらの製品を子細に見ていくと、実はスマートホーム製品に接続する玄関口となるテレビとルーターこそがシャオミがしっかり掌握しようとしている中核であることがよくわかる。

だが、製品ラインナップを急拡大に行いすぎて、研究開発や特許取得のペースが追いつかないという悪影響が出てきている。先日発表された空気清浄機は他社製品にそっくりで、そんな悪影響が表面化したものと言えるだろう。

新たな目標は自社製チップセット搭載製品

エリクソンによる告訴は、雷CEOに警告を与えたはずだ。知的所有権を重視する国際市場において、シャオミの特許備蓄はいまだ不足しているということに。

2013年末から2014年にかけてシャオミの特許申請数は急増しているが、キーとなる通信特許などの不足は一朝一夕に克服できるものではない。エリクソンなど他社の特許を買収するならば話は別だが。

特許については智谷公司がカギを握るとの指摘もある。智谷公司は中国大手ソフト会社「キングソフト」の張宏江CEOが創業した特許運用企業で、シャオミのエコシステムの一環を担うとみられている。

またシャオミはチップセット開発にも進出しようとしている。今年11月に大唐電信科技が、その完全子会社である聯芯科技が開発したSDR1860プラットフォーム技術を1億300万元(約20億円)で北京松果子公司に譲渡することを発表した。この北京松果子公司とは実のところ、聯芯科技とシャオミの合資会社である。

将来的にシャオミは自社開発のチップセットを採用した製品を販売するのだろう。その時には特許、さらには模倣などを巡る議論は雲散霧消することになるだろう。

だがそこにいたるまで、シャオミが発展のペースを緩めず、またブランドに関する発言力を放棄しないことが重要になる。その発言力こそシャオミの核心的競争力なのだから。こう考えるのは私だけではないはずだ。メディア業界関係者ならば同意する人も多いだろう。

(執筆:陳一斌/Ifanr.com 翻訳:高口康太 写真:@iStock.com/George Clerk)

※本連載は毎週火曜日に掲載する予定です。

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