2022/8/15

【個性】「静かな人」のすごい力

NewsPicks編集部
あなたが物静かなタイプだったとしよう。どちらかといえば人付き合いが好きではなく、自分の意見を主張するのも苦手な「内向型」だ。
そんなあなたは、会議ではどのように発言するだろうか? 社内外のイベントではどのように振る舞う? 考えただけで憂鬱になってこないだろうか。
内向的であることは、ビジネスの場では「不利」だと考えられがちだ。
だが、そんなイメージを覆すような、『「静かな人」の戦略書』(ダイヤモンド社)という一冊が、世界中で反響を呼んでいる。
著者のジル・チャンさんは、台湾出身。「主張しすぎないこと」を美徳とする価値観の中で育ったのち、アメリカに渡って大きなカルチャーショックを受けたという。
しかし、持ち前の内向的な性格を偽ることなく、むしろその強みを活かしながら、15年以上にわたってアメリカ州政府やメジャーリーグなど、さまざまな業界の第一線で活躍してきた。
ジルさんの「戦略」は、自分らしさを失わずに力を発揮したいと願っているあらゆる人に、このうえなく実践的なヒントを与えてくれるだろう。
INDEX
  • ①変わらなくても壁は乗り越えられる
  • ②自分を偽るのは可能性を狭めること
  • ③自分の「元気のもと」を知ろう
  • ④内向型の「3つの強み」を生かそう
  • ⑤「内なるモチベーション」を探そう
  • ⑥内向型が実力を出せる環境を作ろう

①変わらなくても壁は乗り越えられる

──アジア発のビジネス書が世界的なベストセラーになるのは快挙です。どのような点が読者に支持されたと思いますか?
ジル 職場における「内向的な人」の存在は、10年以上も前からしばしば話題になってきました。一方で、内向的な人の強みを理解し、本当の意味で彼らを受け入れている職場は、まだまだ少ないのが実情です。
そんな中で、内向的な人々は日々の課題に対処するために、解決策やインスピレーションを求め続けてきました。この本が、彼らのニーズに応えることができたのだとしたらうれしく思います。
誤解のないように言っておきたいのですが、これまで内向的な人に向けて書かれてきた数々の本に不満があったとか、物足りなさを感じたということではありません。
スーザン・ケインの『内向型人間のすごい力』(邦訳は『内向型人間が無理せず幸せになる唯一の方法』と改題)をはじめ、ジェニファー・カーンウェイラー、ドリス・マーティン、シルビア・レーケンといった人々の著作は、文字どおり私の人生を変えました。この本でも、彼らの作品から多くを引用しています。
©️Wang Kai-Yun
一方、彼らの教えを実践しようとする中で、自分との違いを実感したのも事実です。
これらの作家はコンサルタントであり、コーチであり、心理学者であったりするわけですが、私はといえば、欧米型の組織の中でなんとかキャリアを切り開こうとしている、アジア出身の若い女性にすぎませんでした。
根っから内向的な私は、すぐさま壁にぶつかりました。そんなとき、彼らの本を読んで「よし、明日から変わろう」と決意したことを覚えています。
でも、翌日に出社して、いざ会議が始まると「ダメだ、やっぱり発言できない。どうやって手を挙げていいのかもわからない」と感じて、会議室の隅に隠れたくなるのです。
この本では、同じような思いをしている読者に向けて、私自身のリアルな経験や学びを事細かに伝えようと心がけました。すばらしい著者たちが開発した理論やモデルの、いわば「実践編」を目指したのです。
内向的な人間は通常、パーソナルな経験を進んでシェアすることはありません。私にとっても勇気が要ることでしたが、自分の弱点や失敗さえもオープンに共有することで、「あなたがぶつかっている壁は、かつて私がぶつかった壁であり、でもそれは乗り越えることができる」という、一貫したメッセージを伝えることができたと思います。
(Blueastro/iStock/Getty Images)

②自分を偽るのは可能性を狭めること

──職場では外向的な人ほど成功しやすいというイメージがあるため、私たちは無理をしてでも外向的に振る舞おうとしがちです。そんな中で、「内向的な人でも、自分らしさを失わずに力を発揮することはできる」というメッセージにはとても力づけられます。
実際のところ、「自分は外向的だ」と思っている人は、外向的なカルチャーで知られるアメリカでも、そう多くはありません。見るからに外向的な同僚に質問しても、たいていは「自分は内向的なタイプだ」という答えが返ってきます。私としては「冗談でしょ?」としか思えないのですが。
つまり、彼らにしても根っから外向的なのではなく、外向的であるように訓練されているのです。
先日、娘を連れて近所の遊び場に行ったとき、アメリカ人のお母さんがお子さんに話しかけていたのですが、その質問が「楽しかった?」ではなく「友達はできた?」だったことに、軽く衝撃を受けました。こんなに小さい頃から、外向的な文化になじまなくてはならないのか、と。
内向的な人と外向的な人は本来、異なった考え方をするはずなので、無理をして外向的に振る舞うのは、その人が持っている真のポテンシャルを狭めてしまうことになりかねません。
(Robert Daly/Getty Images)
逆に、自分はとうてい外向的にはなれないからといって、一切の努力を諦めてしまうのも、自分の可能性を摘んでしまうという意味では同じことです。
内向的な人には、内向的な人にふさわしい「戦略」がある──それが、私が一番伝えたかったメッセージです。

③自分の「元気のもと」を知ろう

──そもそも、内向的な人と外向的な人の決定的な違いとは何なのでしょうか?
科学的見地では、「外部からの刺激に対する受容度」が、内向的か外向的かというパーソナリティに関わってくるというのが通説です。外向的な人は外部からの刺激を求める傾向があり、内向的な人は外部からの刺激を遮断したがる傾向があるとされます。
これは、外向的な人が報酬を求めてリスクを取ろうとするのに対し、内向的な人は危険を回避し、エネルギーを節約し、失敗を減らそうとするといった、生存戦略の違いとなって表れます。
両者の違いが最もわかりやすく表れるポイントは、その人の「元気のもと」です。内向的な人は、1人でいると元気が出ますが、外向的な人は、外部と交流することによってエネルギーを得ます
長時間の勤務で疲れているときでも、仕事上がりに同僚たちと飲みにいけば元気が出るというような人は、外向的なタイプといえるでしょう。逆に、人付き合いは嫌いではないけれど、自宅で1人、テレビを見ているほうが元気になれるという人は、内向的なタイプといえます。
ただ、その人が内向的か外向的かというのは、白黒はっきり分けられるものではなく、あくまで「どちらかといえば〜」というグラデーション上の話です。しかも、その色合いは環境や経年によっても変化します。
この本の目的は、誰かに「内向的か、外向的か」というレッテルを貼ることではありません。それぞれの個性を大切にしつつ、「安全地帯」から一歩外に踏み出して、その可能性を広げていくことにあるのです。

④内向型の「3つの強み」を生かそう

──ビジネスの現場における、内向的な人の強みの「ベスト3」を挙げてください。
まずは「戦略的思考力」が高いことです。
内向的な人は、自分を起点に物事を考えるのではなく、常にKPIや周囲の期待、物事の優先順位などを意識しながら、「全体」の中に自分をうまく位置づける方法を考えるのが得意です。
戦略的思考を伸ばしていけば、能力をひけらかさずとも自分の存在感を高めることができますし、最も効率のいいやり方で時間や労力などのリソースを配分することも可能になります。
次に、「全体」を見通すのが得意だということは、「チームプレーヤー」として優れていることを意味します。
内向型の人は、持ち前の観察力でメンバーを適材適所に配置し、チームとしての力を最大化することに長けています。自分だけがスポットライトを浴びるようなことをしないのも、チームからの信頼感につながります。
(nikkytok/iStock/Getty Images)
最後に、個人的に最も重要だと感じているのは「傾聴力」です。
他人の話を「聞く力」は、相互理解の基本であり、ビジネスにおいても不可欠なスキルです。とはいえ、これは人の話を単に黙って聞いていればいいというものではありません。
相手が何を伝えようとしているのかを本当に理解するには、多くの分析と努力が必要です。その点で、話すより聞くことが好きな内向型の人は、聞きながら絶えず分析を行い、そこから常に何かしらを吸収しています。
この3つを武器にすれば、無理に外向的になろうとしなくても、存分に「自分らしく」力を発揮することができるはずです。

⑤「内なるモチベーション」を探そう

──内向的な人が、その強みをうまく発揮できれば、組織の中でも重用されるでしょう。しかし、その状況を素直に喜べない人もいるのではないでしょうか。ヘタに出世してリーダーを務める羽目になるより、自分だけの仕事に集中していたい……という人も多そうです。
実は私も、まさにその葛藤を経験しました。
マネジメントの役割を果たさず、自分の仕事だけに集中したまま高給を得ることができるのは、ごく一部の上級エンジニアくらいのものです。たいていの仕事では、順調に成果を上げていれば、好むと好まざるとにかかわらず、いずれリーダーにならざるを得なくなります。
内向的な人がリーダーになれと言われたとき、どうすればモチベーションを上げることができるのか。
内向的な人は、報酬や履歴書に箔がつくといった外的な要因よりも、内的な要因からモチベーションを得ようとする傾向があります。だから「お給料が上がります」と言われても、実はそこまでうれしくないのです。
そこで私は、「内なるモチベーション」を見つけ出すための3つのヒントをお伝えするようにしています。これらは、私自身がリーダーを務めることになったときも、やる気を奮い起こすのに非常に役立ってくれました。
(Klaus Vedfelt/Getty Images)
ひとつ目は「立場を利用する」です。
リーダーになるということは、より多くの権限を持つということです。つまり、自分にとって居心地のいいカルチャーをつくり上げるには、格好のポジションなのです。
会議の数が多すぎるとか、会議が「雑談の場」みたいになっていて苦痛だとか、社内の「外向的」なカルチャーにストレスを感じている場合は、事前にアジェンダを配布したり、業務連絡をメールで行うスタイルに変更するなどして、「社交」に振り分けるリソースを極力抑えることができるでしょう。
ふたつ目は「チームを利用する」です。
繰り返しになりますが、内向的な人はすぐれたチームプレーヤーであり、チームメンバーの得意分野も心得ています。ならば、自分の苦手な仕事をメンバーに振ることで、自分の負担を軽減することができます。
このとき、内向的なリーダーは「相手の迷惑にならないだろうか」などと考えてしまいがちですが、自分のニーズを伝えることを恐れてはいけません。特に仕事に関しては、自分が嫌だと思っていることを、相手も嫌がっているとは限りません。むしろ、楽しんでいるかもしれないのです。
3つ目は、「戦略的にキャリアを考える」です。
すぐれたリーダーの条件とは、複数の要素がどのように動いているのかを全体として把握し、目標に対して戦略的に考えることであり、これこそ内向的な人が得意とするところです。
この長所を生かせば、内向的な人ほどすぐれた経営者になれるでしょう。長い学びのプロセスではありますが、普通の人に比べれば恐れるに足りません。あえてそんな、壮大なゴールを目指してみるのも手ではないでしょうか。
©️Wang Kai-Yun
この3つに、私はリーダーになることへの「内なるモチベーション」を見いだし、自分を納得させることができました。リーダーになることは「重荷」ではなく「特権」なのだという気持ちを持って、前向きに力を発揮できるようになったのです。
あともうひとつ、内向的なリーダーだからこそ、内向的なメンバーに目配りができるという点も付け加えておきたいですね。
ともすれば能力を過小評価されがちな、内向的なメンバーの長所を見つけ、彼らにとって働きやすい職場をつくるのも、内向型のリーダーならではの、やりがいある仕事だと思います。

⑥内向型が実力を出せる環境を作ろう

──ひるがえって、外向的なチームリーダーが内向的なメンバーとうまくやっていくコツは何でしょうか。
それは非常に重要なポイントです。
台湾でもアメリカでも同じですが、外向的なリーダーの多くが、内向的な人をうまく活用する方法を理解していません。彼らにとって、内向的な人たちというのは「黙っている人たちの集団」にすぎないので、どう接すればいいのか途方に暮れてしまうのです。
ここでも私は3つのアプローチを提案したいと思います。
ひとつ目は「柔軟さ」です。
内向的な人は、50人規模のような大きな会議で話すのは好きではありません。彼らが何を考えているのかを知りたいなら、1on1の面談や、3人程度の小規模なグループチャットのほうが適しています。
また、会議で発言してもらう代わりに、メールやパワーポイントのスライドなど、彼らがより得意とする文書形式で提出してもらったほうがいいかもしれません。
要するに、発言の場所や形式を決まったものに固定せず、より柔軟に設定すること。それによって、内向型の人のポテンシャルをぐっと引き出すことができるはずです。
ふたつ目は「スペース(そっとしておくこと)」です。
内向的な人は、あれこれ構われるのが苦手なので、外向型のマネジャーがいちいちデスクまでやってきて進捗状況を聞いてくるのがうっとうしくてたまりません。とはいえ、マネジャーに言わせれば、相手から何も報告してこない以上、自分から様子をチェックしにいくしかないじゃないか……ということになります。
(Westend61/Getty Images)
この場合、マネジャーがやるべきは、やみくもに相手を急かすのではなく、最初の段階でプロジェクトの期限を決めて、マイルストーンを設定することです。たとえば、この企画書は金曜までに完成させなくてはならないから、水曜のお昼にたたき台を提出してほしい……といった具合です。そして、その期限やマイルストーンに合わせてフォローアップを行います。
とにかく、外向型のマネジャーが思っている以上に、内向型のメンバーにとって「スペース」は重要です。しょっちゅうデスクにやってくるマネジャーは、役に立たないどころかストレスの原因でしかありません。
そして3つ目が「アラート」です。
アラートに関しては、どれだけ出しても内向型の人にうっとうしがられることはありません。
会議であれ、何かの発表や提出であれ、期日が近づいてきたら声をかけて、相手が心の準備をするための時間を与えると同時に、自分が期待することを伝えましょう。具体的かつ明確に、何をすべきかがわかるような指示が有益です。
この3つを実践した私のクライアントは、たいてい「こんなに簡単なことで、こんなに劇的に変わるなんて」と、驚きを隠しません。
相手への理解とほんの少しの気遣いで、内向型人間と外交型人間の関係は大きく改善するもの。
こうしたノウハウを通じて、すべて人が「ありのまま」の自分を尊重しながら力を発揮できる組織が世界中に広がっていくことを、願ってやみません。