テレビイノベーション

「テレビ回帰」を起こすガラポンTV

「ガラポンTV」は、テレビ視聴に革命を起こすのか

2014/12/15
ガラポンTVというテレビの全番組録画機をご存知だろうか。8チャンネル分のワンセグ放送を24時間×2週間、まるごと録画し、いつでもどこでも、スマホやタブレットやパソコンで見られるというものだ。大手の家電メーカーではなく、ガラポン株式会社という小さなベンチャー企業が製造販売している。
ガラポンTVは、10月に幕張で開かれた最先端IT・エレクトロニクス総合展のCEATECで、ライフスタイル・イノベーション部門で準グランプリを獲得した。スタートして数年の小さなベンチャー企業がCEATECの賞を取るのは異例のことだという。
「TV視聴に革命を。We Love TV!」をミッションにしたガラポンTVは、本当にTV視聴に革命を起こすのか、今回はこれを考えてみた。

ガラポンTVはテレビの味方

私がガラポンTVを知ったのは2年ほど前のことだった。ある勉強会で、ガラポンの保田歩社長のプレゼンを聞いた。保田社長は「ガラポンTVはテレビの味方です!」と懸命に強調していた。

しかし「録画機はテレビの敵だ」というのが、テレビ業界では共通の認識だ。特に、全番組録画機(全録機)は使ってみるとあまりに便利で、ユーザーは録画視聴ばかりするようになり、CMもほとんどスキップされてしまうと言われていた。

全録機によって、放送もCMも見られなくなってしまう。テレビ局の中の人たちはほとんどが今でも、全録機のひとつであるガラポンTVをテレビの敵だと思っている。私も保田社長に対し「ガラポンTVはテレビの敵だとしか思えない」と言った。

ところがそれは間違いだった。数カ月後、ガラポンTV参号機が発売されたのを機に、私も使ってみて驚いた。ガラポンTVは本当にテレビの味方だったのだ。データでもそれは明らかになっている。ユーザーアンケートによると、18%がガラポンTVの使用前は全くテレビを視聴していなかった。

つまり完全にテレビ離れしていた。ガラポンTVは使用感がネット動画を見るとの全く同じであるため、テレビ嫌いのネットユーザーにも親和性があるということだろうか。

またガラポンTVを使うようになってから、テレビ放送をリアルタイムで視聴する時間が増えたという人が30%いる。減ったという人も24%だが、全録機であるにもかかわらず、増えた人が多いということに驚く。

そしてテレビにとって深刻な問題であるCM飛ばしをする人は、わずか19%しかいない。通常の録画視聴では、76%がよくCMを飛ばすというNHKのデータがあるので、これは非常に少ない数値だ。その理由としては、ガラポンTVでは、早送りの操作が非常にやりにくいためだと思われる。

現在では、データをとるために、パソコンでは15秒、30秒、60秒の巻き戻しと先送りの機能が使えるようになっている。しかしパソコンからの視聴は全体の2割ほどしかなく、スマホが6割ほど、タブレットが2割ほどなので、このCM飛ばしが少ないという傾向は今でもあまり変わらないと思われる。

スマホやタブレットでも先送りの機能をつけるのは簡単だが、「ガラポンTVはテレビの味方」であり、テレビ広告市場を毀損させぬよう機能設計するとの立場から、あえてその機能を装備させていないそうだ。
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テレビ回帰を引き起こすガラポンTV

ガラポンTVの特徴を整理してみよう。まず画質が悪いことだ。録画するのはワンセグ放送なので、視聴デバイスとしてはスマホ程度の小さな画面がちょうどいい。パソコンでも大きな画面では、画像が荒くて見るのはつらい。

ましてやテレビ画面のような大画面では、とても見られたものではない。テレビ側の立場からすると、この意味はとても大きい。テレビ局にとっては、テレビゲームも、映画のブルーレイやDVDも、テレビで見られるVODも、録画機も、テレビ画面上の時間を奪い合う競争相手、つまり敵だ。しかしガラポンTVはテレビでは視聴されないため、テレビ画面上の時間を奪わない。

ワンセグ画質のもう一つのメリットはデータ量が少ない事だ。多少電波状況が悪くても大丈夫。外出先のフェイスブックの読み込みに時間がかかるような場所でも、3G回線でもサクサク見られる。1時間番組でも数分でデバイスにダウンロードできるので、電波が通じない所でも見られる。

会社の休み時間、通勤通学途中、自宅のトイレや寝室など、これまでテレビを見なかったシーンで、テレビが見られるようになる。テレビ番組への接触機会が、純増するのだ。

すると何が起きるのか。LINEやTwitterなどで話題になったテレビ番組でも、見られるようになる。それが面白ければ、次の放送視聴に繋がる。気に入って見ていた連続ドラマをつい見逃しても、空いた時間にスマホで見られる。すると次回の放送視聴に繋がる。

つまりガラポンTVには、ユーザーをテレビのリアルタイム視聴に回帰させる「テレビ回帰」の効果があるのだ。もちろん、自宅の居間でテレビを付けずにスマホでガラポンTVを見るという人も中にはいるだろう。

しかしガラポンTVは、いつでもどこでも見られるので、わざわざ自宅の居間で見なくてもいい。テレビを持っていない人はともかく、大画面のテレビを所有している人なら、自宅の居間ではテレビの方を見るのではないか。
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ソーシャルメディアとの連携も可能に

今やソーシャルメディアによる情報拡散力は非常に強力になっているが、ガラポンTVはそれを直接、番組視聴につなげることもできる。

例えばガラポンTVを視聴していて番組の気に入ったシーンがあり、フェイスブックやTwitterでコメントを書き込もうとしたとする。ガラポンTVの画面下部には「再生位置のシェアURL」というタブがありそれをクリックすると、そのシーンのURLが表示される。コメントを書き込む時このURLをコピペするだけだ。

コメントを目にした他のガラポンTVユーザーがそのURLをクリックすると、アプリを立ち上げていればすぐにそのシーンの再生を見られる。その感覚は、例えばフェイスブックやTwitterで動画を共有し拡散するのと同じだ。これを面白いと思ったユーザーは、次の放送を視聴してくれるかもしれない。

ただしこの機能は、ガラポンTVサイトというガラポンのソーシャルサイトから視聴した場合にだけ使える。ガラポンでは今、このソーシャル視聴体験を広める努力をしているという。

ガラポンTVがもっと普及しユーザーが増えれば、ネットに溢れる膨大なテレビに関する情報や書き込みから、大きなトラフィックがガラポンTVの視聴に直接流れ込み、それがテレビのリアルタイム視聴にユーザーを回帰させる。

ガラポンTVはテレビの敵どころか、テレビを元気にする力があるのだ。次回は、ガラポンTVのソーシャルメディアの志向と、目指す未来の姿について述べる。

※続きは、12月18日(木)に掲載する予定です。