世界で戦う和僑たち_141206

東大→大蔵省→マッキンゼー、そして宇宙へ!

宇宙起業を決めた、毛利衛氏からのメッセージ

2014/12/13
第一回:“宇宙のゴミ問題”に取り組む、気鋭の和僑

宇宙とは無縁のキャリア

世界の起業家たちが先送りにする“宇宙のゴミ”、スペースデブリ問題。宇宙軌道上に「億単位」で飛び交う”デブリ”は将来、人類が宇宙に進出するにあたって必ずや障害になる。映画、「ゼログラビティ」で描かれた宇宙事故が起きてしまう可能性もある。そのデブリ処理を民間で行おうとしているのがアストロスケールの創業者・岡田光信氏だ。

彼の宇宙のゴミ掃除のやり方はこうだ。「MOTHER」という装置がデブリを検知。その後、「BOY」という小型の粘着材が付着した装置でデブリを捕獲。その後、噴射することで軌道を変え、大気圏に突入させ、燃え尽きさせる。

宇宙起業家としてシンガポールで起業をした岡田氏だが、かれの経歴は”華々しい”ものの、宇宙とは無縁だ。

東京大学を卒業後、大蔵省に入省し主計局で国家予算の策定に携わった。米パデュー大学でMBAを取得。マッキンゼーに転職し、アジア・アメリカの大企業を戦略策定と実行で支援した。

岡田氏の取り組みの賛同者たちで構成される「Space Sweepers」チームのキックオフミーティング

岡田氏の取り組みの賛同者たちで構成される「Space Sweepers」チームのキックオフミーティング

純国産のLinux OSの開発・販売を行うターボリナックス社に移籍し、CFOとして日本・中国・インドにて販路拡大に努めながら新興市場にて上場を経験。その後、IT企業を設立し、日本・東南アジアの通信キャリア向けにBtoBソリューションの開発を行った。

岡田氏と宇宙との出会いは、彼が15歳の頃にまでさかのぼる。アメリカNASAのジュニアプログラムに参加した際、宇宙飛行士の毛利衛さんに一枚の手書きのメッセージをもらったのだ。

毛利衛氏からもらったメッセージ

毛利衛氏からもらったメッセージ

ビジネスエリートとして多岐にわたる分野で様々な仕事を経験してきた同氏だったが、39歳の頃、40歳以降の人生をどのように過ごそうかと立ち止まることがあったという。そのとき真っ先に浮かんだのが、宇宙で働くという夢だった。

会社を設立する前から宇宙関連の学会に参加していた。そのうちにデブリの問題に関心を持ち、除去するための独自の仮説を考えた。そして、2013年4月にドイツで開かれたデブリ学会で、動くのは今だと腹を据えたという。

イーロン・マスク氏率いる、アメリカの宇宙ベンチャー「スペースX」に在籍する、ある技術者からかけられた声にも起業の背中を押された。「違う業界のひとこそウェルカムだよ」と。

シンガポールに拠点を置いたのは、岡田氏が同国を気に入って数年前から住んでいたというのが素直な理由だが、親米、親日、親ロ、親中、親EU、親中東のシンガポールはアライアンスの自由度が高く、多様な人材も採用可能だという。

オフィスに飾られていた、漫画「銀河鉄道999」の作者 松本零士氏直筆のサイン

オフィスに飾られていた、漫画「銀河鉄道999」の作者 松本零士氏直筆のサイン

最後に、他の分野でも起業を経験した岡田氏に、「宇宙」という筆者からすればとてつもなくスケールの大きい分野で起業することについて聞くと、ビジネスの規模によって何かが変わるかというと、意外と何も変わらないのだそう。対象物は宇宙というスケールの大きなものだが、技術要素、経営要素を分解していくと、一つ一つは地味で細かい作業になる。

唯一違う点を岡田氏はこう表現した、「宇宙の技術は数学、化学、物理学、統計学、機械工学、材料工学等の総合格闘技だ」ということ。単なる経営者にとどまらず、技術者でもあろうとする岡田氏。「宇宙のゴミ掃除」がいよいよ始まる。

(次回は来週土曜日の公開です)