【RS】女性管理職に立ちはだかる12の壁

女性の昇進にはサポーターが必要だ

大和証券役員が語る「女性管理職の孤独」を防ぐ方法

2014/12/10
安倍内閣は「社会のあらゆる分野における、指導的地位に女性が占める割合」を2020年までに30%まで引き上げると宣言。だが、急遽、管理職になった女性社員の中には、明らかな能力不足を指摘されるケースもある。では、先達の女性管理職たちは、どうやってスキル不足やテクニック不足、あるいは周囲の理解不足といった”壁”を乗り越えてきたのか? 連載第11回は、人数が少ないゆえに「女性管理職は孤独」だという壁の突破法について大和証券の女性役員に聞いた。

「女性を抜擢するなら、一人ではなく二人以上にするべき。でなければ、孤独に耐えられませんよ」

自らの体験から、熱を込めてそう語るのは、大和証券常務執行役員の齊藤直子さん(53歳)だ。営業担当として、神奈川・北関東地区の20以上の支店を管轄する。2009年3月、同社が生え抜きの女性社員4人を同時に役員に昇格する人事を発表したことは大きな話題となったが、その主役となった女性の一人である。

大和証券常務執行役員の齊藤直子さん

大和証券常務執行役員の齊藤直子さん

同性の先輩が前を走っている心強さ

齊藤さんのキャリアの出発点は一般職入社だった。男女雇用機会均等法成立前の1984年当時、女性は四大卒よりも短大卒が就職の売れっ子だった時代。比較的、従業員の女性比率が高いからという理由で金融業界への就職を決めた。

最初に配属されたのは池袋支店。同期入社の女性たちは全員、寿退社した。自身も結婚した20代半ばに、「1年くらい働いたら私も辞めるのかな」と考えていたが、気づけば今に至るという。

98年には、エリア総合職(転居を伴う異動のない総合職)へ転換。2005年、42歳の時に同社の女性3人目となる支店長に抜擢された。当時の鈴木茂晴社長(現会長)が女性活躍推進を強く進める中の人事だった。

「副社長に呼ばれて、『君を次期支店長にという話が上がっている』と言われた時は、ただ驚きました。でも、考えたところでお断りする理由もないかと思い、お受けしました。いま思えば、その席についてからが、すべての始まりでした」

齊藤さんが支店の現場でマネジャーとして行ってきた数々の工夫については、あらためて詳しく書こう。何にせよ、齊藤さんが管理職として周囲が認める結果を出し、何より本人のモチベーションの灯を絶やさなかったからこそ、現職の役員というポジションに就いていることは明白である。

では、齊藤さんをここまで押し上げた最大の要因は何だったのか。

突き詰めると、それは「孤独を感じなかったこと」であるようだ。

「仕事の成果に男女は関係ないとはいえ、同性の先輩が前を走っているかどうかというのは、本人が自信をもってその道を挑めるかという点で非常に重要なファクターです。前に誰も走っていない道を走るのは、誰だって不安なはず」

ファーストランナーが不安を感じないために、周囲が十分にサポートすることが、ゴールまで走り切れるかの成否を決めるのだという。

「私はとても恵まれていました。支店長になった時も、役員になった時も、右も左も上も下もわからない状態でしたが、そんな私でも一歩を踏み出しやすいように、前職の担当者や上司が、お客様や関係者に『齊藤はこういう人間です。よろしくお願いします』と地ならしをしてくださっていました。相手にとっても女性の支店長や役員は初めてですから馴染むまで時間がかかるのは当然なのですが、信頼関係を築くための最初の一歩のサポートをしてくださったことで、スムーズに居場所がつくれた。とてもありがたかったです」

齊藤さんが必要以上に気負いを感じなかったのは、昇進のタイミングでいつも上司から「自分が思うようにやってみればいい」と背中を押されたことだという。業務上の指導は受けるものの、「管理職とはこうあらねば」というプレッシャーを上から与えられることなく、思い切り自分なりの工夫を試せたという。

女性管理職は一人では育たない。周りが一緒に育てる配慮が必要なのだと齊藤さんは自らの体験で実感している。もちろん、問題が起きた時にもまめに報告・相談するなど、自分から積極的に周りを巻き込む意識も欠かせない。

女性役員“複数人抜擢”の効果

齊藤さんにとっていつも心強い存在だったのは、「女性の仲間」がいたことだった。5年前の役員就任の時にも、1人ではなく4人。管轄する担当は違えど、“同じ立場の女性が何人もいる”というのがよかった。

「役員として会議に出席して驚いたのは、男性たちは当たり前のように事前にミーティングをして会議に臨んでいるということ。当初、そういった事前の準備をしておくと物事がスムーズに進むとは知らなかったので、『あれ?! 私だけ…』と恥をかいたり、戸惑ったりすることばかりでした。そんな時には、女性役員仲間に電話をかけて悩みを聞いてもらったり、支店長以上の女性管理職を集めた食事会を開催して、『Aさんには、こんなふうに話をするといいらしいわよ』と情報交換をしあったりして、乗り切ってきました」

女同士の情報共有の力は強い。男性にとってはごく当たり前の常識が、女性にとっては大きな壁になることがある。この壁を突破するのが、女性同士のネットワークなのだ。

支店長以上の女性管理職を集めた会を実施

同社の場合、女性のネットワーク強化を意識的な戦略で行っている。齊藤さんが話す役員人事の実績のほか、数年前には、法人向けの営業担当の3分の1に同時に女性を配置した。人事部ワーク・ライフ・バランス推進課長の谷本雅宣さんは説明する。

「女性を象徴的に一人だけ配置してもなかなかうまくいかないことが多いです。一人だけ抜擢された女性はプレッシャーを感じて能力を発揮しづらくなり、また、周囲も過剰に意識を向けてしまいます。本来は男性にも女性にもいろいろな仕事の仕方や能力差があるのに、たった一人の女性の働きぶりを見て『女性はこうだ』と決めつけることが問題です。ある程度の人数をまとめて女性を配置することで、『男女に仕事の能力差はない』ということがわかりやすくなるのです。また、成果を出す女性の具体例も複数出れば、後も続きやすくなります。そして、同じ立場の女性同士が悩みを共有しながら、お互い刺激し合って仕事に取り組めることも大きな効果だと思います」

今年10月からは、管理職手前の女性社員を対象にした研修も実施。長期的なキャリアプランを考えるワークや、仕事とライフイベントを両立できる社内制度のレクチャーなどを行っており、同世代の女性同士のネットワーキングも目的の一つになっている。

「女性はエリア総合職を選択している割合も多く、同じ支店に長く在籍している社員も少なくなりません。結果、男性と比べて、仕事の相談をできる他部署の知り合いが多くない女性社員もあるため、ネットワークの促進は重要と考えています」

齊藤さんが就いた頃は3人だった女性の支店長は、いまや18人にまで増えた。

「後身の女性たちの仲間づくりの機会になればと、女性の支店長を誘ってゴルフに行くこともあるんです。そうやって女性が女性を引き上げていく新たな文化をつくっていくのも、私の役目だと思っています」

※本連載は毎週水曜日に掲載します。