2022/7/29

【世界を獲る】数多の投資家が熱視線を注ぐ、“新風スタートアップ”の正体

NewsPicks Brand Design Editor
 それは、スタートアップシーンに新たな潮流を感じさせる出来事だった。
 場所は、今年6月に開催された独立系ベンチャーキャピタル・B Dash Ventures主催の招待制カンファレンス「B Dash Camp 2022 Summer in Sapporo」
 新進気鋭のスタートアップが競い合うピッチコンテスト「Pitch Arena」にて、AI作曲サービスを展開する「SOUNDRAW(サウンドロー)」が栄冠に輝いた。
 歴史ある同ピッチの過去優勝企業は、労務管理SaaS「Smart HR」や国際物流クラウド「Shippio」、SaaS 間連携を自動化する「Anyflow」など。
 近年、業界特有の課題解決やバックオフィス業務の効率化を掲げる企業が大多数を占めていたなかで、toCサービスかつコンテンツ領域で事業を展開するSOUNDRAWの優勝はまさに“新しい風”だった。
B Dash Venturesの渡辺洋行代表も、「今まで圧倒的に多かったSaaS型企業が、予選の時点から少なかった。スタートアップ業界に変革のタイミングが来ていると感じる」とコメントしている。
 SOUNDRAWは、雰囲気・ジャンル・長さ・テンポの4項目を選択するだけで、著作権フリーのBGMを自動生成できるサービスだ。
 動画制作の際の「BGM探し」を効率化できると話題を呼び、動画クリエイターを中心にローンチから1年でユーザ数は急拡大。
 有料ユーザー数は現在約1,400人で、うち3割が海外在住なのも特徴だ。
 今、SOUNDRAWが投資家から注目される理由は、大きく3点。
① 動画市場やクリエイターエコノミーの拡大を背景とした「市場成長性」
② 音楽、コンテンツ領域ならではの「グローバル展開のポテンシャル」
③ AI作曲なので原価がほぼかからず、粗利率84%の「高収益モデル」
 こうした理由から、冒頭で紹介したピッチでの優勝を筆頭に、大手VCや個人投資家からも熱い視線が注がれている。
 シードラウンドでリード投資家となったベンチャーキャピタル・ANOBAKA(旧KVP)も、出資の決め手を「動画制作の現場の課題を本質的に捉えたサービスであり、グローバルで通用するプロダクトに発展する可能性を感じたため」と話す。
 スタートアップシーンの期待を背負うSOUNDRAWは、今、どんな事業展開のロードマップを描いているのか。
 今回のGrowth Storyでは、同社代表の楠太吾氏のインタビューを、熱量そのままにお届けする。
INDEX
  • 一瞬で音楽が作れる「魔法のツール」
  • 強みは「楽曲クオリティ」と「カスタマイズ性」
  • 音楽に「国境の壁」はない
  • 目標は「5年後に売上100億」

一瞬で音楽が作れる「魔法のツール」

── まずは「Pitch Arena」の優勝、おめでとうございます。
楠 ありがとうございます。もちろん、プロダクトには自信を持っていましたが、優勝企業として名前を呼ばれたときは、驚きましたね。
「えっ、ほんまに?!」と(笑)。
大阪府出身。学生時代に、大学生ダンスコンテストで全国優勝を2度成し遂げる。立命館大学大学院理工学研究科卒業後、大手メーカーに就職。その後Dmet Holdings株式会社に転職して、同社内にてIoT系スタートアップ部門を立ち上げ、Dmet Products株式会社として分社化。ウェアラブル楽器ガジェット「SoundMoovz」を開発。発案からわずか1年半足らずで、世界17カ国で販売し、累計40万台を出荷した。 2つ目のプロダクトとして、SOUNDRAW株式会社を設立し、AI作曲サービスを開発。世界中のコンテンツクリエイターに愛用されるサービスを目指し、日々開発に取り組む。サービスのデザイン全般を担当するとともに、デジタルマーケティングを主体とした販路開拓を担う。
 今振り返ると、「めちゃくちゃわかりやすかった」のが“勝因”やと思います。
 明確なユーザーペインがあって、そこにド直球なソリューションを当てている。
 それが、審査員の方々に伝わったのかな、と。
 審査員だったクラウドワークス社長の吉田(浩一郎)さんに、「動画時代の課題を捉えた、非常にクリティカルなサービスだ」と、興味を持っていただけたのもうれしかった。
──改めて、サービスについて教えてください。
 SOUNDRAWは、映像クリエイターが、簡単に音楽を作れるAI作曲サービスです。
 一度でも動画を作った経験のある方ならわかると思いますが、動画用のBGMを探すのってほんまに大変なんです。
 BGMのライブラリーから曲を探してくるのが基本ですが、一つひとつ再生してみないと雰囲気がわからない。
 しかも、雰囲気のあう曲が見つかっても、今度は長さが中途半端だったり、曲の盛り上がる位置が動画とマッチしていなかったり……。
 結局、BGM探しに数時間、数日かかることもザラで、映像クリエイターたちは頭を悩ませています。
iStock:okugawa
 これに対し、「なら、動画にあうBGMを作ったらええやん」という発想で作ったのが、SOUNDRAWです。
 操作はいたってシンプル。雰囲気・ジャンル・長さ・テンポの4項目を選ぶと、著作権フリーのBGMがほんの数秒で生成されます。
 できあがった曲を聞いて、さらに好みの楽器を足したり、動画の内容にあわせて曲が盛り上がるポイントを指定したり、とアレンジもできる。
 著作権フリーなので、できた曲をあわせた動画をYouTubeやSNSにアップロードする、広告などで商用利用するなど、ユーザーが自由に使えます。
──1曲作るごとに、お金がかかるのですか?
 いえ、サブスクリプションモデルなので、定額でいくらでも曲を作れます。
 基本の月間プランは月1,990円で、年間契約の年間プランは月1,650円。
 一般的なBGMライブラリーだと、1曲3,000から6,000円ほどすることもあるので、動画をたくさん制作する人にとっては、お得な値段設定だと思います。
 ありがたいことに、現在のサービス利用ユーザーは1,400名ほど。
 そのうち、約36%が海外在住なのも特徴です。
 日本では広告経由と口コミ経由の登録が半々程度ですが、海外は完全オーガニック
 なんらかのきっかけで自然とSOUNDRAWを見つけ、登録してくれています。
グローバル展開は視野に入れていましたが、「まさかこんなにすぐに海外の方に多く使ってもらえるとは!」と、僕たちにとってもうれしいサプライズでしたね。
 これまで、動画制作は「曲にあわせて映像を選ぶ」のが当たり前でした。ですが、これからは「映像にあわせて曲を作れる」ようになる。
 これって、映像クリエイターからするとかなりパラダイムシフトです。
 音楽は「選ぶ」から「作る」へ──。
 SOUNDRAWは、そんな価値観を国境を超えて広げられるサービスだと確信しています。

強みは「楽曲クオリティ」と「カスタマイズ性」

──AI作曲サービス自体は市場にもいくつかありますが、御社ならではの特徴はありますか。
 おっしゃる通り、AI作曲サービス自体はすでに国内外にたくさんあります。
 その上で、僕らの特徴は2つ。
①楽曲自体のクオリティが高くて②ユーザーが自由に曲をカスタマイズできること。
 この2つを兼ね備えているサービスは、世界を見回しても、極めて少ない。
 背景の1つに、「AI作曲そのものの難しさ」があります。
 自然言語処理や画像処理と違って、楽曲は評価がとても難しい。
 というのも、「この言葉が間違っているかどうか」や「この画像は犬か猫か」といったお題と違い、楽曲で大切なのは「この曲のフレーズが良いか悪いか」。
 これをAIに判断させるのは、至難の業です。
iStock:Peach_iStock
──そうした困難を、どう乗り越えたのですか?
 一番は、「作曲家とエンジニアの密な連携」です。
 当社の創業メンバーは、サービスのUIUXを担当する僕のほかに2名の作曲家とCTOであるエンジニアの計4名。
 開発初期から、メンバーのなかでも、特に作曲家とエンジニアで「良いフレーズとは何か」「心地いい曲は何が違うのか」について議論を尽くしました。
 何パターンも「良いフレーズ」を作ってはAIに学習させる、という作業を繰り返し、どんどん楽曲の精度を高めていったんです。
 この連携がなかったら、絶対にこのクオリティには到達できなかったと思います。
「先日、映像クリエイターにテストで『人の作った曲』と『SOUNDRAWで作った曲』を評価してもらったら、なんと同点やったんですよ!」と、楠氏。
──他に、こだわったポイントはありますか?
 先ほどお話しした、「曲のカスタマイズのしやすさ」には、かなりこだわりました。
 繰り返しになりますが、僕たちのターゲットは「映像クリエイター」と非常にピンポイント。
 だからこそ、彼らが動画を作るときに、どんな機能があったらうれしいかを、とことん追求しました。
 具体的には、100名以上の動画クリエイターにインタビューを繰り返し、曲を選ぶ際にはどんなポイントにこだわるのか、どういうカスタマイズができると便利なのかなどを、一つひとつ精査して、UIUXや楽曲そのものに落とし込んだ。
AI作曲サービスには、「いい音楽をAIで作ること」が目的になっていて、結局「誰のどういう課題を解決するのか」がわからなくなっているものも少なくありません。
 反対に、僕らはターゲットも、ペインも明確です。
 だからこそ、プラクティカルに商品のエッジを磨きながら、SOUNDRAWならではのポジションを作れているんだと思います。

音楽に「国境の壁」はない

──そもそも、なぜ楠さんはAI作曲に興味を持ったのですか?
 直接的なきっかけは、2018年にニューヨークで開かれた展示会で、たまたま現地の起業家のAI作曲サービスに触れたことです。
 ただ当時は、まだAI作曲の黎明期。正直、できあがった楽曲はかなり機械的な感じで、あまりナチュラルじゃなかったんですね。
 それこそ、赤ちゃんがでたらめに鍵盤を叩いているような感じで、普通に聞くにはかなり違和感があった。
 で、そのとき、「今、AI作曲に本気で取り組めば、勝てるんちゃうか?」と。
 普通であれば、ここでAI作曲の限界を感じると思うんですが、僕たちは結構ポジティブなほうでして(笑)。
 逆に、まだまだ成長の余地があるからやってみよう、と思い立ったんです。
──それで、サービス開発に取り組まれた。
 実は、僕とCTOの竹前にとって、SOUNDRAWは2回目の音楽プロダクトの挑戦なんです。
 前職時代、僕たちは新規事業として、「Sound Moovz(サウンドムーブズ)」という、踊りにあわせて音楽を奏でられるウェアラブルガジェットを開発していました。
 これが、結構売れたんですよ。
 僕が学生時代からダンスをしていて、音楽も大好きだったので、両方を一緒に楽しめるプロダクトを作れないか?と考えたのが発端ですが、結果大ウケで。
 海外で開かれるトイマーケット(おもちゃの展示会)にプロトタイプを持っていたところ、その場で5万台ほしい、10万台ほしい、とみるみる注文が入ったんです。
 最終的に、世界17カ国に累計40万台出荷し、たった数カ月で何億円も売り上げるビジネスになりました。僕、テレビCMで全米に放映されたこともあります。
楠氏も出演した、「Sound Moovz」のテレビCM
 ただ、ホームランを打ってうれしかったのもつかの間。
 実は、トイ業界って商品寿命がすごく短いんです。一時のモメンタムはすさまじいんですが、“一発屋”で終わらず、長く売れ続けるのは相当難しい。
 コア技術を持って、ちゃんと売れるビジネスモデルを作る大切さを痛感しました。
 それで、AI作曲であれば、じっくり腰を据えて、日本初のプロダクトでもう一度海外に挑戦できると考えたんです。
 そこからは2年ほど、ひたすらコツコツと作曲家とCTOとプロダクト開発に取り組みました。
 そして、2020年にSOUNDRAWをローンチ。今は、資金調達なども進め、この2年で一気に事業にドライブをかけています。

目標は「5年後に売上100億」

──AI作曲というと、動画以外にもさまざまな市場でニーズがありそうです。今後のビジネス展開をどう考えていますか。
 まさに、動画以外にもポッドキャストや、ライブ配信、ゲームやアプリ、店舗で流れるBGMなど、利用シーンはいろいろ考えられます。
 実際、すでにポッドキャストで活用してくださっているユーザーもいます。
 また、音楽市場への展開も視野に入れています。
 たとえば、歌手やラッパーなどアーティストへの楽曲提供。
 AI作曲を使えば、アーティスト自身がオリジナルのトラックを簡単に作り、そのままストリーミングプラットフォームに配信することができます。
 先日、試しにプロの歌手にSOUNDRAWの音源に乗せて歌っていただいたのですが、手前味噌ながら、めちゃくちゃいい歌でした。
 さまざまな可能性はあるものの、直近は動画市場から攻めたいと考えています。
 動画需要の伸びやクリエイターエコノミーの拡大もあって、世界の映像クリエイターの総人口は、すでに2,000万〜3,000万人いると言われており、今後クリエイター人口はさらに伸びていくと予想されています。
 そこでまずは、全世界の映像クリエイターに、SOUNDRAWを届けていきたい。
 直感的に操作できるUIにしているため、海外に展開する際も、FAQや利用条件の翻訳さえすれば、そのままプロダクトを輸出できます。
 この 「ローカライズ不要」という点も、僕たちの強みです。
 ここから、一気に海外へのマーケティングも強化し、事業をドライブさせていきます。
 直近の数値目標は、「5年後に有料ユーザー50万人、売り上げ100億円達成」
 既存のBGMライブラリーの利用者数と市場の伸びを考えると、現実的な数字だと思っています。
 ちなみに、AI作曲なので原価がほとんどかからず、利益率が高いのも僕たちの特徴です。
粗利率は84%で、ほとんどが利益になるので、プロダクトにしっかり投資できる。
売り上げだけでなく、利益も着実に追っていきます。
──ビジネスを拡大させる上で、感じている課題はありますか?
 スタートアップあるあるやと思いますが、事業を大きくするための仲間がまだまだ足りません。
 特に、マーケターとエンジニア。日本発のプロダクトで、スピード感を持ってグローバルに挑戦したい方がいれば、ぜひ仲間になっていただきたい。
 今いるメンバーも、かなり国際色豊かです。
 昨年入ったCOOはスペイン出身ですし、直近入社予定のエンジニアはイギリス出身。
 今は北米市場を攻めていくためにアメリカ在住のアメリカ人マーケター2名にジョインしてもらいました。
 みんな、「世界に通用するプロダクト作りにチャレンジしてみたい」と意気込んでジョインしてくれています。
スペイン出身のCOOタオ氏(左)。楠氏とともに、事業企画から採用、広報、カスタマーサポートまで幅広く担当している。
 直近の日本のスタートアップシーンは、「業務を効率化し、いかに生産性を上げられるか」に注目が集まっていた印象です。
 それももちろん大切ですが、今後は「日本から世界を狙える産業を増やせるか」も、重要な指標になると思います。
 そして、僕たちはまさにこの領域を狙っていきたい。ファーストペンギンになって、日本発のプロダクトでグローバルトップ企業までのし上がりたいという気持ちが、強くあります。
 立ち止まっている暇はありません。
 サービスを使ってくれるユーザーさんに全力で向き合いながら、最速で世界を獲りにいきますよ。
※本記事は「B Dash Camp」協賛商品として、NewsPicks Brand Designが「Pitch Arena」優勝企業へ無償提供したものとなります。