【RS】当事者不在バナー

高過ぎる委員会メンバーへの謝金、不明瞭な報告

信用出来ないと遺族は、県と市を訴えた

2014/12/9
私たちの生きている社会はいま、圧倒的に弱い立場にある当事者たちの痛みや思いを感じとり、きちんと耳を傾け、丁寧に寄り添えているのだろうか。立場ある者が、目先の営利や名誉、効率性ばかりを優先していないか。これから記そうと思っていることは、長く当事者たちに接してきたジャーナリストとしての自分自身への問いかけでもある。
前回の連載に引き続き、学校管理下にあった児童74人、教職員10人が東日本大震災の津波で犠牲になった宮城県石巻市立大川小学校の惨事はなぜ起きてしまったのか? そしてなぜ、その後の検証が適切に行われなかったのかについてリポートしていく。

「文科省が主導した検証委員会は、時間とお金を浪費しただけで、結局、失敗に終わりました」

これが、1年以上の時間と5700万円の予算をかけた、石巻市立大川小学校事故の検証委員会の最終報告に対する、児童の遺族の評価だ。

「限界があった」「十分ではなかった」

東日本大震災の大津波で、児童74人、教職員10人が死亡・行方不明となった宮城県石巻市の大川小学校。なぜ学校管理下で大川小だけが突出した犠牲者を出したのか。

遺族たちが求めていたのは、「なぜ50分近くも校庭に留まったのか?」と、「なぜ遠回りのルートを通って、しかも、しかも川に向かったのか?」という2点を徹底的に検証してくれることにあった。

ところが、検証委員会が検証最終報告で要因に挙げたのは、「(学校側の)避難開始の意思決定が遅かった」ことと「避難先を河川堤防付近にした」からというものだった。何のことはない。なぜに対する答えは、そういう行動をとったからという、最初からわかりきっている問いの部分に立ち返っただけだった。

遺族は公式の場で、責任追及をしてほしいと言ったことはない。ただ、責任の所在を明確にしてほしいと言っていただけだ。文科省側も当初、検証委員会の発足に当たって、「責任の所在が明確になることは厭わない」と遺族に約束していた。

ところが、今年2月にまとめられた検証報告書に、室崎益輝委員長は「限界があった」「十分ではなかった」と釈明。その後も、「免責などがあれば…」と、言い訳している。

最後の望みを司法に託した遺族

そんな「検証」報告が石巻市長に手渡された10日後の3月10日、犠牲になった74人の子どものうちの23人の遺族が、意を決したように真実を求め、県と市を相手に裁判を起こした。司法に、最後の望みを託したのだ。

すると驚いたことに、被告の石巻市は、責任を否定する答弁書の根拠に、この検証報告書の記載をことごとく引用してきたのである。

検証委員会は、5700万円の予算をほぼ満額使い切っていた。はたして、コストをかけた分に見合った内容だったのかどうか。その使途に疑問を抱いた遺族は、検証事業の報告を情報開示請求した。

それによると、社会安全研究所が文科省に提出した業務実績報告書には、委員会の会合とは別に、電子メールなどの活用により、収集した情報の内容精査、聴き取り結果の確認などを随時行ったとしている。しかし、メールのやりとりの中で、どのような議論を得て結論が記述されたのかのプロセスが、遺族に開示されることはなかった。

また、遺族、地域住民、その他の協力により、グループインタビュー形式も含め、計108回、延べ人数196人に対して、聴き取り調査を行ったとあるものの、検証報告の記述の基になった聴き取り内容についても、ついに明かされることはなかった。

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石巻市の亀山市長に検証報告書を手渡す室崎委員長。3月1日、石巻市役所で

委員の謝金は1日4万3500円

業務経費の総括表を見ると、「直接人件費」A:1307万0200円、「直接経費」B:2630万6695円、「間接原価」C:703万7800円、「一般管理費」1631万9406円。

直接人件費の明細書によれば、技師長850万円余り、技術員357万円など――となっている。突出して多い技師長の人件費単価は、1日あたり5万円余りだ。

委員の謝金は、1日4万3500円、調査委員は3万6000円だった。やや高額な相場だ。

次に、「直接経費」は、委員会開催費、作業チーム会合費、作業チームヒアリング・作業等実施費、事務局出張経費、報告書印刷費とあり、「調査委員作業費」は545万円余りとなっている。

返還された謝金はどこに消えた?

しかし、本当に事業者としてのコストが発生しているのかどうか、この明細からはわからない。

また、「一般管理費」は、直接的な経費ではなく、内訳がない。直接事業に関係はないが、事業の維持にかかわるものも経費として委託費に乗せられるものだ。

そして、経費の考え方に関する補足説明があり、委員・調査委員の謝金については、「弊社内規に基づき支給している」という。こうした「内規に基づく支給」に、市民は納得できているのだろうか。

さらに、検証委員会の委員の1人は、この謝金を辞退していたことも、情報開示で明らかになった。しかし、辞退した理由や返還された謝金がどこに行ったのかについては記されていない。

社会安全研究所は、検証報告の「中間とりまとめ」提出直前の2013年7月、市教委に検証事業費の増額を申し出て、業務委託変更契約を結んだ。この追加予算によって、大川小の検証は当初の2000万円から5700万円に膨らんだ。

当時の社会安全研究所から石巻市長宛ての協議書によると、増額を伴う契約変更の理由について、

【委員会として、報告書(案)に対する学識経験者からの意見を聴取するため、委員会開催回数を七回から八回に増やし、うち一回を有識者からの公開ヒアリングとする】

【委員会における検証をご遺族の心情に配慮したものとするため、ご遺族からの意見聴取(聴き取り、アンケート調査等を含む)を行う】

【委員会として、公正中立な検証とするため、報告書(案)について事故関係者からの意見を聴取する】

などと説明した。

しかし、公開ヒアリングは、第1回検証委員会の段階からすでにスケジュールに記載されていた。遺族からの意見聴取や事故関係者からの報告案の意見聴取についても、当初から予定されているべきことだ。これらが追加予算の段階になって改めて登場してくること自体がおかしい。つまり、設置当初、あるいは検証の早い段階から、予算の追加は織り込み済みだったのではないか。

当時、社会安全研究所の首藤所長に、追加予算について尋ねると、「ご遺族からの意見聴取が、これほどの回数になるとは思わなかったので…」と答えた。

委員会としては、遺族から度々個別に意見聴取を行い、遺族の声を集めようと努力していたのだろう。しかし、意見交換会のような遺族参画型の意見聴取の方法を、早い段階で一部にでも取り入れていれば、追加経費の多くは必要にならなかっただろう。決して後知恵ではなく、設置当初から遺族側から提案のあったことだ。

ちなみに、室﨑委員長はこのとき記者会見で増額の理由を聞かれ、追加予算の内訳を知らなかった。いったい誰が、この検証を主体的に動かしていたのか。

すべてが、当事者の意思を外した不透明な仕組みの中で進められていく。このような「第三者」の検証委員会の設計の下では、遺族たちが求めている「親の知る権利」が行使される余地はないに等しい。

およそ半年後の8月26日、遺族たちは仙台地裁で開かれた第2回弁論で、市側が根拠として引用する検証報告書の記述を「信用できない」として、この検証報告の認定の前提となる資料の提出を求めた。

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※本連載は毎週火曜日に掲載します。