東南アジア実況中継_141208

日本企業未参入のスキに「手荷物ビジネス」が大人気

ベトナム:「Made in Japan」人気の光と影

2014/12/8
遠く離れたベトナムで、日本語も読めないのに、日本からの製品が大人気。そのビジネスチャンスに目をつけて日本から製品を持ち込んで売りさばくちゃっかり者まで出現し、ブームはますます高まるばかり……。
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日本イメージを強調するレストラン

日本製品、持ち込みと買い込み大ブーム

ベトナムは非常に親日であるとよく言われる。各国の親日度を調べるアンケート調査などでもその傾向は示されている(一例はこちらの「アジア 10 カ国の親日度調査」など)。

実は第二次世界大戦中は日本もベトナムを占領していたことがあり、ベトナムの歴史教科書で「ファシスト日本」と評されているし、本来は歴史的因縁があってもおかしくない土地だ。そこから日本のイメージを良くしていった要素の一つに「Made in Japan」がある。よく言われる、「バイクといえばホンダ」などが良い例だ。

ただ、その日本製品を巡る現状にも最近は大きな変化がみられる。これまではベトナムに日本人が持ってくる日本製品をベトナムの消費者が受け入れていたのに対し、経済力が付いてきたベトナム経済は自らが日本製品を日本から持ってくる、日本から買いつけてくるようになったのだ。そんなトレンドには日本経済に対する光と、一方で幾ばくかの闇の部分も見え隠れする。

日本製品の売れ筋商品リストは電化製品、衣料品、食品などこれでもかというほどあるのだが、特に最近人気なのは、近年のベトナム人の健康・美容志向を反映しての化粧品や薬、各種サプリ。電化製品などに比べて「Made in China」が少なく、日本においても「Made in Japan」が探しやすいことで、お土産などで買って行く人は多い。

ベトナム人と一緒に日本に行き、ドラッグストアに入ったら最後、しばらく出てこない。1時間後に数万円~10万円くらい分の商品を手に満足気な顔をして現れるということなど珍しくない。

この手の話題では中国人観光客が話題になることが多いが、日本に行くようなベトナム人富裕層も負けず劣らずの買いっぷりだ。女性にはコラーゲンなどの美容サプリや粉ミルクをはじめとしたベビー用品、男性は肝臓に良さそうな酒酔い防止系と(あまり大きな声では言えないが)精力剤などもかなりの人気だ。

そんな日本製品愛好家にどこで出会うかわからない。ある日ベトナムの大手銀行で手続きをしていると、窓口の女性から「ちょっと日本語がわからないので教えてくれないか?」と質問があった。

ベトナム語にはそれなりに自信あるけど、どんな難しい金融用語が出てくるか身構えていると、出てきたのはコラーゲン錠剤の服用方法! それを「1日6錠ね」なんて訳してあげていると、今度は隣の女性窓口担当がゲルマニウム温浴器とやらの説明書を持ってきて、「どうやって使うんだ?」。そうこう訳してあげていると、しまいには「今度いつ帰国するんだ? 買ってきてくれないか?」って……オイオイ、そこまで面倒見切れんよ!

よく聞くと、それらは必ずしも彼女らが日本に行って買ってきたものではない。日本に観光(あるいは観光目的の出張?)に行った人からもらったものや、そういう人たちからまわり回ってきたという。とにかく、「Made in Japan」と書いてあるものが大量に日本で買われており、それが時には使用法も良くわからないまま広く流通しているのがよく分かる。

親日的である国民性とあいまってこれはとても喜ばしいことで、日本の今後のビジネスチャンスでもある。筆者は常々、日本に「Made in Japan特区」を作って日本に来る観光客に向けて良い商品を供給すればと思っているほどだ。

個人輸入品大人気の陰で

だが、これら製品がきちんと輸入されてくれば良いのだが、このMade in Japan大好き心理を利用した様々な裏ビジネスの問題が表に出たのも今年であった。

春先に日本で、続いてベトナムでも、ベトナム航空関係者による盗品密輸事件が大きく報道された。これまでもほぼ公然の秘密のように行われていた、「航空乗務員たちの手荷物」内輸入だ。成田空港などでもリストを見ながら「これとこれを下さい」と、いかにも誰かに頼まれたと言わんばかりに化粧品を大量に買う、ベトナム航空の乗務員をよく見かけた。

まあこれくらいなら個人用やお土産用の可能性もあるので問題は無いのだが、盗品を運んでいたとしてさすがに日本の警視庁が動いた。その後ベトナム国内でも報道されて大騒ぎとなった。

ちなみにそんなスキャンダルも乗り越え(?)、国営企業であるベトナム航空は今年11月に晴れて株式上場に成功。しかし、同航空株を購入する外国人投資家はほとんどいなかった。この盗品密輸とは直接の関係はないが、このような事態が明らかに出たばかりの会社の株式を喜んで買う外国投資家はいないという事実は、ベトナムにとっても良い教訓となったはずだ。

ベトナムの商魂が勝つか、日本側の参入勝ちか?

そしてもう一つはベトナム人によるユニクロ製品大量窃盗事件。これはベトナムではあまり報道されておらず、むしろ日本での報道の方が目立った。転売目当てにされていることは明らかで、どうりでハノイでも安い値段のユニクロ製品を見かけるわけである。真っ当に衣料品を売っているベトナム人に言わせれば、「一番のライバルは窃盗品」と言うほど競争力のある価格で、かなりの数が市場に入ってきているようだ。

日本製品に限らず、様々な形で旅客の手荷物として「輸入」される「Hàng Xách Tay」(手荷物商品)と呼ばれる製品は、立派な店構えのセレクトショップからネット販売まで、そこら中に溢れ返っている。だが、その中にこのような盗品が多く混じっているとしたら、単にMade in Japanブームとして喜べないところである。

ブランドイメージも生き物。しばらくは続きそうなMade in Japan信仰だが、常にあるという保証はない。日本企業も生産現場としてのみではなく、消費市場としてのベトナムを注目し始めている。その中で、(盗品云々は論外としても)商魂たくましいベトナム人の「手荷物ビジネス」が利益を得るか、日本企業自身が現地に乗り込む市場参入が勝つのか。ジャパニーズ・ブランドを巡る陣取り合戦が激しくなってきそうだ。

※本連載は毎週月曜日に掲載する予定です。

(写真提供:いまじゅん)