グローバルタレントに会いに行く

GEも採用する「ナイン・ブロック」とは?

オラクル流マトリックス式トップタレント選抜法

2014/12/8
全4回に渡り、日本オラクルのグローバルタレントがどんな人物なのか、また彼らが受ける特別研修とはどのような内容なのかについてリポートした。
第1回:オラクルが注力する「トップタレント」の育成
第2回:オラクルのタレントが実行した「損して得取れ」戦略
第3回:オラクルのトップタレントが涙した「大失敗」
第4回:オラクルのエースが受けた「トップタレント研修」
今回は、執行役員人事本部長の遠藤有紀子氏と人材・組織開発部シニアディレクター赤津恵美子氏に、オラクルの「トップタレントの選び方」や育成戦略の全容について、より詳しく聞いた。
左が執行役員人事本部長の遠藤有紀子氏、右が人材・組織開発部シニアディレクター赤津恵美子氏

執行役員人事本部長の遠藤有紀子氏(左)、人材・組織開発部シニアディレクター赤津恵美子氏(右)

そもそも、日本オラクルがグローバルタレントの育成など、人事のグローバル化を急ぐ理由とは何なのか?

「顧客のビジネスがグローバル化したことで、我々のビジネスや人材もグローバル化になる必要があった。本社や海外拠点が持つ情報をちゃんと取りにいかないと、顧客の期待に応えることは出来なくなった」(赤津氏)

また、オラクルがこの10年の間にサンマイクロシステムズなどの企業を次々に買収。それに伴い、人材管理を一元化した影響も大きい。

「オラクルでは、全世界で12万人の社員のキャリアレベル、持てる力、長期的な育成課題、そしてその人材が退社するリスクがあるかどうかまで、計画的に管理している」(遠藤氏)

目的は、人材の特徴や課題を「見える化」すること。これにより、将来の経営人材を育成、あるいは専門性の高い人材の強みをさらに開花させる。専門用語では、こうした中・長期的な人材育成のための取り組みを「タレント・パイプライン」と呼ぶ。

実績だけではなくポテンシャルも評価

そこで気になるのが、この人材データベースを作る上でも、社員をどのように評価しているかだ。有り体にいうと、前回までご登場頂いた谷口英治氏のような「トップタレント」はなぜトップタレントに認定されたのか知りたい。

「それは、『ナイン・ブロック』という人材を位置付ける枠組みで判断しています」(赤津氏)

ナイン・ブロックは、GEが人事評価に採用したことで、グローバル企業に一気に広がった考え方だ。下図を見て欲しい。

 9Block

横軸に「パフォーマンス」、縦軸に「ポテンシャル」とある通り、ナイン・ブロックは各人の現在の業績だけではなく、将来性をも評価の対象にするのが特徴だ。

ちなみに、パフォーマンスの軸は、「Does not meet expectations」(期待値に到達していない)人が「1-2」。「Meets expectations」(期待値通り)が「3-4」。「Outstanding」(傑出した)が「5」の評価を得られる5段階評価となっている。

「日本では『3』だとあまり良くない印象かもしれませんが、オラクルの場合、かなり高い目標が設定されており、その目標を達成して『期待値通り』の評価。反対に、去年と同じことをやっていたのでは、期待通りの評価はつけられない」

では、最高評価の「5」(「Outstanding」)は、どのような“偉業”を達成した人なのか?

「営業だったら昨年の倍近い数字を達成するなど、誰から見ても素晴らしいレベル。よって、この5を得られるのは社員の1割程度しかいない」(遠藤氏)

一方のポテンシャル評価は「At」「Some」「High」の三段階で評価される。

「これは、つまりはその人の伸びしろを測る軸。今のポジションがちょうどという人は『At』。上位のポジションへ昇進可能な人が『Some』。それ以上昇進可能なレベルの人が『High』に区分けされる」(遠藤氏)

ポテンシャル軸に関しては、「アスピレーション(意思・意欲)、ケイパビリティ(能力)、そしてコミットメントが評価基準になる」(赤津氏)

「マネージャーになりたくないという人もいるが、その場合は『At』。反対に、どん欲にハードジョブを取りにいく人、ストレッチな(背伸びした)目標に挑戦し、達成しようとする人が、評価される」(赤津氏)

こうして、すべての人材が9つのブロックのいずれかに位置づけられる。

トップタレントだけではなく、ソリッドタレントも重要

もうお気づきだろうか。「トップタレント」とは、表の右上に君臨する、パフォーマンス軸、ポテンシャル軸共に最高評価を勝ち得た人たちだ。

ちなみに、オラクルでは全社員をタレントとして捉えるため、すべての人材が9つのブロック内にカテゴライズされる。そして、9つのブロック全て名称が付いている(詳細は非公開)。

たとえば、「ソリッド・タレント」。つまりは「現在の役割で堅実に貢献するタレント」(赤津氏)のことだ。また、残念ながら今は業績が出せていないタレントも存在する。

「それは、本人の責任ではなく、会社の配置や上司との相性が悪いからかもしれない。実際、職務や上司が変わってトップタレントに飛躍した人もいます。逆を言えば、ナイン・ブロックはそうしたミスマッチを発見し、適材適所を実現するための道具として活用しているのです」(赤津氏)

日本人タレントのニーズがインド、中国拠点で高まる

会社にとって人材育成は「投資」である。よって、「会社がより多くのお金を投じて投資するのはナイン・ブロックの右上のほう」(遠藤氏)であることは言うまでもない。

では、オラクルはどのようにトップタレントを育成しているのか?

オラクルでは、一口にトップタレントといってもざっくり4つの階層に分けて育成する。その4つとは、アソシエイト層、ジュニアのマネージャー層、マネージャー層、エグゼクティブ層の4階層。

そして、ことトップタレントに限っては、アソシエイト層、つまりは役職につく前から早期に研修を行っている。優秀な人材を早期に育成することで、長期的に経営人材を育成する狙いからだ。

もちろん、ジュニアのマネージャー層、マネージャー層の研修も「グローバルで標準のプログラム」が用意されるが、わけてもオラクルが力を入れるのが、前回までご登場頂いた谷口氏も参加したエグゼクティブ層のトップタレントが集結する「AEI」というプログラムだ。

その内容とはズバリ、「3年から5年後には事業部のリーダー、役員相当になれる可能性があるタレントを対象とした研修」(遠藤氏)。実際、前回までご登場頂いた谷口氏は「AEI」修了直後の12月1日付けで、アライアンス事業統括 営業本部長から執行役員アライアンス事業統括 副統括に昇進している。

さて、その「AEI」研修だが、改めてその内容とはどのようなものなのか?

「米国の大学と欧州のトップビジネススクールと提携し、年3回、1回あたり45人のトップタレント(1年で合計135人)が経営戦略や真のリーダーシップについて、座学と討論、グループワークで鍛えていく」(遠藤氏)

8カ月におよび、うち各1週間ずつ、米国の大学やビジネススクールでみっちり講義受け、討論を行う。その後、タレントたちはそれぞれが所属する各拠点に戻り、引き続きチーム内で電話会議などを駆使しながら、オラクルの経営課題を深掘りし、解決策を提案。最後に、経営陣やビジネススクールの教授陣に向けてソリューションを発表する。

「その解決策も、ただの模擬的な課題ではなく、即実行して欲しい経営課題なので、かなり実践的な内容」(遠藤氏)だと言うから、内容の厳しさが想像出来る。

問題は「英語の壁」

世界中から集まった選りすぐりのタレント仲間とかんかんがくがくの議論を戦わせ、今そこにある経営課題を解決するーー。聞くからに、ハードな内容だが、果たして、英語を母語としない日本人に付いていける内容なのか?

「45人のチームに、日本人は1~2人は参加していますが、その数は日本の事業規模を考えれば、十分とは言えない。それは、やはり言葉の壁、そして、海外のトップタレントに太刀打ち出来る度胸の問題がないとは言えない」(赤津氏)

やはり、「英語の壁」はどうしても存在するようだ。

そのため、オラクルでは「英語に苦手意識があるエグゼクティブ層を中心に、英語のトレーニングは強化している」(遠藤氏)

裏を返せば、この英語の壁さえ突破してしまえば、日本人トップタレントは、日本拠点に留まらず世界の拠点で飛躍するチャンスはいくらでもあると言う。

「実際、オープンポジションは全世界から応募可能なため、アジアパシフィックや本社で活躍する例は結構ある」(赤津氏)

とりわけ最近では、「日本から中国やインドへオポチュニティチャンスが広がっている」(赤津氏)そうだ。「国をまたいだ大規模プロジェクトが増えている上、日本で成功した事例を、中国やインドに移植したいとのニーズも高まっている」(赤津氏)からだ。

赤津氏によると、グローバル企業において、「トップタレントはグローバルなのが当たり前」だと言う。「グローバル人材なんて言葉を使っているのは日本だけ。他国、特にヨーロッパでは、国を超えて人材が移動し、サポートし合っていて、グローバルかローカルかの区分けさえない」。

その“常識”は、何もオラクルに限らない。トップタレント(将来の経営人材)は、すべからくグローバルタレントであり、そうでなくてはいけないーー。そんな時代がとっくに来ている。

(撮影:竹井俊晴)

※本連載は毎週月曜日に掲載します。