世界で戦う和僑たち_141206

世界のリーダーが先送りする、デブリ処理

“宇宙のゴミ問題”に取り組む、気鋭の和僑

2014/12/6
こんにちは、牧浦土雅です!今まで僕の過去と思いを綴ってきた本連載。しかし、世界を舞台に戦う和僑はたくさんいます。今回からは東南アジア在住の現地ライター岡徳之さんにバトンタッチ。実際に世界で戦う和僑たちの熱い取り組みを紹介します!僕も今東南アジアで新しい事業を準備中。これからますます盛り上がる東南アジアにぜひ注目してください!

直径1センチのデブリでも、即爆発の危険

シンガポールに拠点を置く宇宙ベンチャーのアストロスケール社は、「スペース・デブリ」と呼ばれる宇宙空間で地球軌道を周回するゴミの問題解決に取り組んでいる。そもそもデブリとは何か。実は非常に厄介な問題をはらんでいる。

スペース・デブリの正体は、役目を終えたロケットや宇宙船の部品、もしくはそれらが爆発することによって発生した金属破片などの人工物体で、宇宙船や人工衛星などが周回する高度数百キロ〜数万キロの宇宙空間に存在している。

その数は未確認のものを含めば億単位にのぼると言われている。半径10センチ以上のデブリは2万2千個以上観測され、半径1〜10センチの観測不可能なデブリの数は50万以上、さらに半径1センチ以下のデブリは2013年現在で1億個以上存在すると推測されている。

そんな無数のデブリが秒速8キロ、弾丸の20倍というスピードで周回している。その威力は、たとえば小指の先ほどの直径1センチ大のデブリでも、ボーリングの玉が時速500キロで飛んでくるのと同等で、当たれば即爆発してしまう。

とはいえ、宇宙空間は広い。実際、一つの衛星が一つのデブリとすれ違っても衝突する確率は10のマイナス6乗といわれており、よっぽど運が悪くない限り事故に遭うことはないだろう。しかし、そんな不運がまさか幾度も起きてしまい、問題が顕在化した。

例えば、2009年2月に600メートルの差ですれ違うはずだったアメリカの衛星とデブリと化していたロシアの衛星が衝突し、破壊。最近では、2013年5月にエクアドル初の衛星が旧ソ連のロケットの残骸と衝突して制御不能となった。

地球軌道を周回するスペース・デブリのイメージ

地球軌道を周回するスペース・デブリのイメージ

デブリの恐ろしさはその増殖性にある。デブリ同士、もしくはデブリとそのほかの物体とが衝突すると、さらに小さなデブリを生み出してしまう。先述の2009年の事故では新たに数百以上のデブリが発生したとみられている。

はるか上空で起こっている“宇宙のゴミ問題”は、決して他人事ではない。通信や軍事から天気予報まで、我々の生活は人工衛星に依存していることは明らかだ。仮に主要な衛星がデブリとの衝突により破壊されてしまえば、直ちに世界は混乱に見舞われ、活動はストップしてしまうだろう。

科学技術の進歩を止めてしまうおそれもある。デブリによる事故は映画「ゼロ・グラビティー」でも描かれていたが、あのような惨事を未然に防ぐことはこれからの宇宙進出にあたっての課題であることは間違いない。

スペース・デブリは増殖しつつある

スペース・デブリは増殖しつつある

 

世界のリーダーが先送りする問題を民間の手で

宇宙のゴミは誰が片付けるべきだろうか。デブリと化した衛星を打ち上げた国が片付けるべきというのが正論でありアストロスケール社の岡田光信社長もそう考えている。だが、実は国際世論は真っ二つに割れている。

人工衛星を打ち上げてきたアメリカやロシアなどの宇宙先進国は、それ以外の国々も衛星による利益を享受しており、デブリの処理にかかる莫大な費用を一国だけで負担するのはフェアでなく、国際的な枠組みが必要と主張している。

この主張には一理ある。衛星がもたらす利益を享受できなくなるとすれば、その他の国も反論しづらい。こうした現実的なパワーバランスが、これまで策定されてきたデブリに関する国際的なガイドラインを形骸化させてきた。

本質的な課題は世界のリーダーたちによる問題の先送りと、それを解決するための枠組みの欠如と言わざるを得ない。こうした先に進まぬ事態を見かねて立ち上がったのが、民間企業であるアストロスケール社を設立した岡田氏である。

今の宇宙環境を保つためには、最大6メートル級の大型デブリを1年間に5個のペースで除去しなければならない。また非公式なデータではあるが、デブリ同士のすれ違いや、宇宙軌道上の施設との50メートル以内のニアミスはは1日に10回以上起こっているという。

岡田氏が開発しているのが「MOTHER」、「BOY」と呼ばれる装置である。MOTHERと呼ばれる母艦がデブリを探知し接近し、BOYと呼ばれる小型装置が表面に付着した粘着材でデブリを捕獲、噴射することでその軌道を変える。そしてデブリを大気圏に突入させ、燃やすというものだ。

BOYのサイズは人が両手で抱えられるほどの大きさだが、そのパワーは非常に強い。岡田氏の仮説では、小型衛星などの重量100キロ級のデブリなら10数時間で地表に落とすことができる。1トン級でも数日で落とすことが可能だという。

岡田氏が開発中の「MOTHER」「BOY」のイメージ

岡田氏が開発中の「MOTHER」「BOY」のイメージ

同氏は国内外の専門家と議論を重ね、完成すればBOYはロケットの一部や稼動を停止した古い衛星等、大型のデブリも除去できるという確証をついに得た。また、彼ら専門家に協力を仰げるようなチーム体制も確立済みだ。

BOYの直近の目標は、2017年の打ち上げ、そしてそれ以降のデブリ除去である。デブリの軌道を変化させるための噴射技術は非燃焼実験を重ねほぼ完成しており、現在はデブリを探知するための技術開発に注力している。

次回はなぜ岡田氏が「シンガポール」で「宇宙分野」での起業に至ったのか、そのキャリアを探る。

(次回は来週土曜日の公開です)