SPORTS-INNOVATION

スポーツ界におけるイノベーションの進む道

日本で「スポーツ業界 2.0」を起こせ

2014/12/5
日本のスポーツ界は大きなポテンシャルを秘めながらも、古い常識にとらわれてそれを生かし切れていない部分がある。スポーツ界もグローバルな競争にさらされる中、求められるのはあらゆる面におけるイノベーションだ。SAP社の馬場渉が【感動体験】、【マネジメント】、【テクノロジー】の3つの進化を掛け合わせた「2.0革命」を提唱する。
女子バレー日本代表を支えるアナリストたち。日本スポーツ界では、アナリストの地位向上も課題のひとつ(写真:築田純/アフロスポーツ)

女子バレー日本代表を支えるアナリストたち。日本スポーツ界では、アナリストの地位向上も課題のひとつ(写真:築田純/アフロスポーツ)

歴史を塗り替える何かはメインストリーム以外から生まれる

さて今回でこの連載も第10回となります。いい区切りなので一度連載趣旨の原点に戻り、皆さんとともにこれまでのフィードバックをしていこうと思います。

第1回では「産業革命」と書かせて頂きました。

産業革命ということですから、その夜明け後の世界は、多くの主役が置き換わっていると思います。

女性スポーツが、男性スポーツを興行的に大きく上回るケースは当然出てくるでしょう。障がい者スポーツが、健常者のスポーツを上回るケースも出てくるでしょう。新興国やスポーツ後進国が、世界をリードする競技種目も出てくるでしょう。

連載ではそれらの変化を予測、または検証するために、ビジネス面、テクノロジー面、アナリティクス面、ファンエクスペリエンス面、スタジアムやイベントエンターテイメント面などについて少しずつ触れてきました。

日本でも様々な変化が起こせるはずです。

スポーツリーグやスポーツチームへの就職が、学生の就職ランキング上位に入ってくることは可能でしょう。

友人同士で作った田舎のサッカークラブが、日本を代表するナンバーワンクラブになることも可能でしょう。

Jリーグのクラブチームが、ビジネス面でも競技面でも世界一になることも可能でしょう。

クラブの上場時価総額が、数千億円になることも可能でしょう。ビッグクラブは1兆円も目指せるでしょう。

スポーツアナリストの年俸が、1億円を超えることも可能でしょう。

それを実現するために何が鍵になるでしょうか?

スポーツ 2.0 = エモーション × マネジメント × テクノロジー

スポーツの【感動体験】に、さらなるイノベーションが起こるはずです。

すでにスポーツのコンテンツはプレイすることも、応援することも、十分な感動体験を提供できています。しかしここにもう1つ次元を超えた変化を起こす必要があります。今の「感動体験1.0」を、「感動体験2.0」に引き上げることが可能です。スポーツに無関心な人はいても、心を豊かにする感動体験に無関心な人はいないでしょう。

スポーツ業界は「スポーツ」ということを強調し過ぎる傾向があります。「人」の「desirability(欲)」 にまずスポットをあてれば、スポーツ業界は自らを再定義することが可能だと思います。もう一度シンプルに、スポーツがなぜ生まれたのか? なぜ支持されてきたのか? それを考えて原点に戻れば、自らを再定義することができるはずです。

【感動体験】のさらなるイノベーションを起こすためには、スポーツにおける【マネジメント】にさらなるイノベーションが必要になります。

日本におけるスポーツは、感動体験や人間教育的な要素を強調するあまり、マネジメントが疎かになっているのではないか? と思うことがあります。スポーツが好きかどうかにかかわらず、そのスポーツをマネジメントすることが求められます。

まずは日本のスポーツにおけるマネジメントを世界標準の1.0に引き上げることだと思います。チーム内の常識、競技内の常識、スポーツ界の常識、日本国内の常識……。スポーツマネジメントのグローバリゼーションを避けて通れない中、多くのことを先読みしていく努力が必要でしょう。

その上で、次にスポーツマネジメントにおける2.0の話が可能になります。

そして最後の要素として、スポーツにおける【テクノロジー】にさらなるイノベーションが求められます。

日本のスポーツにおけるテクノロジーは偏りがあります。アスリート個人に焦点をあてた伝統的なテクノロジーは発達していますが、その積み上げでは解決できない課題が出てきています。「チーム全体」へのテクノロジーはどうでしょうか? 「選手の育成や採用」におけるテクノロジーはどうでしょうか? 「ファン」へのテクノロジーはどうでしょうか? 「スタジアム」へのテクノロジーはどうでしょうか?

目安としてこう言いましょう。汗にまみれないテクノロジーに目を向けましょう。日本におけるテクノロジーは、スポーツの汗やファンの汗とともに使われるハードウェアテクノロジーがハイライトされます。しかし、汗に触れないソフトウェアも、大きな力を持っています。

こうした視点に立つと、スポーツにおけるテクノロジーも1.0未満ではないでしょうか。

スポーツアナリストはパソコン担当? ビデオ録画担当? スポーツのデジタルコンテンツはテレビの補完? スポーツのテクノロジーパートナーはブランド露出や機材提供?

まず常識的なテクノロジーへの理解をする、またはそうした人材に投資することが重要です。その上で非常識な2.0へのテクノロジーの準備を進めていくことです。

抽象的でわかりにくいと思います。ビジネス界における変化で例えれば、伝統的なこれまでの企業がIT武装したのは1.0です。そうしたことを提供するIT産業が台頭してきたのも1.0です。

では2.0とは何でしょうか? 全ての産業がソフトウェアドリブンのIT企業となり、その後IT産業という言葉がなくなった時のことを指します。ソフトウェアによる製造業、ソフトウェアによる人材サービス業、ソフトウェアによる行政。

1.0の時代とは、リーグ理事長やクラブのGMの部下に、優秀なIT担当者が入ることです。監督の下に優秀なアナリストがいることです。2.0の時代はきっとそれらの上司が最もテクノロジーに長けた人となるでしょう。

馬場 渉 Chief Innovation Officer, SAP

*本連載は毎週金曜日に掲載する予定です。

<編集部よりイベントのお知らせ>

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2014年12月21日に『SAJ2014 -スポーツアナリティクスジャパン2014-』と題し、日本初となるスポーツアナリストを集めたカンファレンスが開催されます。本連載の著者の馬場渉氏も登壇する予定です。詳しくはこちらのアドレス(http://jsaa.org/saj2014/)を参照ください。