Boxer-Clad Coders Adorn Silicon Valley's Billboard Boom

シリコンバレーで復活した看板広告

最近のシリコンバレーでとびきり高価な資産は、高さ4メートル、幅15メートル。ハイウェイ101号線を見下ろしている。

シリコンバレー近辺で看板広告の売り上げが急増している。昔ながらの広告媒体が、ITバブルの恩恵を受けているのだ。地平線を背景に知名度を上げ、注目を集めようと、シリコンバレーの企業が目立つ場所を奪い合っている。サンフランシスコとサンホセを結ぶ101号線は、看板業界では「ゴールドコースト」と呼ばれ、半年待ちの広告会社もある。

「まだ押さえられらないのよ」。広告コンサルタントのシェルナズ・デイバーはiPhoneから業者にメールを送信していた。オンライン教育のスタートアップ、ウダシティの看板を手配しているのだ。「2015年6月から年末までの契約を、48時間以内に予約しないと逃してしまいそう」。

広告看板の需要が急増しているおかげで、101号線を車で走っていると、うれしくない光景が目に飛び込んでくる。最近は幅15メートルの看板のなかで、青白い顔をしたソフトウエアエンジニアの男性がパンツ1枚で胸毛を見せ、挑発的なポーズで横たわっている。

看板のコピーは、「テクノロジーのホットな才能を見つけよう」。テクノロジー系就職情報サイトのダイスが10月に掲げた看板で、人材紹介の新サービスを宣伝している。

屋外広告大手のアウトフロント・メディアは、101号線沿いのなかでも一等地に約40枚の大型看板を所有する。シリコンバレー近辺の広告の売り上げは2011年から2倍以上に増え、今年はIT企業からの売り上げが600万ドルを超えるペースだという。

クリア・チャンネル・アウトドア・ホールディングスもシリコンバレーの広告売り上げが急増しており、「わが社にとって最大かつ最高の市場のひとつだ」と、広報担当のデービッド・グラバートは言う。

「看板を出せる」というステータス

101号線沿いに並ぶ幅15メートルの板が高額な商品になっていることは、1990年代後半のドットコム・バブルを思い出させる。当時、現金をたっぷり手にしたスタートアップは、業界で名前を売って箔をつけようと、屋外広告に大枚をはたいた。最近は配車アプリのウーバーや、空き部屋のシェアサイトAirbnb(エアビーアンドビー)など時価100億ドル以上のスタートアップが、再び広告看板市場を沸かしている。

「渋滞につかまった人々に笑顔を届けたいと思いました」と、ダイスのマーケティング担当副社長ナターシャ・ラジャは言う。上半身裸のプログラマーが、度の強そうな眼鏡とスマートウォッチをつけて横たわる屋外広告キャンペーンは彼女が指揮した。「あの人たちはモデルではありません。本物のエンジニアです」。

オレゴン州ポートランドを拠点に屋外広告の仲介業を手がけるビルアップスのスコット・ブレアCGO(最高事業成長責任者)によると、シリコンバレーの看板のレンタル料は、大きさと場所によって月1万4000から4万ドル。1999年には約5000ドルで契約できたという。ビルアップはソーシャルゲームのジンガやグルーポンの看板広告も手がけている。

現在のブームは2011年に始まったと、アウトフロントのベイエリアの営業部門を束ねるマット・モリナは言う。幸運にも広告スペースを確保できたスタートアップには、サンフランシスコを拠点に人材管理ソフトウェアを開発するツェナーフィッツや、ミレニアル世代の就職仲介サイトを運営するファーストジョブなどがある。

広告看板には虚栄心の要素もあり、自社の広告でポーズを取る社員もいるが、広告を出す主な目的はもっと実用的だと、モリナは言う。101号線沿いの看板は渋滞にはまった人が嫌でも目に留まり、新しい人材を見つけて事業を活気づけるきっかけになりやすいというわけだ。

「広告看板はマーケティングであると同時に、業績の証でもある」と、ズーム・ビデオ・コミュニケーションズのエリック・ユアンCEOは言う。カリフォルニア州サンタクララを拠点にテレビ会議システムを提供するズームは、まだ看板を出したことがないが、ユアンによれば2015年のマーケティング計画には織り込み済みだ。

SNSの画像投稿で相乗効果

11月末、サンフランシスコのダウンタウンにある駐車場で、3人の作業員が新しい看板を設置していた。ソフトウエア開発者向けにサービスを提供するギットハブの広告だ。同社はアンドリーセン・ホロウィッツなど大手ベンチャーキャピタルから1億ドル以上の資金を調達している。

ビルの外窓清掃に使うような足場の上で、作業員は高さ18メートル、幅6メートルの看板の表面をきれいにすると、壁紙を貼る要領でポスターを糊付けした。ギットハブのマスコットーーネズミの顔をしたタコーーがロケットベルトを背負い、雲のあいだを飛んでいく。

2008年創業のギットハブは、テレビやラジオに広告を出したことはない。屋外広告も今回が初めてで、新しいサービスの導入にあたって大規模なオンラインマーケティングのキャンペーンと連動していると、同社のマーケティング・ディレクター、ケリー・シェアロンは説明する。すでに顧客や従業員が、広告の画像をツイッターやインスタグラムに投稿している。

「とても誇りに思っている」と、シェアロンは言う。「今回のキャンペーンを心待ちにしていた」。

現役エンジニアにポーズを取らせたダイスは、次の屋外広告を準備している。「となりのサインフェルド」のジェリーの相棒ジョージ・コスタンサに似たエンジニアが、今回もほとんど服を着ていない姿で登場する。同社のラジャによると、「まさに優秀なエンジニアに見える」らしい。

(執筆:Adam Satariano、写真:Bloomberg、翻訳:矢羽野薫)
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