2022/6/22

IBMがコンサルティングとテクノロジーの両輪で実装する「地域共創」の豊かさ

NewsPicks BrandDesign ChiefEditor / NewsPicksパブリッシング 編集者
 2022年でIBMは創業110年、日本IBMも創業85年を迎える。テクノロジー企業として世界を牽引してきたIBMは、その伝統に甘んじることなく革新を続けている。
 グローバルの取り組みとして、2019年には、オープンソースの雄であるレッドハット(RedHat)を買収。2021年には、インフラストラクチャー事業をキンドリル(Kyndryl)として分社化するなど絶えず事業を組み替え、近年はプラットフォームを中心とし、ハイブリッドクラウドやAI、ソフトウェア、コンサルティング事業をコア事業としている。
 日本IBMでも、「IBM Consulting」が事業の柱の一つになっている。コンサルティング事業の中でも、日本IBMデジタルサービス(以下、IJDS)は、全国に拠点をもち、設計から構築、運用までをこなすケイパビリティがあるという。
 リモートワークが定着したDX全盛のニューノーマル時代において、両社は、互いに駆動し合う両輪の関係となっているようだ。
日本IBM 専務執行役員 IBMコンサルティング事業本部長の加藤洋氏と、日本IBMデジタルサービス(IJDS)代表取締役社長の井上裕美氏に語ってもらった。日本IBMグループでコンサルティングから、システム開発、運用までを担う両者に話を聞いた。

ビジネスとテクノロジーの発展的関係

──お二人とも経営に携わる役割を担われていますが、技術者出身と聞きました。
加藤 そうですね。私はアーキテクト、井上さんもプロジェクト・マネージャーとしての経験があります。
1990年日本IBM入社。主に金融業界のITスペシャリストとして、システム開発・保守に携わる。2019年5月より専務執行役員グローバル・ビジネス・サービス事業本部(現IBMコンサルティング事業本部)本部長に就任。コンサルティング、システム開発・保守や、ビジネス・プロセス・アウトソーシング(BPO)、アプリケーション・マネージメントなどの領域で顧客の企業変革を支援。IBMコーポレーション(米国)の経営執行委員。
──コンサルティングのリーダーが技術者出身というのもおもしろいですよね。今までは違ったのでしょうか。
加藤 今はコンサルティングもプロトタイプやUIをつくりながら提案するようなアジャイル形式での提案が当たり前になっています。ですから、エンジニアとしての経験がそのまま役立っているんですよね。
 逆にエンジニアも含めて全員がお客さまに提案する能力も必要だし、お客さまの要望を聞くアクティブリスニング能力も必要だし、コアコンサルティングの能力は絶対必要だと思います。
 職種の枠を超えて、お客さまが必要とされる能力を磨くことを追求した結果、IBMでは、両方を兼ね備えた人材も増えています。
井上 日本IBMの代表取締役社長の山口(明夫)も、技術者出身ですしね。技術者がそのままリーダーになるという道もあるし、最近では営業職の人たちがプログラミングを学んで自分でものづくりをしたり、提案するかたちも珍しくなくなりました。
2003年、日本IBM入社。システムエンジニアとして官公庁のシステム開発を担当後、さまざまな案件でプロジェクト・マネージャーを務める。2019年より、官公庁 デリバリー・リーダー。2020年より、日本アイ・ビー・エム グローバル・ビジネス・サービシーズのガバメント・インダストリー理事。2020年7月、日本アイ・ビー・エムデジタルサービスの設立に伴い、代表取締役社長に就任。2022年4月、日本アイ・ビー・エム取締役に就任。二人の娘を持つ母でもある。
 もちろん技術者が必ずしもマネジメントになる必要はなく、技術者のまま道を極める選択肢もたくさんあります。
「プロフェッショナル」のあり方も従来の枠を越えつつあるので、誰がリーダーになっても違和感はないと思います。
──IBMコンサルティングはいわゆる「ITコンサルティング」と呼ばれるような事業なのでしょうか。強みを教えてください。
加藤 2つあります。まず、「コンサルティングとテクノロジーの両輪」でお客さまのニーズに応えるサービスを提供できるという点が、IBMコンサルティングの大きな強みです。
 コンサルティングに基づいて、テクノロジーを使ったシステムの開発、構築、運用を進め、エンドツーエンドで実際にお客さまの変革の実現まで、それを支えるシステムを構築することができる。自社の中に製品部門があり、長年培ってきたノウハウがあるからこそ実現できることです。
「ガレージ(IBM Garage)」と呼ばれるアジャイルな開発手法がIBMでは確立しています。
 課題解決のためにお客様と打ち合わせを重ねる中で、一気にシステムを作り上げるのではなく、「ひとまずこの部分に関しては二日後にデモを用意します」というように、動くものを見ながら、開発を進めていきます。
──なるほど。ビジネスと技術がそのままつがなっているんですね。
加藤 もう一つは「共創」です。IBM Consulting Way という行動指針を踏まえて、企業を超え、業界を横断する、一歩踏み込んだDX、新しいビジネスモデルの創出を目指しています。
──通常のコンサルティングだと、クライアントである一企業から受注して、戦略を策定してサービスを提供していくわけですが、「共創」といったときに、どういうつながり方でビジネスモデルを創出していくのでしょうか?
加藤 企業をご支援するプロジェクトがもちろん多くを占めています。
 またこれまでのコンサルティングは、DXといっても一企業の一部門の改革に特化したものが多かったのですが、これからはもっとオープンに、消費者から見たときにさまざまな企業・業界のサービスが有機的に結びついたうえで、ワークフローすべてをデジタル化していく必要があると考えています。
──具体例を教えてください。
加藤 例えば、IBMが開発したDSP(デジタルサービスプラットフォーム)というプラットフォームを活用して提案をしています。
 例えば、このDSPを活用して、保険会社と病院が業界横断でつながることで、今までは紙で医療費の領収書をもらい、それを保険会社に申請して給付金を得ていたプロセスを変え、データで一気に連携することが可能になる。
 患者の立場になったときに、具合が悪い中でいちいち申請をたくさんしないといけないのってしんどいじゃないですか。
 病院と保険会社がつながり合いデータを直接やり取りすることによって、給付金の支払いも早くなりますし、精神的にも安心しながら、ひとりひとりの暮らしやすさにつながっていく。そういった共創モデルをつくっています。
 この「コンサルティングとテクノロジーの両輪」と「共創」という2つのキーワードに共通するのはIJDSの存在です。
井上 IJDSは技術者を中心としてシステム開発の実施から開発後の運用までを担っています。
 従来のコンサルティングは、コンサルタントがビジネスソリューションを提案し、技術者はそれに従って開発を進めていくようなイメージがあったと思います。
 でも、今IJDSが取り組んでいるのは、ビジネスが上流で、テクノロジーは手段というのではなく、技術者がテクノロジーありきでソリューションを提案する、手段=テクノロジーによってビジネスのあり方を変えていくということなんです。
加藤 コンサルティングとテクノロジーは、両輪でお客さまの変革をお手伝いできるものなので、テクノロジー主導で始まるものもあるし、コンサルティング主導で始まるものもある。
 ただ、コンサルタントとして理想を描くだけでは世の中は変わらないので、それを実装できるテクノロジーとは切っても切れないということ。
 技術者は、既存システムのデータやプロセスを理解しているので、あることをやりたいときに「このデータはここにありますね」とか、「こういうふうにつながります」ということが素早くお客さまに提供できる。
 これがIBMコンサルティング全体の価値につながっていると思います。

「IBM地域DXセンター」 で叶えるウェルビーイングな働き方

──IJDSの強みを教えてください。
井上 一つは技術力、技術者集団の厚みですね。もともとIJDSは、さまざまな業界のお客様の開発や保守、アウトソーシングを実施する会社が母体となっています。
金融、流通、製造などの業界側の立場にいらっしゃった方が、今、まさに社員として働いているので、現場に根付いた業界スキルがあり、技術者としてもスキルの高い人が所属しているという強みがあります。
 もう一つは、札幌、仙台、沖縄、今後は九州地区と、各地域にこうした業務を担う「IBM地域DXセンター」をつくっています。これも、東京だけではなくて、地域の方々と一緒にDXを進めていくという「共創」モデルです。
──各地域に拠点がある理由はなんでしょう。
井上  地域DXの推進やそのための人財育成を目的に、IJDSの社員が多く所属する地域(札幌、仙台、沖縄、九州)をベースに開設を始めています。
 例えば、札幌のIBM地域DXセンターでは、教育機関や地域の企業との共創により、具体的には北海道情報大学とコープさっぽろの方々に参加いただきました。AIなどを中心としたDX人財の育成に向け一緒にワークショップを実施し、地域の課題を共に解決するための地域共創DXプラットフォームの構築を実施した実績があります。
加藤 IBMは世界175カ国以上でビジネスを展開しているので、もともとリモートで働くことが文化として根付いていた会社です。なので、コロナ以降はスムーズにリモートワークに移行できた。
 当初は対面を望むお客さまもいらっしゃいましたが、徐々にリモートワークが定着し、世の中も追いついてきた。IBM地域DXセンターはその流れを先取りしていましたよね。
井上 まさにニューノーマルな時代になって、テクノロジーのスキルさえあれば、いつでもどこでもアクセスができて、お客さまと共創でシステムをつくり上げ、実現できる世界になりました。IBM地域DXセンターの存在がそうしたロケーションフリーな働き方を後押しできたらと考えています。
 ビジネスの側面だけでなく、社員のウェルビーイングを後押しするという役割も担っています。
 例えば、配偶者の地方への転勤で、仕事をやめなければならなくなった人や、ビジネスチャンスが多いから首都圏に出てきたけれど本当は子育ての環境や介護なども含めて、家族との時間を大事にしながら地域で働きたいという人もいると思うんです。
 そういった人たちが「配偶者の転勤先でも今まで通りに働きたい」「子供は自然の豊かなところで育てたい」と思ったときに、IBM地域DXセンターで働くことでその希望をかなえることができる。
 自分のキャリアとウェルビーイングの両方を追求できるのではないかと思っています。
 今後は、各地域での新卒と中途の採用を積極的に拡大していき、かつ、地域の会社と共創する形で、各地でテクノロジーを持った方々とどんどん手をつないで地域活性化を推進していくことを目指しています。
──現在政府が推進している「デジタル田園都市国家構想」とも共鳴しているように思います。
井上 まさに「地方からデジタルの実装を進め、新たな変革の波を起こし、地方と都市の差を縮めていくことで、世界とつながる」というのが「デジタル田園都市国家構想」の基本理念ですが、社会がニューノーマルになる前から政府は地域DX推進の必要性を認識していたんですよね。
 地域をより良く、豊かにしようとするためには当然、我々のテクノロジーによって整備することもできるし、整備されているところに関してはカタリスト(触媒)となって関わっていきたいと考えています。
 今までの社会貢献をもっと地域に対して拡大させて、IT人材、DX人材を育成していくことで、地域の人が主体となってその地域の課題をDXで解決して豊かになっていく。
 そういう世界を目指しているという意味では、今のIBM地域DXセンターの取り組みはまさにデジタル田園都市国家構想にフィットしているのかなと思います。

技術者が正しくリスペクトされる文化とキャリアパス

──今までお話を伺ってきて、技術者へのリスペクト、というのはIBMのなかでとても大事にしている部分だと感じました。一方で、技術にも流行り廃りがあるように思うのですが、そのあたりはいかがでしょうか。
加藤 おっしゃるとおり技術者に関しても、色々なスキルが必要なのです。今はDXのスキルというと、イメージされるのは、わりと先進技術としてフロントよりのモバイルの開発、クラウドの開発ができる人たちが注目されがちですよね。
 しかし実際は、既存のシステムを構築し運用する、技術者の存在なしには、本当のDXは実現できないのです。
 だからこそ、さまざまなキャリアの方に入っていただいて一緒に働きたいと思っています。自分のスキルが古いなんて思わないで、誇りを持ってほしいです。
 IBMコンサルティングには「フューチャースキリング」というスキル育成のプログラムがあります。例えばメインフレームなどの基幹系のシステムを知っている人なら、今のシステムにAIを組み込んで効率化を図るために、少しでもDXのスキルをつけるなど、プラスαのスキルを身につけることができます。学習に専念し、集中して勉強できる環境が整っているんです。
井上 コンサルタントも技術者も、働く人たちがお互いにリスペクトし合って日々プロジェクトに取り組んでいますね。
──技術者が働きやすい環境というのは、IBM地域DXセンターでも整っているのでしょうか?
井上 もちろん学習機会のサポートも世界共通のプログラムを受けられますし、日本IBMのプログラムも充実しています。
 人材育成に関しては、弊社の就労支援学習プラットフォーム「SkillsBuild」や、教育機関と連携してIT人材を育成する「P-TECH」などを通して社会貢献をしています。
加藤 IBM地域DXセンターは、地域のDXを加速するために、我々が地域の仲間として入らせていただき、少しでもお手伝いできることがあれば、センターを通して貢献したいという気持ちで開設したので、地域活性に取り組みたい人が働く場所としても、やりがいがある場所だと思います。
井上 地域に住む人たち、企業、自治体、教育機関を有機的につなげるカタリスト(触媒)となって、より豊かな社会を共創していく拠点として、今後さらにIBM地域DXセンターを発展させていきたいと考えています。
 UターンやIターンを考えている人は働く場所として、自治体や企業、教育機関の方には地域活性のビジネスパートナーとして、IBM地域DXセンターを選択肢に加えていただけたらうれしいですね。