【全文】バイデン直言。ウクライナで米がすること、しないこと
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バイデン大統領によるニューヨークタイムズへの寄稿ですが、最大のポイントは、
① プーチン大統領の追放は求めない、つまりロシアの体制転換は目標ではない
と明言していることです。
次いで重要なのは、
② 米国がウクライナに領土面での譲歩を迫ることはない
という明言です。
①と②は、微妙なバランスの上でのみ成り立つ内容です。
ウクライナが侵略を受けないようにする、という目標がどうすれば達成されるのか、必要な条件が何なのか、は、簡単ではありません。
①のようにロシアの政府を根本的に覆し、米国やEUの同盟国につくりかえて、軍事力を大幅に削減する、のが最も確実そうです。しかし、それはしない、といっています。
①をしようとすると、米国がイラクやアフガニスタンでしたような中途半端なことになり、ロシアで経済の崩壊、過激な軍事政権の登場、ロシアの分割と内乱、難民の流出、などが予想されます。これらは、ヨーロッパ諸国が非常に危惧していることです。
それ以外の方法となると、ウクライナが強大な軍事力を持つようになるか、NATOに加盟する、といったやり方が考えられますが、いずれもロシアが嫌います。
ロシアが心底嫌がることはしない、しかし、②ウクライナに領土面での譲歩を求めることはしない、ともバイデン大統領は明言しています。
それではどうやってロシアに侵略をやめさせるのか?が問題です。
ロシア軍がすでに占領した南部のへルソン州やザポリージャ州はもちろん、東部のドネツク州やルハンスク州も、クリミア半島も、ロシアが支配下に置くべきではない、ということです。
それでは、ウクライナの領土を奪うこともできず、むしろこれまで奪った分も減ることになるロシアがどうすれば侵略をやめるのか、という問題になります。
ロシア政府は、得るものもなく退くことなど、とうてい受け入れないでしょう。通貨ルーブルが下落するとか、貿易収入が減る、くらいのことでは、得るもののない撤退は絶対にしないでしょう。
ではどうするかというと、
・ソ連が崩壊前までアフガニスタンに10年間侵攻していた時のように、長期に渡る戦争でロシアに大きな犠牲を強いる
・ウクライナ軍を大増強して短期、中期で、圧倒的な損害をロシア軍に強いる
くらいしかありません。
ウクライナの軍事的勝利以外には、①と②を両立させる方法はありません。バイデン大統領が寄稿したニューヨーク・タイムズ紙は5月19日に、「米国は政治的な解決を通じて、この紛争を終わらせることを助けようとしているのだろうか?それとも米国はロシアを永久に弱体化させることを狙っているのだろうか?政権の目標はウラジミール・プーチンを動揺させ彼を政権の座から降ろすことに変わったのだろうか?米国はプーチン氏に戦争犯罪の責任を負わすことを目標にしているのだろうか?それともより大規模な戦争に発展することを避けようというのが目標なのだろうか?もしそうだとすれば、ロシア人を殺害し、彼らの軍艦を沈めるために米国のインテリジェンスをウクライナに提供したことを公表することは、この目標を達成するのに見合った行為なのだろうか?」
と述べて、バイデン政権の政策に関する疑問を並べ「これらの疑問に対する明確な回答がなければ、ホワイトハウスはウクライナを支援することに対する米国民の関心を失うことになるだろう」と警鐘を鳴らしました。戦争が長期化し、米国の軍事支援も拡大する中で、一体バイデン政権の目的は何なんだと迫ったのでした。
この寄稿文は、それに対するバイデン大統領の回答です。最終的には外交交渉で決着をはかる、そのためにもウクライナ側にとって軍事的に優位な状況をつくらなければ交渉に持ち込めないので、そのための軍事支援なのだ、と説明しています。ロシアに領土の一部を割譲してでも早期の妥結をはかるべし、というキッシンジャー元国務長官の提案も意識して、そのような領土の譲歩を求めないことも明らかにした、ということのようです。プーチン失脚を目指さない、と述べたのは妥当な配慮です。
ロシア人たちは反骨精神が強いので、
世界一の権力者であるアメリカ大統領が「プーチンの失脚を目指す」というと、むしろ国民一丸となって全力でプーチンを支えるようになります。
どちらかというと、アメリカ大統領が「プーチンの大統領続投を支持する! ガンバレ!」と高らかに宣言した方が、プーチン政権へのダメージは大きいです。(バイデン政権へのダメージはもっと大きいですが)
なお、ロシア人の反骨精神については、小泉悠氏『ロシア点描』が笑い話を交えながら分かりやすく解説しています。オススメです。
https://www.php.co.jp/books/detail.php?isbn=978-4-569-85185-3