新プロジェクト「そうだ、収穫にいこう ~豊かさを育む農業物流ゼロ革命~ 」が野菜の常識を変える

2022/5/27
「AGRI FUTURE UPDATE- 次世代生産者革命 -」をミッションとし、「生産者」が本当に、食べる人の求める食体験を作り出すことを目的に設立された共創コミュニティ「MX LAB」。「新食卓 PJT」に続き、第2期新プロジェクト「そうだ、収穫にいこう ~豊かさを育む農業物流ゼロ革命~ 」が始動します。
今回は、MXLAB第2期新プロジェクト企画コンペ優勝者である寺尾卓也さん(株式会社ALL FARM 取締役 副社長 兼 農場長)と東誠晃さん(株式会社村田製作所)を取材。今回のプロジェクトへの想いや、実現させたい未来についてお話を伺いました。(MX LABについてはこちら
寺尾卓也(Takuya Terao)
株式会社ALL FARM 取締役 副社長 兼 農場長
大学卒業後、大阪府高槻市の農事組合法人で農業に従事したのち、ALL FARMを設立。千葉県佐倉市の自社農園「在来農場」と朝採れ野菜を楽しめるオーガニック野菜レストラン「WE ARE THE FARM」を運営。“野菜を一番おいしい状態で食べてもらいたい”という想いで「MXLAB」に参画中。
東誠晃(Masateru Higashi)
株式会社村田製作所
大学卒業後、京セラ株式会社に入社。携帯端末の無線回路設計に従事し、国内・海外キャリア合わせて10社、10機種以上を開発・量産。携帯端末の高機能・小型化が進むにつれ、電子部品が担う役割が大きくなってきたことを機に、電子部品メーカーの村田製作所へ転職。以降、スマートフォン向け通信モジュールの商品開発に携わっている。

野菜の魅力を全て伝えきれているのか

ーー「そうだ、収穫にいこう ~豊かさを育む農業物流ゼロ革命~ 」を企画した背景を教えてください。
寺尾:野菜を一番おいしい状態で食べてもらいたい”という想いで今回のプロジェクトを企画しました。農場や野菜レストランを経営する中でも、野菜を一番おいしい状態で提供できていないという課題がありました。
やっぱり畑で食べる野菜が一番おいしいんですよ。新鮮だからおいしいというだけでなく、自分たちで収穫するという体験も含め、これに勝るものはありません。
これまで、野菜をおいしい状態で食べていただくために生産者側もさまざまな努力をしてきたと思います。例えば、自ら出向いて野菜を届けたり、メニューを開発してお店で提供したり。その結果が、今、私たちが展開している野菜レストラン「WE ARE THE FARM」でもあります。一方で、本当に伝えたい野菜の魅力全てを伝えられているかというと、もう少し別の方法もあるのではないかとも思うのです。
“食に対する心の豊かさが持続する世界”を実現させたいと思っていたことも企画理由の一つです。飲食業の世界で長年やってきていますが、当然、お客さまにおいしいものを提供したいという想いで続けています。しかし、経営をする中で矛盾も生まれてきて、お客さまのために商品価格を安くしようとすれば野菜などの原価を下げる必要があります。けれども、その野菜を作る生産者はできるだけ高く売りたいと思っています。本来、お店も生産者も、おいしいものを作ってお客さまに提供し、喜んでもらいたいはずなのに、ビジネスの枠組みにおいて本来の目的が失われてしまっているのではないかと思うことがあります。
今回のプロジェクトでは、物流コストをなくし、お客さまが畑で収穫するという新たな仕組みを作ろうとしています。この仕組みは、お客さま、生産者双方にメリットがあります。まず、お客さまには、野菜の100%の美味しさを体験していただき、その体験により旬の野菜を知っていただく。そして、野菜の価値について考えなおすきっかけを作り、質のよい野菜を安価で購入できる状態を作り出すことができます。生産者は、安定した収入以外にも、消費者の顔や反応を直接知ることができ、野菜の価値にコミットするモチベーションを持続させることができます。
経済的合理性と食に対する心の豊かさを両立するというのは非常に大きな課題ではありますが、プロジェクトをユーザーと共創しながら進めるコミュニティに可能性を感じており、今回のプロジェクトがその解決に繋がるのではないかと信じています。
(コンペ時の提案スライド)
東:私がこの企画を提案した背景には、おいしく野菜を食べるきっかけを作って、野菜のよさを伝えたいという想いがあります。最近、野菜が好きになったのですが、おいしく野菜を食べるきっかけが、大人になってから断片的に何回かありました。
例えば、地方のガソリンスタンドで食べた野菜です。ツーリングが趣味でよく地方に行っていたのですが、給油のためにガソリンスタンドを利用したとき、その近くで採れたであろう野菜がバケツの中にありました。自由に食べてくださいと書いてあるので食べてみたところ、夏の暑い日だったのですが、キンキンに冷えたその野菜のおいしさは今でも鮮明に覚えています。こういった体験から、野菜のおいしさは情景とセットになって記憶に刻まれるのだと思うようになりました。
また、野菜から四季を感じ取れるような心の豊かさが育まれる仕組みを作りたいという想いもあります。畑に行って野菜を自ら収穫することで、どの季節にどんな野菜ができるのか知ることもできますし、五感が養われます。また、畑を中心としたコミュニケーションをとることで仲間、家族との楽しい思い出にもなります。さらに、寺尾さん曰く、畑で食べる野菜が一番おいしい。収穫体験は、間違いなく心の豊かさを育むきっかけを提供できると思い今回のプロジェクトを企画しました。

コストコの畑版=ワクワク体験と美味しさを日常に

ーー新しい仕組みを作るとのことですが、具体的にどのようなことを行う予定ですか?
寺尾:おいしい野菜が育つ畑に足を運んでいただき、野菜を自分で収穫し新鮮な状態で食べていただける仕組みを作る予定です。ワクワクするような体験とおいしさを日常的に楽しめるようにしたいと考えています。
イメージは、コストコの畑版です。コストコは、品質がよいものを安く買うことができるというだけでなく、お店そのものにも魅力があり、大きな店内をカートを押して回ること自体が楽しく、レジャー感覚で買い物をすることができます。
そんな風に自分で野菜を収穫するというワクワク体験と、新鮮でおいしい収穫したての野菜を日常的に安価で楽しめるようにしたいと考えています。
★コンペ時の提案スライド
提供する野菜にももちろんこだわる予定です。私が育てている野菜は、スーパーなどでは見かけることが少ない固定種という野菜です。固定種を育てるようになったきっかけは、野菜にこだわっている東京の三つ星レストランのオーナーさんから農家さんをご紹介いただいたこと。その農家さんが固定種の野菜を育てていました。
農事組合法人で野菜を作っているときは、いわゆるF1品種(一代雑種、一代交配、交配種)の野菜を普通に作っていたんですよ。ただ、独立して野菜を作ろうと思ったとき、どんな野菜を作ればいいのか迷っていて、東京の三つ星レストランに手紙を書いてみました。連絡をくれたオーナーさんから固定種の野菜を作っている農家さんを教えていただきました。実際にその農家さんのところへ行って、野菜を食べさせてもらったら、その野菜が驚くほどおいしかったんです。こんな野菜を作れるようになりたいと思い、固定種を育てることにしました。
固定種は、育っている多くの野菜から数十株程度厳選し、その種をとって、同じ品種の野菜を育てていきます。その選定作業時に、選ぶ人の感性が試されます。どういう野菜を今後残していきたいか、自分が次の世代に繋いでいきたいのはどういう野菜なのか、基準がないと選べません。固定種の野菜は、実は完全に自然な状態というわけではなく、人間と共存する歴史の中で、人の意志が作ってきたものです。野菜に意志や文化が表れているというところがすごく美しいですし、それが今の野菜の形や味にもあらわれているというところにも魅力があります。見た目や味のバリエーションも多いのでぜひ、特徴ある固定種の野菜を楽しんでいただきたいです。

可視化できない価値をどのように伝えるか

ーー今回のプロジェクトにおける難しさはどこでしょうか?
寺尾:可視化できない価値があり、その価値をどう伝えていくかが難しいところです。農産物は基本的に何キロ、何グラムなど重さで測ります。極端に言うと、ガソリンと同じで、それしか測る基準がありません。野菜から受け取っている価値は他にもたくさんあるはずなのに表現ができないので価格もつけられないですし、生産者も可視化できない価値にコミットしてもリターンがないんですよね。
東:僕も寺尾さんと同感ですね。野菜のおいしさや育まれる心の豊かさを伝える方法を考えた結果が、実際にお客さまに来ていただいて感じていただくということ。それも一つの答えではありますが、来ていただく手前で、おいしさだけでなく五感に訴えるというところを交えたその魅力を普段、野菜を無意識に食べている方にどうやって届けるかが一番難しいところだと思います。そういった難しい部分を、ぜひ、コミュニティで解決していきたいです。

「これいいよ」の連鎖を作りたい

ーー今後の展望を教えてください。
東:食に対する心の豊かさが持続する世界を作り出すことが最終目標ではありますが、まずは、畑に来ていただいた方に、体験を含めた野菜本来のおいしさを味わっていただきたいです。そして、その感動を周りの方にも共有していただきたいです。
特に、これまで野菜を何気なく食べていた方にぜひ体験していただき、野菜ってこんなにおいしいんだと覚醒してほしいです。
今回の企画の仕組みのイメージがコストコの畑版ですので、生活者にも生産者にも豊かさを与える仕組みになっています。将来的には、より多くの人に利用いただけるように対象者が広がるようになるといいですね。
寺尾:畑に来ていただいた方に「これめちゃくちゃいいよ!」と言ってほしいです。めちゃくちゃおいしいし、めちゃくちゃお得だからいいよ、という言葉が聞けると本当に嬉しいです。素朴においしいなと思える感覚は、今生きてる中でそんなに多くないと思います。しかし、この感覚が自分を幸せにしてくれると思うので、生活の中で感じ取れる瞬間を作れるようになりたいです。
野菜が好きな方にはもちろん来ていただきたいのですが、意識が高い方だけではなく、野菜に特に注目していなかった方にもぜひ足を運んでいただきたいですね。
さらにその先の未来という話をすると、今回のプロジェクトはプロトタイプで行いますが、継続的に続けていけるような畑を作りたいです。そのためには、投資も必要ですし、水場やトイレといった設備も作る必要が出てきますが、小規模でも継続し、日常的に野菜が収穫できるようになるのが目標です。
週末は収穫に行こうとか、仕事帰りに収穫しようとか、それぐらい身近な存在になるといいですね。
ーーお二人ともありがとうございました。
経済性と豊かさの両立への挑戦「コストコの畑版」大変楽しみですね。MXLABの新食卓プロジェクト第2弾、この先の活動にどうぞご注目ください。
編集:林広恵(NewsPicks Creations)
執筆:小池亜希
カメラマン:鈴木裕矢