ティールが語る「規制」「ドラッグ」「寿命延長」

2014/11/18

政府の規制は障害

ティールに悩みの種が一つあるとしたら、それは政府の規制だ。ティールは死に反対するのと同様に、規制にも反対している。ティールはこう語る。
「過去40年間、テクノロジーの分野では、バイトの世界と原子の世界があった。コンピューターとバイトの世界ではたいへんな進歩があったが、原子の世界はそれほどではなかった。我々は新しい携帯電話とコンピューターを手にしたが、奇妙なことに住んでいる都市や利用している交通機関はそれほど変わっていない。規制面では、原子の世界は極めて厳しく規制されている。バイトの世界はかなり自由だ」
「過去10年間、シリコンバレーは2.0テクノロジーでたいへんな成功を収めてきたが、クリーンテクノロジーは大失敗に終わった。なぜ失敗したのかよく考えると、どのビジネスも規制のハードルを過小評価していたことがわかる。皮肉なことに、多くの企業が環境面での障害に突き当たった。中西部北部には風力発電施設の建設が認められていない。美観が損なわれるという理由で、シカゴへの送電網の建設を認めないという法律があるからだ。クレイジーな話だが、環境保護法自体がクリーンテクノロジー開発の阻害要因になっている」

ドラックの合法化を支持するか?

過去30年間にわたって米国を分断してきた「文化戦争」はおおむね終わったとティールは考えている。
「社会問題のほとんどにおいて左派が勝利し、それについてはおおむね満足している。10年後には同性婚が米国すべての州で合法化されるだろう。大麻もほぼ全国的に合法化されると予想している」
ティールは、リバタリアンとしてドラッグの合法化を支持すると言う。
「しかし、世界にもっと楽観的になってほしいと考えている者としては、大麻合法化の理由づけにはいくらか問題があると思う。医療用大麻は合法化の隠れ蓑だと人々は言うが、それは違う。隠れ蓑ではなく、すべてが自己治療のための医療用大麻なのだ」と語る。
彼自身は大麻を「1、2回」使ったことがあるが、「定期的に使ったことはない」。しばらく考えて適切な言葉を探してから、「使うと疲れてしまう」と言った。

ティールは幸せなのか

ティールは自分のことについて話すのはとても苦手なようだ。自分を幸せな人間だと思うかと聞くと、まるで複雑な数式について質問されたかのように熟考する。
「えーと、ちょっと考えさせてくれ。うーん、そうした質問に答えるのは難しい。ほかの人と正確に比較するのが難しいからだ。これは心の中の問題だから…」と言ってから、ようやく「そう思う」と答えた。
彼は音楽にはそれほど興味がなく、小説を読むこともほとんどない。近年、チェスを再び始めた。「チェスは依存症になってしまうので危険だ」と言う。1人暮らしだが、男友だちがいる。子どもを持つことを考えたことはあるが、「ちゃんと育てるには子どもに十分な時間をかける必要があるが、それができるかどうかわからない」と言う。
彼の友人たちはみな「大まかに言って」テクノロジー関連の仕事をしており、テクノロジーには人を救う力があるという彼の信念や、マクロ経済、人工知能、「物事を理解する」ことに対する熱意を共有している。彼は間違いなく楽観主義者だ。

寿命延長プロジェクト

ティールは今後20年でがんの治療法が見つかり、アルツハイマー病の治療法も手の届くところにあると信じている。ただし不死にはまだ少し時間がかかると認める。
彼はオーブリー・デ・グレイの研究に600万ドル余りを支援している。デ・グレイは英国の老年学者で、メトセラ財団を共同で創設し、現在はSENS(加齢をとるに足りないものにするための工学的戦略)研究財団の主任科学者だ。デ・グレイは1000歳まで生きる最初の人がすでにこの世に存在すると宣言して有名になった。
ティールは、この「寿命延長プロジェクト」は、科学と同じくらい長い歴史を持つと言う。
「おそらく錬金術よりも重要なものだったと思う。すべてを金に変えてしまうものを見つけることよりも、人はいのちの水を見つけることの方に関心があった。人は大量の金よりも不死を望むと思う。基本的な問題は、加齢を逆行させることができるかどうかだ。多くの生物学的プロセスは後戻りできないようにみえるが、コンピューターによるプロセスは後戻りできる。もし生物学的なシステムを情報用語で理解できるようになれば、加齢のプロセスも含めた生物学的プロセスを逆行させることができるだろうか。ゲノム学の革命によって、生物学的システムの理解が大きく進み、私たちが今想像できるよりもはるかに多くの方法で、不可避に思われる方向を変える可能性が開かれると思う」
「寿命延長に反対する議論も数多くある。自然に逆らっている、人口が増えすぎる、退屈してしまうだろう等々、どれも私に言わせればひどい議論だ。まったく退屈はしないと思う。人はよく今日を人生最後の日であるかのように生きなさいと言う。私は、人は人生が永遠に続くかのように毎日を過ごすべきだと思う。毎日があまりに楽しく、終わってほしくないかのように」
(執筆:Mick Brown記者、翻訳:飯田雅美)
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