【解説】「中絶の権利」が否定されたらアメリカはどうなる?
- 最高裁文書リークの衝撃
- 合法中絶件数が13%減の見通し
- 出産可能な女性の4割に影響
- 注視される6月の最高裁判決
- 悲鳴を上げる女性支援団体
- 「別世界」はすでに到来している
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女性のSRHR(sexual and reproductive health & rights)がこうも政治や宗教に左右されるというのが本当に忸怩たる思いです。
女性自身が避妊のための手段をとっている人が日本よりはるかに多いアメリカであっても、望まない妊娠というのはゼロにはなりません。望まない妊娠をさせる男性がいる限り。
1973年に認められた女性の権利が今になって覆されるかもしれない議論が米国でおこっていることには本当に衝撃だけれど、これは決して他人事ではなく、
日本では、女性が望まない妊娠を避けるために必要な緊急避妊薬へのアクセスを改善するためのOTC化の議論が膠着したままであり、日本でも女性のSRHRは軽視されているといわざるを得ません。
全米の22州で中絶が禁止され、この22州では、中絶を受けたい女性は、中絶が合法の州の病院に移動することになる、という話です。
22州という数は、各州の選挙次第で増減する可能性があり、全米50州の内、どこが中絶禁止州になるのかは、共和党がどれだけ勝つかで決まる、ということになります。
自分の住んでいる近くでは中絶できないので、よそに行く、というのは世界では非常に多くある話です。
サウディアラビアやイラクはいわずもがな、マレーシアやバングラデシュなどでも、中絶しなければ母体に生命の危険がある場合などを除き、中絶は完全非合法です。
富裕な層は、外国の産婦人科に行きます。単に金があるかという問題ではなく、家族に話して、同意を得られるか、という問題でもあります。
外国に行く、という選択肢が無い層は、望まない出産か、モグリの中絶屋、怪しげなリスクの高い薬品、などしか選択肢がありません。
もちろん、多くの国に比べれば、米国は比較的、選択肢の多い国ではあり続けるでしょう。しかし、これは、男女の関係や家族の関係を、いわば力関係として変えてしまう問題です。
古き良き「アメリカをとりもどす」という目的意識からいえば、そういう回帰が必要で、過去50年間ほどの変化は否定されるべき部分が多い、ということになるでしょう。
ただ、単純に中絶を禁止すれば古き良きアメリカが帰ってくる、などということはなく、それで起こるのはやはり分断、そういう流れとは別の空間に生きようとする動きでしょう。
究極的には産まない権利と生きる権利との衝突であり、死生観に関わる問題です。
人間が生まれながらにして持つとされる自然権のうち、最も基本的なものが生存権ですが、「人間」「生まれながら」をどこで線引きするのか。どこからが「生まれた」状態であるのか、どこまでが「人間以前」で、どこからが「人間」なのか。実は割と難しい問題です。
日本ではこの線引きを妊娠22週に定めています。受精卵だったものが妊娠22週で「人間」として「生まれる」と考えるわけです。一方、中絶に反対する人たちは受精卵の段階でそれを「人間」として「生まれた」と考える、つまりどの段階に於いても中絶を「殺人」と見なすのでしょう。
なお、日本でも中絶のハードルは決して低くありません。
12週未満に対する中絶方法で用いられるのは掻爬法(掻き出す方法)で、場合によっては母体に大きな負担を伴います。こんな意地悪な方法は、通常の先進国ではやりません。女性に大して「懲罰的」だとの批判を受けています(https://president.jp/articles/-/30080?page=4)。
また、12週以降では胎児の大きさにかかわらず、一律で投薬により陣痛を促進して分娩させます。つまり通常の出産と同じような苦痛を伴います。
また妊婦健診に金銭的な補助が付くようになるのは母子手帳支給以降、つまり概ね妊娠8週以降。これから検査などを行なっていたら、すぐに12週になります。
法律で禁止こそしていませんが、なるべく中絶させないようにしている姿勢は明らかです(とはいえこういった苦痛を理由に中絶を止める人はいないでしょうから、結果的には女性に対する意地悪でしかないように思います)。
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