2022/4/15

2000万ユーザーの「空き時間」と知識が、企業の新たな価値創出に

編集ライター (NewsPicks Brand Design 特約エディター)
 循環型社会の実現を目指しているメルカリグループ。メルカリはモノの循環を実現させ、メルペイはお金の循環で与信に寄与している。

 そんな同社が次に目をつけたのが「空き時間」だ。

 月間利用者数が約2000万人の巨大マーケットプレイスを利用する人たちの空き時間を価値に変えるべく、新サービス「メルワーク」の提供がスタートした。

 具体的にメルワークとは何なのか、そしてどのような展開を目指すのか。メルワークの発起人である原田和英氏に、メルワークの現状と可能性について語っていただいた。

空き時間を価値に変える?

──2021年12月、空き時間を価値に変える「メルワーク」の提供が始まりました。具体的にどんなサービスなのかを教えてください。
原田 メルワークは「空き時間を価値に変える」をコンセプトに、現在メルカリのサービス改善に貢献していただくことを目的に提供しています。
 具体的には、アプリ上でメルカリから提供される簡単な「タスク」を利用者が行うことでサービス改善に貢献でき、さらにメルカリやメルペイで使えるポイントを即時付与されるというもの。
 1タスクは全10問、回答に要する時間は1分程度で、利用者はゲーム感覚でポチポチと回答していくと、1タスクにつき1〜2ポイントが付与されます。
 第1弾として提供しているのは「類語判定」。「パーカーとスウェット」「PCゲームとパソコンゲーム」など、表示される2つの単語が類語かどうかを「○」「×」「?」で回答してもらっています。
 類語判定のタスクは、1日にできる上限を20タスクに設定しているので、毎日のちょっとした空き時間をメルワークで有効活用すれば、1カ月で1200ポイント獲得することも可能です。
 また、第2弾として、商品画像とキーワードの正誤一致を判定する「アノテーション」タスクも一部の利用者に提供を始めました。
 これは、表示された商品のデザインや襟の種類を回答するタスク。
 たとえば、表示される商品の襟の形が、ボタンダウンなのかオープンカラーなのかなどを回答いただき、そのデータをメルカリの検索エンジンに反映していきます。
 現在は、一律でアノテーションを提供していますが、今後は特定の商品を売買している利用者に向けたアノテーションも検討中です。
 たとえば「釣り具」に関するアノテーションが必要なとき、釣りが趣味で釣り具に詳しい人に依頼できれば、高精度な回答を得られますよね。
 そのような、メルカリの利用者が持っている「知識」も活用したいと考えています。
──そもそもメルワークは、どういった目的で始めたのでしょうか?
 メルカリに出品されている商品の商品名や詳細情報は、出品者それぞれの表現に委ねられているので、具体的に書いているケースもあれば、あまり情報が書かれていないこともあります。
 たとえば、商品名や詳細情報に「かばん」と表記して、あるメーカーのかばんが出品されていたとします。
 すると、同じメーカーのかばんを「バッグ」のキーワードで探している人には、その商品を見つけられないといったことが起きるんです。
 ほかにも、出品されているVネックのTシャツに「Vネック」と記載されていなければ、Vネックのキーワードでいくら検索しても、その商品は見つかりません。
 そこで、「類語判定」や「アノテーション」で集めるデータを活用すれば、利用者がほしい商品にたどり着きやすい仕組み、出品者の商品がより売れやすい仕組みを作れると考えました。

モノ、お金の次は、時間の循環

──どんな経緯でメルワークのアイデアが生まれたのでしょうか。
 メルカリは、新たな価値を生み出すマーケットプレイスとして、不要になったモノを必要とする人に循環させる「モノの循環」を作り、メルペイは「お金の循環」で与信に寄与しています。
 その先として、時間や知識の循環も作れたら素敵だと考えました。
 利用者の「空き時間」を価値に変えられたら、メルカリが実現したい「循環型社会」に近づくのではないか、と。
 そこで、2019年6月の社内コンテストでこのアイデアを提案したところ、グランプリを取ったんです。
 サービス化の検討には時間がかかりましたが、コロナ禍で“おうち時間”が増えたこともあり、空き時間を少しでも価値に変えるお手伝いをすべく、2021年12月に正式リリースできました。

4カ月で10万人が利用

──現在、どれくらいの方が利用されているのでしょうか?
 リリースからの4カ月で、10万人以上の方が使ってくださっています。世代は20代から50代までと幅広く、毎日約500万の回答が集まっていますよ。
 毎日のルーティーンにされている方も多いですし、ためたポイントを使ってメルカリで商品や梱包材を買う方もいて、当初の狙い通り、空き時間を価値に変える体験を実現できていると実感しています。
 実際、ユーザーインタビューでお話を伺うと、多様な価値を感じてくださっている印象を受けます。
 ポイントをもらえるのが嬉しいという声や、純粋にゲーム感覚で楽しいという声、他の人の役に立てるのが嬉しいという声、そしてメルカリが好きだから楽しいといった声があり、その人に合った価値を感じていただいています。
 なかには、「商品が売れなくて困っている人が、私の回答で売れるようになるなら、それは嬉しい」と言ってくださる方もいらっしゃいました。

メルワークを外部企業にも提供

──現在メルワークは、メルカリのサービス改善への貢献を目的としていますが、今後はどのような展開を考えていますか?
 メルカリのサービス改善を目的としたタスクは継続して提供していきますが、メルワークのプラットフォームはメルカリ以外の企業にも活用していただくことを検討しています。
 多様なタスクがある方が、利用者にとっても嬉しいはずですから。
 特に、タスクの第2弾として提供しているアノテーションは、AIに機械学習をさせるための教師データをたくさん集めたい企業や団体、学校、研究機関に活用いただけるのではないかと思っています。
 しかも、一般的なアノテーションだけでなく、メルカリならではのアノテーションも提供できるはず。
 メルカリはこれまで25億もの商品が出品されている、世界有数の商品データを持つ会社でもあるんですね。
 だからそのデータやノウハウ、仕組みとメルワークのアノテーションを組み合わせて、企業が必要としているモノの認識エンジンも作れるのではないかと考えています。
──モノの認識エンジン。
 メルカリは、写真から物体を認識するだけでなく「商品認識」までできる強みがあります。
 たとえば「バッグ」の写真から「バッグ」を認識するだけでなく、物によってはどこのメーカーやブランドのバッグなのかまで判別できるんですね。
 このメルカリの強みとメルワークのアノテーションを組み合わせれば、企業が必要とする独自の「バッグの識別エンジン」なども作れるのではないかと考えています。
 この強みを生かした取り組みはもちろん、興味を持ってくださった企業が「今までできなかったことを実現する」ためのお手伝いをしたいと思っています。

良質な2000万人の利用者と25億の商品データ

──パートナーを検討する上で、あらためてメルワークの強みを教えてください。
 大きく3つあって、一つは信頼できるワーカー(利用者)が集まっていること。
 モノの売買は信頼できる利用者同士でないと成り立たないので、メルカリは積極的に本人確認や不正ユーザー対策に取り組んでいます。
 そのため、メルワークで集められるデータも精度の高いデータになるんですね。
 実際、商品画像の色を判定してもらうアノテーションのタスクでは、80%の精度で正しいデータを得られています。
 残りの20%は、複数の色が入った商品や、白い商品だけど画像が暗くてグレーに見えるなど、正しい回答を出すのが難しいものばかり。
 ゲーム感覚で大量にタスクをこなしてくれる人がたくさんいる上に、精度の高いデータを集められる稀有なサービスだと自負しています。
 二つ目は、メルカリは月間利用者数が約2000万人の巨大マーケットプレイスであること。
 約2000万人の幅広い年齢層かつ幅広い専門性を持った方へのタスクの依頼は、メルカリだからできることです。
 先ほどの「釣り具」のような、特定の専門性を持つ人にタスクを依頼することも、「自社商品のファンにアノテーションをしてもらう」といったこともできるかもしれません。
 三つ目は、メルカリの技術力を生かした価値提供ができること。
 メルカリのAIや技術力、データ解析の知見やノウハウも蓄積されているので、それらを生かした価値提供も強みになるのではないかと思っています。
──信頼できる2000万人の利用者と25億の商品データ、そして高い技術力。いろんな協業の可能性がありそうですし、AIの教師データを作るプラットフォームにもなりそうです。
 AIに関しては、教師データを内製で作成しようとすると、コストがかかる上に作れる量にも限界があるので、教師データの作成自体がボトルネックになるケースがあると聞きます。
 メルワークで、そういった課題の解決にもつながればいいですね。
 加えて、日本だけでなくグローバルで展開できる可能性もあります。世界で見ても、これだけの商品データを持っている会社は多くありません。
 この強みとメルワークを掛け合わせたら、世界で活用いただけるプロダクトが作れるのではないかと思っています。
 まだスタートしたばかりですが、これからパートナー企業と一緒にいろんな可能性を模索しながら、新しい価値創造をしたいと思っています。
 興味を持っていただけた方とは、ぜひお話ができたら嬉しいです。