グローバルタレントに会いに行く

他社製品の火消しを買って出て大型受注を掴む

オラクルのタレントが実行した「損して得取れ」戦略

2014/11/10
 国内労働人口の減少や事業の多角化・グローバル化、商品・サービスの早期コモディティ化などを背景に、 グローバルタレント(グローバルに活躍するタレント人材)の育成が日本企業の急務となっている。では、実際にグローバル・タレント・パイプライン(=経営者候補を長期にわたって育成する仕組み)に乗った人とはどのような人なのか? そして、日々どのような“特訓”を受けているのか? 彼ら彼女らの実像に迫る。

12万人の社員のうち、ワールドワイドで毎年100人強、中でも日本オラクルには5人しかいない「トップタレント」の一人であるアライアンス事業統括営業本部本部長・谷口英治氏。

谷口氏が一躍、社内外で名を上げるキッカケとなったのは99年、誰もが知っている大手衣料メーカーのeコマースやERP(業務横断型)システムを受注し、同社の成長に一役買ったことだ。

「当時、そのメーカーはシステムをメインフレームからオープン化しようとしていた。だが、その実務を行うシステム会社のプロジェクトメンバー構成に課題があり、プロジェクトが進まない。そこで私は、この会社のシステム部長に『オラクルが全面的に助けます』と約束した」

そして、谷口氏は実際にオラクルにいる腕利きの社内エンジニアを5〜6人かき集め、まったく動かなかったシステムを全部動かしてしまった。

その際、谷口氏はこのメーカーに「料金は一切チャージしなかった」と言う。
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今の100円ではなく先の1万円を取りにいく

製品メーカーであるオラクルが他社のシステムの導入を無償で支援した上に、儲けはなしーー。あまりに大胆なプランに見えるが、その裏には谷口氏の戦略があった。

「確かに、本来、許されることではない。でも、私は『今の100円ではなく、先の1万円を貰いにいきましょう』と上司を説得したのです」

説得した相手は、上司だけではない。オラクルのエンジニアも、動かないプログラムを動かすという、「火消し」のような役割は、荷が重かったはずだ。ましてや、その仕事が「無償奉仕」だと知れば、気乗りしない仕事だったかもしれない。

だが、谷口氏はエンジニアのある、潜在的な思いを刺激することで彼らのモチベーションを上げた。

「オラクルのエンジニアは、基本的に直接エンドユーザーに接し、『ありがとう』と言われる機会がない。だが、エンジニアは直接エンドユーザーに喜ばれたいという潜在的な思いがある。だから、『これを乗り越えられたら、あなたは凄いことになるよ』とか『エンドユーザーと接するのはとにかく楽しいから行ってくれ』などと言って、必死で口説いた」

また、エンジニアに土日も潰して作業してもらう以上、出来ることは何でもした。

「競馬好きのエンジニアのために、競馬新聞と食べ物を差し入れたりもしましたね」

自分の職務範囲を遥かに超える

結果として、谷口氏が考案した「損して得とれ」ともいえる作戦は成功した。

後にその会社が、あるオンライン販売サイトのシステムを構築する製品は全部、オラクルが受注するに至った。

だが、このプロジェクトもまた一筋縄ではいかなかった。フロントエンド(前行程)のツールを作るだけではなく、受発注の仕組みはどうするか、商品の発送業者はどこにして、どのように商品を消費者に届ける仕組みを作るかなどの問題をすべて解決する必要があったからだ。

「前代未聞のプロジェクトだったため、誰もこの仕事の舵を取ることができない。プロマネ(プロジェクト・マネージャー)も何人変わったか分かりません。最終的には、『お前がやれ』と言われてしまったほど」

だが、谷口氏は、プロジェクトマネジメントを専門に請け負う会社を探し出し、プロマネを派遣して貰うなど、あらゆる策を講じて、この難局を乗り越えた。

もっとも、本来、プロジェクトをまとめる役割は、通常の「営業」の役割を遥かに超えているはずだ。

「でも、お客様に満足して貰える製品やサービスを提供するのは営業の責任ですから。お客様にした約束は必ず守る。それだけです」

その後、谷口氏は、西部支社(現九州支社)での目覚ましい成果が買われ、本社の流通営業部長に抜擢された。そして、部下の成績を大幅にボトムアップするある作戦を実行する。(以下次号)

本連載は毎週月曜日に掲載します。