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「出戻りOK」の社内ベンチャー制度はアリかナシか?(上)

「気づいたら始めている」位が理想の起業

2014/11/10
NewsPicks内で前月、もっとも話題になったテーマを、「サイボウズ式」とNewsPicks編集部がピックアップ。そのテーマについて、ピッカーや外部の専門家に意見を聞き、より深く、多様な視点を提供するHot Topicsのコーナー。第2回目は、「博報堂DYの社内ベンチャー」の記事 をきっかけに盛り上がった、「社内企業に失敗しても会社に出戻るのは、ありかなしか」についてです。NewsPicksのコメントでは、「セーフティネットがあるので挑戦しやすい」といったポジティブな意見が目立ちましたが、社内起業や起業の当事者は、どう思うのでしょうか?
三菱商事の社内ベンチャー第一号で「Soup Stock Tokyo」を成功させた株式会社スマイルズの代表取締役遠山正道氏と、日本の「女性シリアル・アントレプレナー」の草分け的存在であるiemo代表取締役の村田マリ氏が、議論を戦わせます。社内ベンチャー制度利用者と自力で起業してきた両人の意見は割れるのでしょうか?

優秀な人なら出戻りもウェルカム

――賛否両論のあった記事ですが、特に「出戻りOK」に関しては、「挑戦しやすくなるのは良いことでは?」という意見と、「甘い!」という意見が真っ向から対立する結果になりました。お二方は出戻りOKについてどうお考えですか?

村田:アリだと思います。私はウェブ制作を受託する会社を設立したのち、事業をソーシャルゲーム主軸に転換させ、その事業を2012年に売却しました。その過程で、エンジニアやデザイナーが独立していくことも多々ありました。私としては優秀な人材は応援したい。ですから、引き続き取引を続けたのはもちろん、もしその人材が再び弊社に戻りたいと言ったら迎え入れたと思います。

また、現在代表を務めているiemoという会社は、10月にディー・エヌ・エーに買収され、100%子会社になりました。現在私は、ディー・エヌ・エーで執行役員を兼務していますが、同社は「出戻りウェルカム」の体制です。

遠山:僕も「出戻り」はアリだと思います。ただ、一度出ていった人が今、当時よりもチャーミングになっているかどうかは分からない。そこはちゃんと見極めないとダメだと思います。

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NewsPicks内では、社内ベンチャーについての賛成意見が80%を超えた。

スマイルズ発のベンチャーは「アパレル」と「バー」

――遠山さんが設立されたスマイルズは三菱商事初の社内ベンチャー企業として知られています。しかし、社内ベンチャーの成功例はあまり多くない印象があります。

遠山:実は、三菱商事の社内ベンチャー制度は、スマイルズが出来たあとに作られたんです。その後3つくらいベンチャーが立ち上がりましたが、今はみんな無くなってしまいました。

村田:本来起業家とは、誰が支援してくれるなど関係なく、やりたいことがある人がなるものだと思います。何かに夢中になり、気づいたら没頭して何かをやっていたというタイプの人が多い。

遠山:確かに何かをやりたい人の思いが本気なら、制度があろうなかろうが、扉をこじ開けながらでもやっていく。制度があるから、ベンチャーが生まれるというものではない。

たとえば、弊社のデザイナーの女性は、「中学生の時からの夢だったから」と言って「my panda(マイパンダ)」というアパレルブランドを立ち上げました。スマイルズからも少し出資し、今は彼女の責任で運営しています。

そして今度は若手がこの8月から新宿でバーを始めました。「物件を決めてきました」と事後承諾でね(笑)。強引でしょ? 彼はスマイルズの社員のまま、株式会社エドワードという自分の会社を作り、新宿一丁目に「toilet(トイレット)」というバーを経営しています。この構図は、三菱商事に在籍したままスマイルズを立ち上げた僕と同じスタイルです。

もっとも、アパレルやバーに対する投資は、ビジネスとしての合理性を考えたら疑問を持たれる人も多いかもしれません。しかし僕は、自分の人生と仕事がそのまま重なっているような「自分事」の事業を支援していきたいし、それが会社の強みになればいいなと思っています。
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3年で50人の社長を輩出?!

遠山:スマイルズは、今年からベンチャー推進室を作って起業を奨励しています。また、今年は「全員社長会議」というのを行って、「自分が社長だったら何をするか?」について全社員が丸2日間かけて考える機会を作っています。

村田:会社が仕組みを用意することで、事業をやってみたいと思う人が増えるというのは、非常にいいことだと思います。ただ、博報堂DYの話に戻すと、「出戻りOK」という制度を利用し、「ダメだったら出戻ろう」と考えて出ていく人は、正直、上手くいかないかもしれないなとも思います。たとえ会社が戻ってきてもいいと言っても、「成功するまで絶対に戻りません。ここに骨を埋めるつもりでやります!」というぐらいの気持ちでいないと、なかなか事業は立ち上がらないのではないでしょうか。

遠山:私は、基本的に仕事は上手くいかないものだと思っているんです。Soup Stock Tokyoはスタート当初はフードコストが高く、売り上げが上がっても利益が出るか出ないかは別問題。利益が安定したのは起業して8年目からでした。だから、事業は石にしがみついてでもやりたい「自分事」であることが大切だと考えています。

村田:御社の事業ポートフォリオは、会社が事業計画上決めるのではなくて、熱量がある社員のやりたい事業に出資していく方針ですか?

遠山:そうですね。だから、スマイルズには3カ年計画とかはありません。だってこの先、何が出てくるのか分からないぐらいのほうが、経営をしていて楽しいじゃないですか(笑)。

先日、中途で入社した人事部長に「むこう3年で、新しい会社を50社作りませんか?」と提案されたときはとてもびっくりしました。どちらかといえば、僕はひとつずつ大事にやっていきたいタイプで、Soup Stock Tokyoはもちろん、スマイルズが手がけているネクタイ専門ブランド「giraffe(ジラフ)」も、新しいコンセプトのリサイクルショップ「PASS THE BATON(パスザバトン)」も、それぞれ8年、5年という時間をかけて黒字転換していきました。

でも、3年で50社と聞いて、最初は非現実的かなと思いましたが、今ではそんな明確な数値目標を持つことも楽しそうだと思っているところです。
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(聞き手:佐藤留美、構成:朝倉真弓、撮影:齋藤誠一)

※「出戻りOK」の社内ベンチャー制度はアリかナシか?(下)は水曜日に掲載します。