「AI時代のキャリア」には、3つの生存戦略がある(次世代ビジネス書著者創出)

2022/4/7
「学ぶ、創る、稼ぐ」をコンセプトとする、新時代のプロジェクト型スクール「NewsPicks NewSchool」。
かつて勝間和代を世に出したディスカヴァー・トゥエンティワンの創業社長である干場弓子さんがプロジェクトリーダーを務めた「次世代ビジネス書著者創出」には約30名が参加。
約3ヶ月の時間をかけて、そもそもなぜ書籍を書くのかというミッションの定義に始まる企画の立て方から、構成案、原稿執筆、そして、ブックデザインからタイトル、帯コピーまで、著者の神髄とスキルを干場さんと一緒に学びあった。
今回は、プロジェクト内で優秀賞を受賞し、見事出版までたどり着いた倉嶌洋輔さんへのインタビューを実施。
倉嶌さんの著書「AI時代のキャリア生存戦略」が世に出るまでのストーリーとはー。

AIと出会ったきっかけ

──今回は改めてご出版おめでとうございます。まずは、倉嶌さんについて教えてください。現在はどのようなお仕事をされているのですか?
倉嶌 現在はAIコンサルティングをメインの仕事としています。かつて基幹系情報システムのERPやiPhoneアプリのエンジニアをしていた経験と独学したAIの知見をもとに、ゼネコンやアパレル、物流の顧客にAIを活用したソリューションの企画支援・開発支援をしています。
コンサルタントとして独立したきっかけは、MBA(経営学修士)の取得です。AIへの関心が高まったのも、MBAスクールのビジネスプランコンテストで漫画家の作画を支援するAIのビジネスプランを発表して、ファイナリストになった経験が大きかったです。
今回の書籍の各章に入っている短編漫画を担当した漫画家の齋藤邦雄氏と参加したビジネスプランコンテストの決勝でのプレゼンの様子
ビジネスプランを作る際、AIを理解していなければ信憑性を持って発表することができないので、まずは自分でプログラミング言語のPythonでAIを実際に開発するところからはじめ、数ヶ月かけて、AIとはそもそもどのようにできているかを理解しました。そして、MBA×テクノロジーのスキルをかけ合わせ、現在の仕事に辿り着きました。
──なるほど。本格的にAIに関わったのは、業務というより、MBAの取得過程で自ら理解するためだったと。
そうですね。ビジネスプランコンテストでAIの企画をしなければ、仕組みにまで精通することはなかったかもしれません。ただ、AIを本格的に理解したのはMBA在学中でしたが、もっと前の「AIとの出会い」も重要だったと言えます。
そもそものきっかけは、2015年に表参道のApple Storeで「シンギュラリティから考える未来の働き方」という講演会に出席したことでした。シンギュラリティという言葉をはじめて耳にし、当時はドラえもんのようなイメージを抱いていたAIについて、真面目に考えるようになった出来事でもあります。
加えて、2015年はエコノミストに掲載されたオンラッシングウェーブという、衝撃的な記事を読んだ年でもあります。記事にはAIという大波から逃げ惑う人々が描かれていて、自分も今後どうなるかわからない不安もあり、将来への興味と危機感を抱き、そこから自主的に情報をキャッチアップし始めることになります。

AIを企画し、作るのも人間

──あえて抽象的な質問をさせてください。倉嶌さんの考えるAIとは、どのような存在でしょうか?
個人的には、まるでそこに人がいるかのように機能するテクノロジーは、どれもAIだと考えています。
例えば、自動的に空調で温度を調整するエアコンもAI。人が近づけば勝手に開く自動ドアもAIと言えます。アマゾンのアレクサに「電気をつけて」と頼んでつけてもらうのも、近づいて開く自動ドアも、「人のために機械が適宜アクションを起こしてくれる」という点では本質的には同じなのです。
もちろん、ディープラーニングを駆使して、人知を超えるようなAIもあります。例えば、人類で最も強い囲碁棋士を圧倒するAI(AlphaGo)の登場や、電力の使用状況からフレイル(要介護が必要な一歩手前の状況)の状態を推測する、神業と言えるような段階にまで足を踏み入れています。
このようにレベルは様々あれど、AIをものすごく高尚なものとは捉えていません。AIを企画し、作るのも人間ですし、作り方を工夫しないと精度が出ない。まだまだ万能な存在とはいえません。
──なるほどですね。ちなみに、倉嶌さんが今回、本を書いてまで伝えたかった課題意識とは何だったのでしょうか。一冊本を書き上げるのはかなり大変だと思うので、よほどのことがなければ、筆を取ろうとは思わない気もしていまして。
AIに興味を抱いた2015年、書店を訪れるとAIにまつわる書籍であふれかえっていました。ところが、それらを手に取ると専門的なものが多く、中身はAIの歴史や数式が羅列されているなど、一般向けでない書籍が大半。
さらに、一般読者に必要ないように思える政策提言も含まれていたり、「あなたのキャリアはAIを身につければ大丈夫」と選択肢が絞られており、偏りのある内容ばかりでした。
書店で感じた「これは一般読者向けの本じゃないな」という感覚は、それからも変わらず抱き続けることになります。
私が筆を取った理由も、専門家やエンジニアではない人々も学べる、一般向けのAI書籍が必要ではないか、という問題意識が一番大きいと言えます。
そのため今回は、読者の職業やITへの理解度がそれぞれで異なっていても、「AIとは何か?」を難解な専門用語ではなく、わかりやすく理解できる内容を目指しました。
その上で、「AIを身につけて、身を守る」以外に、「AIを身につけずに、身を守る」選択肢も提示することで対策の敷居を下げることにも注力しました。
その結果、本書をお読みいただいた非IT系の方々からも、「専門性があるのに、とても読みやすい」と好評をいただいています。

低スキル、中スキル、高スキル

──AIへの危機意識を浸透させるという、使命感が突き動かしたとも言えそうです。
そうですね。
書籍では、AI化や機械化の大波が来ているという現状を紹介し、まずどのような波か?という解説から入ります。
その上で3種類の読者を想定し、大きな波に対し、それぞれに最適な生存戦略を提供していくことで、読者が自らの人生を考え直し、現実的な形で再構築するためのサポートになる書籍にしました。
3種類の読者については、低スキル、中スキル、高スキルにわけています。ただ、語弊を招く可能性があるのではじめに断っておくと、低・中・高は波に対する危険度を表しており、波が来た時に低いところにいるほど危険度が高いというメタファーとして高さを使っています。
そのため、低スキルだからといって、必ずしも簡単で価値が低いスキルという意味ではありません。
低スキル人材と言えば、肉体労働や低賃金が連想されがちですが、本書ではマニュアル化できる職業を指しています。コンビニのバイトからマッサージ師、税理士まで、一定のルールに沿って仕事を進める必要がある職業は、年収や学歴にかかわらず低スキルに当たります。
本書では低スキルの職業の方には退避戦略を推奨しています。マニュアル業務のほとんどはAIに代替される可能性が高いですが、AIに奪われないマニュアル業務も意外に数多くあり、本書では25種類を紹介しています。低スキルの人は、AIが進出してこない仕事に退避しようということです。
もちろん、闇雲に「AIに代替されづらいマッサージ師になりましょう」と提唱しているわけでもありません。まずは自身の幼少時代を振り返ってもらい、当時から好きだったことを掘り起こし、本書で提示しているAIに代替されない職業と照らし合わせて、AIに代替されづらい職業への退避を勧めています。
コラムとして、最新の「小学生が就きたい職業ランキング」を取り上げ、これらの職業にはAI耐性の高い職業が圧倒的に多いという話も取り上げています。子どもの頃に就きたかった職業で退避先となり得るものがあれば、そこへ退避しましょう、ということです。
次の中スキル人材というのは、非マニュアル系の業務で一つのスキルに特化している人材があたります。例えば、営業やマーケティング、商品企画などが含まれ、大半のホワイトカラーのビジネスパーソンは中スキルに当たります。
中スキルの方には「ビジネス」「テクノロジー」「クリエイティブ」の中で、専門としている領域を軸足に、別領域のスキルも身につけてマルチスキル人材になる防御戦略を推奨しています。
この「ビジネス」「テクノロジー」「クリエイティブ」は頭文字をとってBTCと呼ばれています。「ビジネス」とは、営業やマーケティング、「テクノロジー」はエンジニア、そして「クリエイティブ」はデザイナーや写真家、動画作家などが挙げられます。これらの領域で2つ以上のスキルに越境すると、コミュニケーションできる部署や相手が飛躍的に増加します。
すると、今まで知り得なかった情報も収集できるようになり、アイデアの幅も広がり、アウトプットの質も高まっていくという好循環ができ、結果的に「あなただから頼みたい」というAIに代替されない、オリジナルのポジション確立に至ります。
私自身がBTCを越境して多くのクライアントに喜ばれている経験をもとに本書では、BTCをどのように越境すればいいのかを具体的に解説しています。
最後の高スキル人材とは、すでにBTCを越境して防御戦略をとっているものの、AIのスキルをまだ身につけていない方があてはまります。彼らには『波乗り戦略』を提示し、AIの定義や原理を噛み砕いて解説しています。
その上で、本書ではAIを使う際に重要なゴールデンサークル理論や、実践的なアイディアーション法の『ディープバリューチェーン』という私自身が実際のビジネスでも使っているオリジナルのフレームワークを紹介しています。AIを使うことが目的になるのを防ぎ、どうすれば投資として効果的なAIの活用ができるのか、AIコンサルとしての経験を活かし解説をしています。

6種類の活動を実施

──倉嶌さん自身は分類されたスキル群の中でどのような変化があったのでしょうか。
そうですね。元々はエンジニア領域のみのシングルスキルの中スキルの分類でしたが、MBA取得をきっかけに高スキルに移り、AIの知見も身につけ、波乗り戦略をとった形です。
ただ、学生のころ、高級ホテルの宴会場のパーティで飲食物を給仕するバンケットスタッフのマニュアル業務や、数年前にもコンサル業の副業としてマニュアル化された通り幼稚園の運動会を撮影する仕事をしたこともあり、全分類を経験したと言えます。
特に運動会の写真の仕事は個人的に非常に楽しめました。動く園児たちをうまく撮影し、その写真を親御さんに購入いただく仕事で、運動会の活気は懐かしく、子どもたちの満面の笑みに元気をもらった思い出があります。
当然、低スキルだからといって価値が低いわけではなく、仕事としての楽しさや仕事としての存在意義を実感しています。こういったマニュアル業務の経験は大きく、今回執筆する際に低・中・高というそれぞれのスキルを、偏見なく解説できたのも、こういった背景が理由にあると感じています。
また、BTCのマルチスキルを活かして、メインのAI関連の仕事以外にも、6種類の活動をしています。
1つ目は、テクノロジーとクリエイティブの領域です。iPhoneアプリのデザイン・開発・販売。8年ほど前、建築士の父のために作った「瞬換」(平米・畳・坪を一瞬で換算するアプリ)を開発したことをきっかけに様々なアプリを作り、今では世界50カ国以上で約10万ダウンロードされています。
2つ目もテクノロジーとクリエイティブとビジネスの領域で、テック系YouTuberとして、テクノロジーの話題や先進的なビジネスモデルをかみ砕いて、非IT系の方にもわかりやすく情報を発信する活動をしています。
3つ目がその派生形で、オンライン学習プラットフォームのUdemyで、より長尺の講義形式の動画を発信しています。
4つ目が、クリエイティブ領域で、自然写真の個展やグループ展の開催になります。
そして、5つ目がビジネスとテクノロジーの領域で、書籍の執筆です。今回の出版以前にも、2年ほど前に、Kindle ダイレクト・パブリッシングで電子書籍(『AIで変革する仕事の未来 集中講座』)を一度出版していました。
そして、最後の6つ目がビジネスとテクノロジー、クリエイティブの領域でのコンサルです。現在は、これらの分野を越境しながら仕事をしています。

中スキル層に読んで欲しい

──改めて、本書で特に伝えたい箇所を教えてください。
本書でも紹介している言葉に、「敵を知り、己を知れば、百戦して殆(あや)うからず」という言葉があります。
社会(外部)で何が起きていて、自分(内部)がどう考えているか、あるいは自分に何ができ、何がしたいかを把握できていない場合は決して少なくないはず。そんな状況から、まず、社会で何が起きているか情報をキャッチアップし、自分の能力や価値観を見つめ直すことで、今後の人生の方向性や、参考になる・あるいは目指すべきロールモデルを見つけられるようになります。
今回の書籍でも、その方向性の参考になるよう各戦略の先行事例と呼べるロールモデルの紹介に紙幅を割いています。
ただ、実は日々の生活の中でもヒントは溢れています。ニュースを見ていても、知り合いとの雑談の中からもアンテナを張っていれば発見はありますし、その積み重ねで将来のビジョンも開けてくるものです。
そういった少し先の将来も見据えて生きた方が、後悔のない人生を歩めると実感しています。将来「こんなはずじゃなかった」と後悔する前に、一度本書を手に取っていただき、人生の指針を再考するのにご活用いただければ幸いですね。
──ターゲットとなる読者層は想定していますか。
自分自身が中スキルだったこともあり、まずは中スキル層に読んでもらえればと考えています。
現在熱中できている仕事があったとしても、その仕事が必ずしも10年後もいまの形であるとは限りません。例えば、本書でも紹介していますが、飲料の商品企画が挙げられます。
飲料の商品企画は味覚が肝心で、五感を持つ人間しかできない仕事と思いきや、すでにAIが台頭し、味を定量化して人気の出る味の予測までできる時代が到来しています。
今後、仕事のやりがいが失われていく可能性もある以上、先んじて自分の人生戦略を考え直してもらう一助になれば嬉しいですね。
(取材:上田裕、構成:小谷紘友)
※後編へ続く