フットボール・インテリジェンス 第1回
データで見る「負けないサッカーチーム」の共通点
2014/11/4
サッカーに正解はない。どんな戦術でも勝てるのがサッカーの魅力のひとつだ。だが、戦術にはその時代のトレンド、そして時代を越えた普遍性が少なからず存在している。本連載ではデータアナリストの庄司悟の分析を通して、ピッチ上の複雑な現象をシンプルに捉えることに取り組みたい。第1回はウォーミングアップを兼ねて、UEFAチャンピオンズリーグを取り上げて「コンセプトマップ」の概念を紹介する。
庄司考案のコンセプトマップ
データアナリストの庄司悟は、チーム戦術のコンセプトをあぶり出すために次のようなマトリックス図に注目している。横軸に「走行距離」、縦軸に「パス成功数」を取って、各チームをプロットしたものだ。これを庄司は「コンセプトマップ」と呼んでいる。
ここに示したコンセプトマップは、今季のUEFAチャンピオンズリーグ(CL)のグループリーグ第3節のデータだ。出場クラブ数は全部で32。勝利したチームのエンブレムを「カラー」で示し、負けたチームのエンブレムを「モノクロ」で示してある。
ちなみに引き分けの場合、アウェーチームを“勝ち扱い”の「カラー」にした。一般的にアウェーなら引き分けで上出来という感覚があるからだ。
もうひとつ捕捉すると、「パス数」ではなく、「パス成功数」を縦軸に選ぶのは、後者の方がより“正確にプレーする意識”を反映しているからだ。適当にパスを出しているチームでもパス数は多くなるが、パス成功数は少なくなる。この軸の選び方によって、横軸でハードワークの度合い、縦軸で正確さの度合いを見られるようになる。
マップを4つのエリアに分類
では、このコンセプトマップから何が読み取れるか? 理解の助けとなるのが平均値だ。走行距離とパス成功数、それぞれについて32クラブの平均値のところに線を引くと、コンセプトマップを次の4つのエリアに分けることができる。
右上:走行距離とパス成功数ともに平均以上
→人もボールも走るサッカー
右下:走行距離のみ平均以上
→人がボールよりも走るサッカー
左上:パス成功数のみ平均以上
→ボールが人よりも走るサッカー
左下:走行距離とパス成功数ともに平均以下
→人もボールも走らないサッカー
イメージをしやすいように具体例をあげると、ブラジルW杯における「ザックジャパン」は右上に位置し、南アフリカW杯における「岡田ジャパン」は左下に位置していた。両者の違いについては、次回以降に詳しく触れたい。
右上のチームは負けづらい
今回掲載したCLグループリーグの第3節のコンセプトマップを見ると、「勝利」したチームが右上に集まっていることがわかる。
これは第3節に限った傾向ではない。(くどくなってしまうので図は割愛するが)グループリーグの第1節と第2節のコンセプトマップも合わせて見ると、「右上のゾーンにいるチームは負けづらい」ということがわかる。
右上(走行距離とパス成功数ともに平均以上)に入ったチームの中で負けたのは、第2節のアスレチック・ビルバオ(対バテ・ボリソフ)と、第3節のリバプール(対レアル・マドリー)とマリボル(対チェルシー)のみ。それ以外ののべ23チームは引き分け以上の成績を収めた。
試合ごとに追うとイメージしやすいので、以下、A組から順番に第3節の対戦と勝敗をコンセプトマップ上に示した(これを組み合わせたのが冒頭の図)。
A組&B組
C組&D組
E組&F組
G組&H組
これらの図を見てもわかるように、「人もボールも走るサッカー」は明らかに今のサッカー界のトレンドである。
ただし、冒頭に書いたようにサッカーの正解はひとつではない。どんな時代にも、トレンドに“逆ばり”することで頭角を現す者がいる。次回の連載では、左下のグループに属する新時代のカウンターサッカーについて解説する。
データ分析・庄司悟、文・木崎伸也
*本連載は隔週に1度のペースで掲載する予定です。また、基本的に無料公開ですが、3回に1回の割合で有料会員のみ閲覧できる有料コンテンツ扱いとなります。