テレビイノベーション

「コンテンツの小ピース化」の大きな潜在性

TV番組をバラバラにすると、バラ色の未来が訪れる

2014/11/3

コンテンツの拡散が可能になる

いよいよ、テレビの見逃し視聴サービスが動き始めた。日テレに続きTBSもドラマやバラエティー番組の無料見逃しサービスをスタートしたのだ。

この見逃し視聴サービスには多くの可能性があるが、その中でも画期的なのは、番組をバラバラにしてしまう、いわゆる「コンテンツの小ピース化」だ。具体的なイメージを、例をあげて説明しよう。

仮にドラマ『半沢直樹』が見逃し視聴サービスで提供され、ユーザーが例の名ゼリフ「倍返しだ!」のシーンを見たいと思ったとしよう。その時、プラットフォーム側がメタデータを動画と連動させておけば、ユーザーが見逃し視聴サイトで「半沢直樹」、「倍返し」などのキーワードで検索した場合、そのシーンが検索結果として表示される。そこに表示されているURLをクリックすればそのシーンに飛べるのだ。

さらに、プラットフォームの機能として、タイムコード(映像の1フレームごとにふられた時間情報)をベースにしたURLを指定できるようにしておく。すると、ユーザーがTwitterやLINE、Facebookなどで「半沢直樹のこのシーンがよかった」などと書き込む際、そのURLも一緒に書き込めば、見逃し視聴サイトへのリンクが貼られる。それを見た他のユーザーがそのリンクをクリックすれば、そのシーンがすぐに見られる。

新たなコンテンツ価値の創造

しかし番組制作者にとってみれば、番組をバラバラにして細切れに視聴されるのは、不本意で不愉快なことだろう。番組制作者は、番組の冒頭で視聴者の関心をどうやってつかむのか、それをどうやって展開し、面白さや感動を伝えるかなどについて、非常に細かいところまで、考えに考え抜いて作っている。

こうして苦労して作った番組は、1本を丸々全部見て欲しいと思うのは当然だし、私自身もかつては番組を制作する立場にあったので、その気持ちはよく理解できる。

しかしながら、話題のシーンを見たい視聴者・ユーザーからすれば、見逃し視聴が番組単位でしか見ることができないと、番組全体からその話題のシーンを探し出さないといけない。これは大変な手間だ。探すのが面倒だとユーザーは途中であっさりと離れてしまう。

そもそも今のユーザーは、楽しむのに時間がかかる重たいコンテンツは嫌う傾向にある。音楽も、CDを買ってアルバムの全曲を聞くのでなく、好きな曲だけをダウンロードするようになった。音質も多少悪くてもあまり気にしない。

ゲームも、家でテレビにつないで使うゲーム機より、いつでもどこでも持ち歩いているスマホで、ちょっと手が空いた時間にお手軽に楽しむようになった。

ニュースも、かさばる新聞を電車の中で読もうものなら周囲から迷惑そうに睨まれる。そういえば最近、電車の中で新聞を読む人をめったに見なくなった。その代わりに、ネット上に溢れる膨大な記事の中から、自分の関心のある記事を自動的に集めてくれる、ニュースアプリを使ってスマホでニュースを読むようになっているのだろう。

テレビ番組も1時間もかけて全部を見るのでなく、ネットで話題のシーンや興味のあるシーンだけを見たいと思っているユーザーは多い。そうしたユーザーの要望に応えられるようになるのだ。

この「コンテンツの小ピース化」は、新たなコンテンツ価値の創造だと考えるべきだ。今までは番組1作品ごとのコンテンツ価値しかなかった。しかし番組をバラバラにすることで、小ピース化したシーン毎に新たなコンテンツの価値が付加されるのだ。

新たな視聴習慣の誕生

よく「テレビはつまらなくなった」などといわれる。しかし実際には面白い番組もあるはずなのに、単にそれを見るチャンスが減っただけではないだろうか。

未知の面白い番組に出会うためには、放送している時間にたまたまテレビを見ているか、たまたま運良く録画しているしかない。つまりテレビをダラダラとつけっぱなしにして見てもらう必要がある。

ところが今の視聴者は、ゲームやレンタルビデオ、SNSなど他に楽しむことが増え、テレビを見る時間が少なくなっている。つまり面白い番組に出会う機会が減ってしまったのだ。しかし他の人が見つけてくれた、面白い番組や面白いシーンを簡単にピンポイントで見られるようになれば、状況は大きく変わるだろう。

小ピース化された番組が楽しめるようになれば、今までテレビ番組を見られなかった時間、例えば通勤通学途中や、ちょっとした休憩タイムにでも、気楽に視聴できるようになる。

SNSの「この番組であのタレントがこんな面白いことを言っていた」などの書き込みが、クリックひとつで視聴につながる。これまでテレビとは無縁だった時間や場所で、面白い番組やシーンの視聴機会を生み出せば、テレビ放送のリアルタイム視聴につながる可能性は十分ある。

テレビ視聴に、これまでになかった新たな視聴スタイルが加わるのだ。

これは、テレビのメディアとしてのパワーが強化されることを意味する。視聴者もテレビ局も、番組に関わっている権利者もスポンサーも、全てがハッピーになる。

インターネットのサービスに慣れてしまったユーザーから見れば、特段目新しくない機能やサービスかもしれないが、テレビ側からすると、実はこれは革命的な変化と言える。テレビ番組をバラバラにすれば、テレビの未来はバラ色になるのだ。

※本連載は毎週月曜日に掲載します