2022/3/14

人手が足りなくても契約管理は“効率化”できる

NewsPicks Brand Design editor
「契約書」は企業にとって重要なもの──。
この“当たり前の事実”に、あなたの会社は真に向き合えているだろうか。

適切に管理し利活用できれば企業の資産となるのが契約書だ。しかし、その管理が不十分なことによって、事業がリスクに晒されることも少なくない。

契約書を放置することで起こるリスクとは何か。そして契約書を一元管理し検索可能なデータとして利用できると、企業はどう変わるのか。

AIがあらゆる契約書を自動管理する「LegalForceキャビネ」の導入事例から明らかにする。

「事業を揺るがすリスク」が放置されている

 今、多くの企業で契約書が「埋もれたまま」になっている。
 リーガルテック分野で急成長中の株式会社リーガルフォースが実施したアンケートでは、自社で管理している契約書の内容を「すべて把握している」と答えた契約管理担当者は13.5%。
 また、契約書を扱った経験のある1,000名のうち、47%が「契約書をすぐには取り出せない」、または「問い合わせが必要」と回答した。
 つまり、多くの企業で自社がどのような契約を締結しているのかを把握しきれておらず、契約書が必要なタイミングですぐに取り出せなくなっている。
 これの何がまずいのか。
 リーガルフォースの大河内健一氏は、「少なくとも、必要な時に契約書の中身をすぐに参照できる体制を整えておかないと、ビジネス上のリスクを負う可能性がある」と指摘する。
「例えば、契約書に『競業避止義務』に関する条文があるとします。これは、自社が、取引相手と競合する事業を行うことを制限されうるものであり、経営に大きな支障をもたらす可能性がある条文です。
 新規事業を開始する際に、既存の契約内にあるこの条文の存在が把握できずに違反した場合、すでに確定していた条件の再交渉が必要になったり、既存事業が停止したりする可能性があります。
 そこで私たちは、必要な契約書や条文をすぐ参照できる体制を実現するために、『LegalForceキャビネ』を通じて、契約管理フローの効率化や体制構築をサポートしています」(大河内氏)
「LegalForceキャビネ」とは、PDF化した契約書をアップロードするだけで、契約内容がデータ化され、必要な契約書や条文の検索や、台帳の自動作成ができる「AI契約管理システム」のこと。
 2021年のローンチ以降、大手企業から小規模事業者まで300社以上の導入実績があり、その数は年々増え続けている。
「極端な話、管理業務の担当者が、自社で交わしたすべての契約の権利・義務を把握できている状態が『理想的な契約書管理体制』。
 しかし、ツールのサポートなしで実現できるのは、リスク管理部門のような専門部署を設けられる一部の大企業だけです」(大河内氏)

一足飛びで「理想の管理体制」を叶える

 実際、契約管理業務は多くの企業でコーポレート部門のスタッフが掛け持ちするケースがほとんど。
 特に小規模な企業では余力のないなか「紙の契約書を一箇所にまとめる」ことで精一杯だ。
 では、限られた人的リソースのなかで、効率的に契約書管理体制を構築するためにはどうすればいいのか。
「『①一元化』、『②全容把握』、『③改善』、この3つのステップを意識すると良いでしょう」(大河内氏)
 まずは紙の契約書をデータとして一元化し、必要に応じて契約書を探し出せるようにする。これが最初のステップ。
 次が「全容把握」。契約書の重要な条文や契約期限などを管理担当部署が把握し、トラブルを未然に防ぐことができる状態。
 最後に「改善」。実務において、契約リスクが潜んでいないかを確認し、必要であれば業務の改善を行う。あるいは、不利な条件で契約が締結されていれば、取引先と再交渉する。
「改善のステップまで進めるのが理想的ですが、手前の全容把握までいければ、企業の契約管理体制としては十分です。
 従来は、契約書をすべて読み返さなければ内容の把握ができませんでしたが、LegalForceキャビネを使っていただければ、PDFファイルをアップロードするだけで『全容把握』まで一足飛びに管理体制を構築できます。
 特に管理業務に時間を割けない企業にこそ、活用してもらいたいですね」(大河内氏)

「記憶頼み」の条文検索から卒業できた

 では、LegalForceキャビネを導入すると、実際に契約書管理業務がどのように変化するのか。
 九州大学やハーバード大学からライセンスを得た技術を使い、有機ELディスプレイや照明に用いる次世代の有機EL発光材料の開発、販売を行うグローバルベンチャーであるKyulux。
 法務担当の池田紀子氏は、次のように話す。
「弊社は海外子会社があり、また契約書の保管を各事業部で行っているため、契約書をどう一元化して管理するかが課題となっていました。
 LegalForceキャビネの導入によって契約書の一元管理が実現し、さらにキャビネでは管理台帳のダウンロードができるため、事業部から特定の業務に関連した『契約書のリストが見たい』と問い合わせが来ても、すぐに対応できるようになりました」(池田氏)
 KyuluxではLegalForceキャビネの導入前から、海外子会社に関する契約書も含めてPDF化し、社内のクラウド上で管理していた。
 しかし、データの置き場所は定まっているものの、検索性に課題を感じていたという。
「クラウドで管理しているとはいえ、契約書管理に特化したサービスではないので、当然、検索性もよくありません。
 それこそ記憶を頼りに『あの条文はあの契約書に書いてあったはず……』と、目的の契約書を探すのが常でした。
 LegalForceキャビネでは契約書の内容がすべてテキスト化されるので、条文単位での検索も瞬時に行えます。これにより、契約書を参照するスピードが格段に上がりました」(池田氏)
LegalForceキャビネで「損害賠償 上限」のキーワードを全文検索した例。アップロードした契約書は全文テキストデータ化されるため、契約書に含まれる単語から契約書を検索できる。
 この検索性は、Kyuluxが今後視野に入れる、海外でのIPOに向けた準備にも活かされる見込みだ。
「上場に備えるプロセスでは、社内書類を開示する機会も増えます。そのなかでも契約書は特に重要な書類のひとつ。
 アメリカのIPOを例にすると、重要書類の開示はもちろんのこと、その書類がきちんと管理されているかも問われます。
 これまで、LegalForceキャビネを導入して積極的に管理体制を整えてきたのも、IPOに向け先手を打つ意味合いもあります」
istock/Pheelings Media
 またKyulux法務部では、LegalForceキャビネの高度な検索性能を新規の契約書作成にも活用している。
「例えば、特定の条文やキーワードで検索をかけると、どの契約書でその文言がどのように使用されたかが横断的に確認できます。
 そして、それらの文言が弊社にとって有利・不利であったかなどを見比べることにより、条文を戦略的に練り上げられるようになりました。
 以前なら、こうした仕事のやり方は工数が増すので手がつけられなかったのですが、LegalForceキャビネの導入で業務の広がりを感じています」(池田氏)

「乗り換えコスト」はこわくない

 Kyulux同様、契約書管理体制構築に課題を抱える企業は少なくない。
「波動制御技術(※)」を用いたプロダクトの社会実装を行うピクシーダストテクノロジーズ(以下、PxDT)もそのひとつ。
 同社で知財と法務を管掌する木本大介氏は、LegalForceキャビネ導入以前の景色についてこう振り返る。
※音・光・電磁波等のあらゆる波動によって計測・制御する技術
「以前はPDF化した契約書をスプレッドシートで管理していました。プログラムを組み半自動化するなど工夫して、しばらくはこの体制で回せていましたが、会社の成長に伴い契約書の数が増え、限界を感じていました」(木本氏)
 PxDTのように、管理業務を担当する人的リソースは少ないながらも、スプレッドシートなどを活用し、しっかりとした契約書管理ルールをもとに管理業務を回せている企業も少なからずある。
 しかし、すでに基盤ができているからこそ、新しいツールを導入する際にネックになるのが「乗り換えコスト」だ。
 オペレーションの再構築や移行期間の長期化を懸念して、ツールの導入を躊躇する企業も少なくない。
 PxDTもその点は気がかりだったが、LegalForceキャビネ導入にあたっては「まったくの杞憂だった」と木本氏は語る。
istock/brijith vijayan
「LegalForceキャビネを使ってみてまず魅力に感じたのは、データ移行の手軽さです。
 乗り換えの際は現場の混乱を避けるため、少しずつデータをアップロードしましたが、それでもドラッグ&ドロップで簡単に移行でき、導入から1週間後には管理業務が回せていたので助かりました」(木本氏)
 LegalForceキャビネの導入により、スムーズに新体制へと移行できたPxDT。導入後、最初に恩恵を感じたのは、管理業務の効率化だ。
 以前の管理体制では、契約の日付などの重要な情報だけは法務知識のあるスタッフが入力し、その後、事務スタッフがチェックしていたため、入力業務に最低でも2名のリソースが取られていた。
 しかし、LegalForceキャビネ導入後は、重要な情報も自動で整理され、事務スタッフだけで契約書の取り込みから登録作業まで回せるようになったという。
「こうした工数の削減ももちろん魅力なのですが、管理体制を構築し業務を進めるなかで一番よかったのは『作業が止まらなくなった』ことです」(木本氏)
istock/kazuma seki
 例えば契約書の参照が必要なシーンにおいて、従来であれば2〜3人が関わっていたので、他の仕事が忙しい状況などでは、どうしても手止まりが起きてしまっていました。
 しかし、LegalForceキャビネ導入後は、高速道路を走るように契約書の登録から検索・閲覧までの道筋がスムーズに接続されています。
 人的リソースだけでなく、脳内リソースも割かずに済むので、非常に助かっています。
 ただ、欲を言えば、弊社のようなスタートアップは頻繁に組織変更を行うこともあり、アクセス権限などの細かい部分を調整できれば、もっとLegalForceキャビネを使い倒せると思います」(木本氏)
 こうした要望に対し、PxDTのカスタマーサクセスを担当する、リーガルフォースの高澤周氏は、LegalForceキャビネの今後の展望と併せてこう語った。
「LegalForceキャビネのローンチから1年が経ち、クライアント様から様々なご意見が寄せられています。そのなかでも、アクセス権限追加の件は多くいただいていて、今後の開発を予定しています。
 現状、LegalForceキャビネは契約管理業務の効率化を実現するサービスですが、弊社は『LegalForce(AIレビューサービス)』も展開しているので、そちらで培った知見を最大限に活かして、研究・開発を進めています。
 締結後の契約に潜むリスクを自動で検知できる機能の実装など、最終的には契約書から『リスクの制御』ができるサービスに成長させていきたいと考えています」(高澤氏)