2022/3/15

「英語+α」の学びがあなたの市場価値を底上げする

NewsPicks Brand Design Editor
 これまで海外でMBA(経営学修士)をとることは、グローバルなキャリアを目指す際の有力な方法のひとつだった。
 ところが今、日本で働きながらでも、会計、ビジネス、ITなどの知識を「英語」で身に付けられるとして、特に若手ビジネスパーソンから注目される資格がある。
 それが、米国各州が認定する公認会計士資格「USCPA」だ。
 では、海外MBAとUSCPAはそれぞれどんな人が取得すべきなのか。学位や資格を生かしてグローバルなキャリアを築く方法とは。
 米ハーバード・ビジネス・スクールでMBA を取得し、現在はパロアルトインサイトCEO・AIビジネスデザイナーとして活躍する石角友愛氏と、USCPAを取得し、デロイト・トーマツ オーストラリア法人での勤務経験を持つ英語系YouTuber・ATSU氏が意見を交わす。
INDEX
  • なぜ日本で「米国公認会計士」が注目されるのか
  • 国内にいてもグローバルキャリアは目指せる
  • ビジネスの必須スキル「具体と抽象」の行き来
  • AI時代に生き残れるのは「学び続ける人」

なぜ日本で「米国公認会計士」が注目されるのか

── グローバルなキャリアを目指す方法として、石角さんが取得したMBA(経営学修士)、最近では、ATSUさんが取得したUSCPA(米国公認会計士)も注目されています。
石角 私は10年ほど前に米ハーバード・ビジネス・スクールでMBAを取得しました。
 ご存じの人も多いと思いますが、MBAは経営学の修士号です。
 大学の経営学で学ぶ内容をさらに応用し、事業戦略やマネジメント、財務・会計、マーケティングなど、ビジネスや経営に関わるさまざまな知識を2年かけて学びます。
 国内にもMBAを取得できる場はありますが、グローバルなキャリアを目指す人であれば、海外大のMBAを取る場合が多いでしょう。
ATSU 私が取得したUSCPA(米国公認会計士)は、その名の通り米国各州が認定する公認会計士資格です。
 米国以外からでも簡単に受けられるのが特徴で、私自身も数年前に日本で受験しました。
「会計士」という名前はついていますが、会計のみならず、ファイナンス、IT、マーケティングなど幅広いビジネス知識を学べるのがポイントです。
石角 私の義理の妹もUSCPAを取ったので、身近に感じる資格の1つでした。お話を聞くと、MBAのようにビジネスの応用的な知識が身につきそうですね。
ATSU 海外で会計士として働くという目的ではなく、ビジネスの知識を包括的に取り入れるスキルアップの目的でUSCPAを受験する人も少なくありません。実際、合格者には会計初心者も多いと聞きます。
 また、USCPAの取得に必要な学習時間は約1,000時間。
 1日3時間の学習で1年程度と計算すれば、日本で働きながらでも目指せる。これも挑戦しやすいポイントでしょう。
石角 MBAは毎日フルタイムで大学に通って原則2年間かかりますから、仕事との両立は難しい。
 義理の妹も、急遽アメリカに行くことになり、短期集中でUSCPAを取得しました。費用もそこまでかからないので、始めやすい、とも。
ATSU そうですね。独学で勉強できるので、必要なのは受験料の30万円程度。
 効率的に要点を解説してくれるスクールに通う人も多いのですが、それでも60万~90万で取得できます。
石角 MBAとはかかる費用の桁が違いますね。
 学校側が奨学金などを支援してくれるケースも多いとはいえ、海外のMBAに進む場合は生活費もかかるので、1000万円近くかかることもザラです(苦笑)。
 現地でのネットワークができる、講義の合間に短期インターンにチャレンジできる、などのメリットはたくさんありますが、より気軽に挑戦しやすいのはUSCPAですね。

国内にいてもグローバルキャリアは目指せる

── そもそも、なぜお二人はMBAやUSCPAを取ろうと思ったのですか?
石角 2つ理由があって、1つは世界の一流と呼ばれる場所で学んでみたかったから。
 もう1つは、その学びをもとに、グローバルで働くことも含めてキャリアの選択肢を広げたかったからです。
 私はアメリカの大学を出た後、日本で起業しました。
 ありがたいことに事業は順調でしたが、3年経ったタイミングで事業を続けるべきか、一度リセットして視野を広げるべきかと考えるようになりました。自分には圧倒的にビジネスの知識が足りないな、と。
 いろいろ迷った末に、MBAを選びました。明確なキャリアプランはなく、とりあえず飛び込んだかたちです(笑)。
ATSU 「とりあえず」でMBAに入れるのはすごいです(笑)。私は昔から英語が大好きで、自然と海外でのキャリア形成に興味を持ちました。
 就職活動中はグローバルに働ける企業を、と検討もしましたが、日本の商社や外資コンサルファームの日本法人に入れば、当然英語圏以外の国の担当になることもある。
 とにかく英語を使って仕事がしたかったので、直接英語圏で就職しようと決心しました。
 ですが、何の武器もない状態では、現地面接の突破は難しいし、就労ビザの認可も下りにくい。
 そこで、なんとか大学在学中にUSCPAを取得し、監査法人のデロイト・トーマツ オーストラリア法人に入社することができました。
石角 ATSUさんは、もともと会計に興味があったのですか。
ATSU 商学部だったので興味がなかったわけではありませんが、USCPAを取得したのは、「英語+α」の専門スキルが効率よく身につけられるという魅力からですね。
 先ほどお話ししたように、日本でも受験できるし、米国弁護士など他の国際的な資格と比べて比較的短い勉強時間で取得できる。
 自分にとっては「一石三鳥」の資格だったんです。
石角 非常に戦略的ですね。日本にいながらでも、グローバルキャリアは目指せると。
ATSU 実際、USCPAは日本でも外資系の企業や、社内で英語を使う機会の多い企業の人が多く受けていると聞きます。
 ビジネスで英語を使うとき、語学力だけではなく、その背景にあるビジネス知識を英語で学んでいたほうが、コミュニケーションのクオリティは圧倒的に高まりますから。
石角 グローバルにビジネスを展開する企業なら、日本にいても英語でリサーチをしたり、コンタクトを取ったりする機会は多いですからね。
 私も外資コンサルの日本法人でインターンをしていた経験があるのでわかります。
「学位や資格は本当にキャリアアップに役立つのか?」という議論もありますが、私の答えはYES。
 私自身、MBA卒業後はグーグル本社に入りましたが、その際に学位や資格は海外で就職活動を行う際の大きなアピールポイントになると感じましたし、その学びは今でもかなり役立っています。
 グローバルなネットワークを使いこなし、円滑なコミュニケーションが取れる能力を身につけるという意味で、海外のMBAや国際資格であるUSCPAを学ぶ意義はありますね。

ビジネスの必須スキル「具体と抽象」の行き来

── とはいえ、母国語以外で何かを学ぶのはハードな印象があります。
石角 私自身は、高校・大学と留学経験があったので、英語で授業を受けることについては、そこまで心配していませんでした。
 ですが、実際の授業は「超」が何個もつくほど大変でしたね(笑)。今振り返っても自分に「よくやった!」と声をかけてあげたいくらいです。
 座学はほとんどなく、世界から集まったエリートたちとともに、90分ひたすらビジネスに関するディスカッションをする。それを1日に3回も4回も繰り返すわけです。
 きちんと自分の意見を持つためには、倍以上の時間を予習に注ぐ必要があるので、ビジネスに関する知識が2年間で一気に叩き込まれました。
ATSU  私も英語自体は好きだったので頑張るつもりでしたが、最初にUSCPAの分厚いテキストを見たときは威圧感を覚えました。
 USCPAには「財務会計」「企業経営環境・経営概念」「監査および諸手続き」「諸法規」という4つの試験があります。
 いざ4冊分のテキストをドサッと目の前に置かれると、本当にこれを全部覚えられるのかな、と。
 ただ、語学に関してはそこまで心配しなくて大丈夫です。
 私は独学でしたが、日本語で講義やテキストをサポートしてくれるスクールもありますからね。
 実際に勉強を始めると、ビジネスを考える上で必要な知識を網羅的、かつ体系的に学べるので、どんどんのめり込んでいきました。
 日本の簿記試験は「どう会計処理をするか」の手法にフォーカスしますが、USCPAは「そもそも会計とは何か」「財務諸表は何のためにあるのか」と概念の説明から入り、その後に会計処理を学びます。
 授業で習った経営やビジネスの断片的な知識が、一気に脳内でつながって、整理された感覚があります。
石角 全体像を掴んだ上で、各論をインストールして使いこなす。MBAで学ぶケーススタディにも通ずる部分がありますね。
 ケーススタディとは、実際にあった経営課題をもとに、議論を通して打ち手をディスカッションする勉強法です。
 当然、現実のビジネスと同じで正解はないので、与えられた条件や集めた情報をもとにその時々でベストな意思決定を導き出す必要があります。
 ここで重要なのが、抽象的な知識と具体の打ち手を行き来する力。打ち手だけをいくら知っていても、体系的な知識がないと効果的な戦略は描けません。
ATSU それはデロイトに入社してから、私自身が実務で強く感じた部分でもあります。
 USCPAでビジネスの抽象的な概念を学んだからこそ、クライアントに単なる会計監査にとどまらないアドバイザリーができました。
石角 具体と抽象が大事、とはいっても、実践できているビジネスパーソンはあまり多くないですからね。どちらか一方が得意な人は多いですけど。
 もちろん、現場の経験を積むのも重要ですが、MBAやUSCPAのような勉強を通して、両者の行き来を学ぶのは有効なアプローチでしょうね。

AI時代に生き残れるのは「学び続ける人」

── 資格や学位に魅力を感じつつも、なかなか一歩踏み出せないビジネスパーソンも多いです。ぜひ後押しのメッセージをお願いします。
石角 すべての職業に当てはまる話ですが、今後AIが発達するとジョブは二極化すると言われています。
 エンジニアリングやデザインなど、いわゆる「ハイスキルジョブ」と、顧客とのラストワンマイルをつなぐ販売員のような「ロースキルジョブ」。
 高度なスキルは不要でも、ビジネスに欠かせない仕事です。
 反対にその間にある、事務処理やマネジメントなどの「ミドルスキルジョブ」は淘汰されていく、と。
ATSU  デロイトにいた頃に、同僚と「会計士はAI時代になくなる仕事か」と話をしたことがあります。
 石角さんが今おっしゃったミドルスキルジョブのように、会計処理をするだけならば機械でも代替できる。
 でも、クライアントの置かれた状況やコンテクストを理解して、どんな会計基準を適応するかをアドバイザリーするのは、私たちならではの付加価値だよね、と。
 先ほどの「具体と抽象」の話とも通じますが、結局、こうしたスキルは学び続けることでしか得られないんですよね。
石角 そう思います。私自身もMOOC(特定の専門分野を、インターネットで集中的に学ぶオンライン講座)で学び続けていますし、学び始めるか迷っている人に対しては必ずチアアップしています。
 人生は、限られているようで長いもの。ぜひ一生生きる学びを手に入れてもらえたら嬉しいですね。