時代遅れの大学教育に、ティールが突きつけた挑戦状

2014/10/28

大学教育は高すぎる。時間の無駄だ

ティールが手がけるプロジェクトで議論を読んでいるのが、ティール・フェローシップだ。これは、若者が教育を無視して起業に集中できるように、毎年20人にそれぞれ10万ドルを2年にわたって提供するというプログラムである。
このプロジェクトは、米国の教育制度に対するティールのかねてからの批判を反映している。多くの極めて聡明な人にとって大学教育は高すぎて、時間の無駄であり、何の結果も生まないというのがティールの持論だ。
「私自身がそうだった。自分の人生をどうしていいかわからず、大学に行って学位を取得する。取得した大学の学位で何をしていいかわからないので、大学院に行く。私の場合はロースクールだった。ほかに何をしていいかわからないときにそうするのは昔からよくあることだ。私はひどく後悔しているわけではないが、もう一度やり直せるとしたら、当時よりもっと将来についてよく考えるだろう」。

プロジェクトでなく、個人のポテンシャルに投資

フェローシップを立ち上げて以来、インドや中国からの応募もあり、これまでに起業家を目指す若者83人が奨学金を受けた。今年は600人から応募があったが、アメリカの教育関係者からは非難の声が上がった。ティールはこう反論する。
「これほどの反発は予想していなかった。20人の才能ある者が大学に行かずに別のことをするというだけで教育システムが脅威にさらされるとしたら、それは教育制度が極めてぜい弱であることを意味する。私が言っているのは、才能のある者すべてが大学に行く必要はない、才能のある者すべてがまったく同じことをする必要はないということだけだ」
この奨学金は個々人のポテンシャルに対して授与されるものであり、特定のプロジェクトを対象にしたものではない。しかしフェローたちは、ロボットから公衆衛生の分野まで、すでにさまざまな分野で数多くの成果を上げている。
その中には、利用者の体調に応じて補助の強さを変える歩行器と車椅子のハイブリッドや、電気のない農村社会にきれいな水を提供する一方で太陽電池パネルを最適化する低コストのメカニズムや、銀行で顔を検知し認証するソフトウエアシステムなどが含まれる。

ハーバード、MITを中退した2人の起業家

私は2人の若いフェローに会った。20歳のコナー・ズウィクは、高校生のとき、授業の復習を支援するモバイル用アプリを開発して10万ドル余りを売り上げた。その後ハーバード大学に進学したが、ティールの講演を聞いてフェローシップに応募し、大学を中退した。
それ以降、彼はスマートフォン向けのゲーム用インターフェースを開発する企業を創業し、売却した後、今度はパートナーと共にパーソナル化された学習ツールを構築する別の企業を創業した。
やはり20歳のローラ・デミングは、ティールにとって特に大切な分野に取り組んでいる。デミングは子どものころから加齢に関連した病気に関心があったと言う。
12歳の時に著名な分子生物学者で生物老年学者のシンシア・ケニヨンの研究室で働き、同時に「加齢関連疾患の治療において加齢プロセスをターゲットにする方法を学ぶために」大学院の生物のコースを履修した。
15歳でマサチューセッツ工科大学(MIT)に入学したが、2年後に中退し、ベンチャーキャピタルファンドを立ち上げ、加齢関連疾患の治療法の開発に専念しているバイオテクノロジーのスタートアップに投資するようになった。デミングは、いずれ死を「治癒する」ことは「不可能ではない」と語る。
次回へつづく。
(執筆:Mick Brown記者、翻訳:飯田雅美)
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